入浴はじめました
「まず、お風呂は…こっちと、こっち。週替わり、で、男女…入れ替わる。」
「なるほど。赤が女性、青が男性だよね。」
ラルゴがまずお風呂に連れてきてくれた。
2色の暖簾がかかっていて、その先は少し薄暗いのでここからは奥がよく見えないようになっているらしい。
お風呂の男女間違えて…というのは王道イベントではあるけれど、流石にこの世界でやったら命の危険さえあるし、ずっと一緒に暮らしていくんだ。気まず過ぎる。
気をつけよう。
「午後の、2時から3時は…掃除。だ、から…入れない。」
「オッケー。ありがとう。」
どこか得意げなラルゴは可愛らしい。
…いや俺は別にそういうのじゃないですよ!!ただこう、そう、萌えとか尊いとかそういうやつですよ!!!
何者かに責め立てられそうな気がしたので慌てて心の中で否定する。
「つぎ…せんたくもの。ラルゴ、いつもいるおへや、に…持ってきてくれたら、いい。」
「名前とかは?書いた方がいい?」
「それぞれの、かご、ある。名前のとこ、入れておいて。…乾いたら…おへやのまえ、置いておく。」
洗濯室のカゴに入れておけば洗濯してもらえる世界って最高かよ!有難いことだ。でも…
「それって、ラルゴひとりで大変じゃないか?」
衣類も多くなれば重たいだろうし、量も多いはずだ。
いくら竜人とはいえこんなに幼くて非力そうな腕では心配だ。
「…ひとり、じゃない。それに、ラルゴ、いま、しゅぎょうちゅう。がんばる。」
表情変化の小さいラルゴだけど、ちょっと顔がきりっとしている。
ジト目も心無しか輝いている。
そっか、子供とはいえギルドの一員だし…ひとりじゃないなら、俺の大きなお世話だったのかも知れないな。
「…そっか!俺も多分、修行中だし、一緒に頑張ろうな!」
「ん…いっしょ。だね。……ラルゴ、おふろ。オトハは?」
ぐっとガッツポーズを作って返してみたがラルゴはふいっと俺から顔を背けてしまった。
…嫌だったか?
でもいっしょ、というラルゴの声からはあまりマイナスな雰囲気を感じ取れない。
ただお風呂に行きたくなっただけなのかも。
「じゃあ、俺もお風呂にするよ。」
「…たおる、おふろばに、ある。じゃあ、またあした。」
「うん!ラルゴ、ありがとな!じゃ、おやすみ!」
僅かに声の小さくなったラルゴ。
読めたぞ、おなかいっぱいで眠くなったんだな?
それなら引き留めるのも気が引ける。
案内をしてくれたお礼を言って、さっそく青い暖簾のお風呂場へと足を進めることにした。
薄暗いけれど足元に明かりが見える。電気というより発光する石のようだ。
それを辿ると明かりが見えてきた。
長めの暖簾をくぐるとすぐに脱衣所だった。
服を入れるカゴに白いタオル。離れた所に鏡もある。
完全に銭湯や温泉のようだ。
早速服を脱いでカゴにしまい、小さなタオルを持ってそっと奥の扉を開けた。
「…おお……」
バウちゃんのような体の大きなメンバーもいるくらいだからと考えていたけれど、風呂場は想像を超えて大きい。つい声が出てしまった。
脱衣場に俺以外の服がなかったし、想像通りその大きな風呂場は貸切状態だった。
とりあえず体を洗うためにシャワーの元へ。
ほんとに温泉や銭湯みたくいくつもシャワーが並んでついている。
これも魔法……?
それとも科学も発展しているんだろうか?
まぁ異世界人がたくさんいるならその可能性も全然あるだろう。
シャンプーやボディーソープはハーブの匂いっていうのかな。
甘過ぎず、さっぱりしたいい匂いだ。
「ふぅーっ……よかったぁ…こっちの世界にも浴槽の文化があって……」
やることをやってゆっくりと大きな浴槽に浸かる。
浴槽は木で出来ているようだ。
温かさもちょうど良くてほっとする。
タオルを頭に乗せて目を閉じる。
誰も来ないのは、さっきの飲み会のせいかもしれないな。
いつでも入れる訳だし、急いで入る必要はないもんなあ。
…俺もそのうち一杯やりたい。
俺は結構お酒飲めるんだぞ!
まぁ、お酒と言っても甘いのが好きだけど。
「そのくらい、みんなと仲良くなれるといいなぁ…」
そんな願いがぽろりと口から零れた。
そういえば俺のいない世界はどうなったのだろう。
母さんと父さん…心配するのかな…
同僚や上司に迷惑はかかっていないのかな…
帰りたいわけじゃない。ただ少し気になった。
でも…
「俺の代わりはいくらでもいるんだ。」
……ひとりのお風呂は良くない。
色々考えて、色々言ってしまう。
両手でぱしん、と顔を叩いて立ち上がる。
明日も早い。そろそろ上がって、もう寝よう。




