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45話

 「ギシャー!!」


 ガサガサガサッ……


 カーチストビートルがなおも色違いトレントに攻撃を続け、トレントも枝を精一杯振るってカーチストビートルを払い落とそうとしている。ちなみにトレントには発声器官がないので声は無いらしい。その分、枝などを大きく振って音を出して威嚇らしきことをしている。


 けどやっぱりトレントの方が分が悪いみたい。防御系魔法を使って何とか耐えてるようだけど、木だけあって火の属性が弱点で体が少しずつ煙が上がってきてるし、そもそも他のトレントよりも小型だからか反撃の枝攻撃がカーストビートルに届いてないことの方が多い。


 「クルス……カーチストビートルを攻撃しなさい」


 「クケェ?」


 そんな「それで良いのか?」見たいな声を出さないでよ。私だって火属性が欲しいけど、今のトレントの様子を見てると助けたいって思っちゃったんだから仕方ない。

 それに、カーチストビートルは会おうと思えば生息地に行けば会えるしね。でもこの色違いのトレントは次にいつ会えるか分かったものじゃない。


 まあ助けたその後に敵対してくるって言うなら遠慮なく倒すつもりだけど。流石にそこまで優しくする気は無いもん。


 「ギシャッ!?」


 クルスはカーチストビートルの後方からロックレインを使用し、打ち落とす。

 それを見た色違いトレントは岩がぶつかった事で一時的に行動不能に陥ったカーチストビートルに対して、魔法の詠唱を行う。


 トレントの魔法は自分の体に果実、葉、種を一気に生い茂らせるもの。その中には素材としてみた事があるものも含まれていた。

 そのようにして出来た果実や種を次々と乱射していく。カーチストビートルが居た所には土煙がすごいことになってた。


 「ギギ、ギシャ……」


 その声を最後にカーチストビートルは粒子となり消えていった。トレントがとどめをさしたようですね。


 ワサワサッ……ガサガサッ……


 カーチストビートルを倒した色違いトレントはクルスや私の居る方向を見た。

 その目は「や、やるのか?おぉ?」って感じに見えなくも無い。さっきのカーチストビートルとの戦闘を見る限り、この子は気だけが逸って実力が伴っていない様子。

 さっきもロックレインで動けなくなったカーチストビートルをさも自分が追い込んで倒したみたいに追い討ちしてたしね。まあ抜け目無い性格ぽくて策略とかそういうことにも長けてそうだね。


 ちなみにトレントは基本その場から移動はできないのでこのまま近づかずに離れれば戦いになることは無い。


 「そこのトレンント。見た感じ亜種のトレントよね?手助けしてあげたのに私達と戦う気なの?」


 ガサガサッ


 やっぱり果実や種をいつでも放てるように臨戦態勢を取るトレント。どうやらさっきのも私達の手助けなんてなくても倒せたと物申しているようです。

 そんな態度を取るなら助けなきゃよかったかな?まあいいか。あちらさんはやる気みたいだし……クルスに相手させてあげよう。


 「クル……えっ!?」


 コココッ!コココッ!


 戦闘指示を出そうとした私の耳に聞こえてきたのは啄木鳥の幹や果実をつつく音。


 ワサワサッ……ガッサーガッサーッ!

 トレントは予想外の乱入者に慌てており、私達に攻撃する意思など最早見られない。


 「……あのトレント、次は啄木鳥に攻撃されてるじゃない。それに時折音が聞こえてたけど本当に啄木鳥がいたのね。啄木鳥の名前はツッツキー。……そのままだね」


 コココッ!コココッ!

 ワッサワッサ……ガサガサッ……。


 ツッツキーはトレントの天敵の一つらしく、色違いトレントは非常に嫌がっている。トレントの防御魔法をも貫通してくるツッツキーの攻撃でトレントの体力は半分まで減少する。


 ワサワサッ……


 ツッツキーが自分の体に密着しているせいで自分の攻撃が当たらず、打つ手が無いトレント。

 その表情は私達を見つめ今度こそ助けを求めているように見えなくも無い。

 うーん、調子の良いヤツね。自分が不利になると敵対しようとしていた私達に助けを求めようとするなんてね。


 「助けてあげても良いけ「ギシャー!ギシャー!」……五月蝿いなぁ!もうなにっ!?」


 そこに現れたのはまたしてもカーチストビートル。しかも3体。

 それを確認したトレントの表情は「人生オワタ……」的な諦めが見える。そりゃ、密着状態の天敵に加え、前方には敵対する意思を見せてしまった私達が、さらに火の魔法を使うカーチストビートルが追加されりゃ諦めたりもしちゃうよね。


 とりあえず今ここに出ているのはクルスだけだからこの子だけで何とかしないといけない。

 最初に不興スキル効果のせいで襲ってくる可能性が高いカーチストビートルを倒して、次にツッツキーってとこかな?トレントの様子を見る限り、ツッツキーがいなくなるまでは敵対してこないでしょうし。


 「ギシャギシャッ!」


 「コォー、クケェッ!!」


 予想通りカーチストビートルの内1体は私のほうへ襲い掛かってくる。相変わらずの火の魔法を放ってくるけどもう見慣れたものです。私の横を熱気が通り過ぎる。いくら戦闘に参加しない私でも何度も見てれば避けられますって。


