シーン8/ブレインストーミング
こんばんは、お読み下さりありがとうございます!今夜はシーン8,9,10を連投します。よろしくお願い致します!
「再生と言ってイメージするものを言ってみて」
「んー?区画整理」
「都市再生プロジェクトかよ」
「批判は無し、とにかく思いついたことをぽんぽん言ってくれ」
琳さんは掌ほどの大きさの付せんとペンを持っている。一枚の付せんに『区画整理』、もう一枚に『都市再生プロジェクト』と書くと壁に貼った。
「それから?」
俺たち、俺と月輝雨と陽太とアリス、そしてカインとグエン。全員が付せんを貼られた壁を眺める。教会の住居部分の一室は、7名入っても左程狭い感じがしない。部屋にモノが少ないせいもあるが、がらんと広い。壁はレンガむき出しだ。冬は寒そうだなぁ。
「春」
「芽吹き」
「小川」
「春の小川?」
「うん、そういうイメージ」
「桜」
「雑木林」
「古い講堂」
「この教会」
「修復工事」
「イントレ」
「ファンタジー」
ファンタジー?
「世界の終わりと再生のファンタジー」
SFかぁ。たしかに再生というとそこがお約束かもなぁ。
「最終戦争」
「武器」
「軍隊」
「正義の味方」
「悪の権化」
「再生の儀式」
「供物」
「生け贄」
なんかだいぶ舞台向けじゃない方向に行ってるな。
「結婚式」
え。
「結婚式」
もういちど、アリスが言った。
「教会だから、結婚式をする」
予測不能の場をさらう女、アリスの面目躍如だ。
「誰と誰の?」
琳さんが付せんを手に尋ねた。
「だれでもいい。ここは教会だから、修理が終わって再生されたら結婚式をやろうと待ってる人がいる」
ああ、そうか。確かに。琳さんが『結婚式』と書いた付せんを壁に貼った。そして微笑を浮かべて俺たちに言う。
「そういうハッピーエンドっていいよね。世界が再生されて、結婚式ができる」
そして『世界の終わりと再生のファンタジー』と書かれた付せんを壁から剥がし、『結婚式』の横に貼り直した。
え、世界の再生にリンクするの?
「舞台は教会の修復工事現場、すなわち修復が必要な世界の“見立て”だ。そして世界が再生されれば教会の修復は完了して、結婚式があげられる」
琳さんはそう言うと大きくにっこりした。
「へえ…なるほど」
この教会全体が、修復される世界の“見立て”…。
「それ、いいな!」
俺はワクワクしてきた。教会じゅうに組み上げられたジャングルジム。
この教会の隅々までが舞台(修復中の世界)になる。
役者の芝居はジャングルジムすべてを使おう。
カイン陽太は言わずもがな、月輝雨も琳さんも運動能力が高い。ジャングルジムを登ったり降りたり、この空間すべてを使って芝居をやったら面白いじゃないか。
「へぇ、このなか全部がジャングルジムになるんだ」
「タテヨコすべてを使って芝居をやるわけ?」
グエンとカインも興味をそそられたみたいだ。
「そういうことやるのにちょうどいい大きさだね」
「俺てっぺんから飛び降りられるぜ、たぶん」
「俺も俺も」
カインと陽太はさっそくてっぺん獲得で盛り上がった。さすが、運動馬鹿の名を欲しいままにした陽太だな。カインも似たタイプらしい。
「序盤からウェディングドレスを着た花嫁が出てるって、どう?花婿を待っているの。世界が再生されれば花婿が帰ってくる」
グエンも乗ってきた。
「観客はその花婿が実際に帰ってくるかどうか半信半疑なんだ。でも最後はハッピーエンド、ちゃんと花婿が戻ってきて、結婚式を挙げられる」
琳さんがアリスにウィンクをした。アリスは満足そうに頷く。
「修復工事をする人がいて、それを邪魔する人がいて…」
「じゃあ俺、修復工事やる!」
「え。じゃあ俺、邪魔してやる」
カインと陽太、仲いいな。
「そんなら、花道を作ろうぜ」
月輝雨が言った。花道?
「客席の後ろから舞台まで、ウェディングロードだ」
「いいね!花嫁登場は、無人の舞台に向かって花道を歩かせたらどう?」
「廃墟の花嫁?幻想的ね!」
よーし!イメージ浮かんできたぞ!うすぐらい廃墟、世界再生の工事現場、ジャングルジム、世界を縦断する花道、疾走する男、跳ぶ男、縦横無尽に上へ下へ、そして、白いドレスの花嫁。書きたい!早く、早く、早く書きたい。このイメージが逃げてしまう前に。