 火の魔法を放った後のカーチストビートルは次の行動へのクールタイムで1秒程度静止するのでその隙にクルスの大砲が火を噴き、カーチストビートルを消し飛ばす。


 「いいよ~クルス。その調子で残りもやっちゃって~」


 「クケッ!」


 私の居る辺りには敵の気配が無いのでクルスが、トレントにたかるツッツキーとカーチストビートル達にロックレインを放った。

 この攻撃によりツッツキーもクルスを敵と判断し、邪魔はさせないとばかりに回転しながら突進攻撃を仕掛けてくる。危なげなくそれを避けたクルスだけど、続けて攻撃を仕掛けてきたカーチストビートルの火魔法をまともに浴びる。火の魔法はそのまま突進攻撃を避けられ、木に突き刺さったツッツキーに引火し、その命を刈り取った。


 「クケェェェェ!!」


 「クルスッ!」


 クルスには火傷の状態異常がついている。この効果は時間ごとに体力が低下していくのと、物理能力が半減するというもの。


 「あぁっ、しまった。火傷を治すポーションがもう無い!」


 慣れる為とは言えカーチストビートルとの戦闘回数が多かったから、いつの間にか状態異常を回復する回復アイテムを使いきってたみたい。体力回復のポーションはクルスに交代する前まで一緒に行動してたイリスのおかげでたくさん残ってるから安心だけど。


 「ギシャァァ!」


 その様子をチャンスと見たのかカーチストビートル達が続けて火の魔法を繰り返す。クルスは必死にそれを避けたり、半身ほど食らったりしながら手数の多いストーンブラストなどで攻める。


 ワサワサッ……


 「んっ、なに?今は気を散らさせないで欲しいんだけど?」


 気付けばトレントの枝が私の横でうごめいていた。このまま攻撃されたら私きっと死に戻りだろうなぁとか内心思いながら、そんな恐怖を隠すように返す。

 というかトレントの枝ここまで伸びるんだ……。よくよく見るとこのトレントの枝は私の方に長く伸びている分、反対側の枝が急激に短くなっている。トレントってそんな器用な真似できるんだ?不思議~。


 とにかく、トレントの枝を見てみるとなにかの果実が一つ実っている。


 「これをどうしろというのかな?もしかしてクルスに?」


 ワサワサッ


 どうやらそうみたい。だけど私があの闘いの中に入っていくのはちょっと難しい。何とかクルスにはそのカーチストビートル2体を倒して戻ってきて欲しい所です。

 このタイミングでくれるからには毒物じゃないと思うのだけど、今の無防備な私を攻撃しないトレントを信じてみようかな?



 「クカァァッ!」


 物理能力が下がっているせいで今まで避けれたカーチストビートルの攻撃の半分は避けられないクルスが徐々に追い詰められていく。

 そして……クルスの体力が減少し、私のポーションが届かない範囲でカーチストビートル達は次々と火属性魔法を詠唱し猛攻を仕掛けてきた。


 だ、ダメ!その攻撃を食らったらクルスがっ!?


 「ま、まちなさいっ!!!!」


 気付けば私はクルスの目の前に立ち叫んでいた。その私の体からは白い波動が発せられている。


 「ギ、ギシャッ???」「ギシャーギシャー?」


 白い波動を受けたカーチストビートルの攻撃がかき消され、カーチストビートルは戸惑いを見せる。

 その隙に私はトレントから受け取った果実と体力回復用のポーションをクルスに使う。


 すぐに元気になったクルスも、私を驚いた眼で見ていたけど攻撃の指示をすればすぐにその命に従った。あの果実は火傷の異常を治す類のものだったんだね。トレントって意外とすごいスキルを持った種族なのかも。


 「クケッ!クオォォーッ!!」


 むむっ、クルス。新しい技使っちゃうの!?レベル12で覚えた突進系で破壊力重視のスキル【堕翼撃】……。まあ私も見ておきたいから使用を許可します!


 大きく翼を広げるとそこにモヤモヤとした黒いエフェクトが纏わりついていく。この黒いモヤも攻撃判定があるので攻撃範囲の拡張と威力増加があるのでしょう。

 最終的に翼の1.5倍の大きさのモヤが包み込み、突進の姿勢をとった次の瞬間、クルスの姿が掻き消え、後に残ったのはカーチストビートル達の粒子が消えていく所だった。

 ねぇ、早すぎて見えなかったよ……?



 「ふぅ、おわったかな。思った以上に苦戦しちゃったかもね」


 「クケェッ……」


 「それにしてもさっきの私のアレ……必死だったからよく覚えてないけど。たぶん前に覚えた【覇気】のスキルだと思うんだけど……。クルスはどう思う?」


 「クケックケクケェェッ!」


 うん、聞いといてなんだけどなんとなくしか理解できない!ただ、クルスが興奮している様子だけは分かるよ。

 元王様のクルスなんだからそういうのに詳しそう。ほんとにカタコトだけでも意思の疎通が出来たら便利なのになぁ。



 ワサワサッ……


 私のすぐ近くで枝や葉の揺れる音が聞こえる。そうそう、トレントがまだ居たんですよね。いや、まあ本体がほとんど動けないんだから居て当然っちゃ当然なんだけどさ。


 色違いトレントもさっきの私の覇気らしい波動を受けてからかなり大人しかった。

 果実を分けてくれたとは言え私との関係は敵対関係だったからモロに覇気の効果が及んだはず。

 おそらくスタンでもしてたのかな?そうなるとスキルの説明にあった自分の周囲大範囲というのはかなりの効果範囲になるんだけど?

 なんせ覇気を使った場所と、トレントの本体の位置は30メートルくらい離れてたもん。


 「トレント。さっきは果実ありがとうね。あのおかげでクルスも元気になったよ」


 「クケッ!」


 ワサワサッ……。


 私とクルスがお礼を言うとトレントもなにやらモジモジ照れくさそうにしている。


 「所で、もうそんな気は無いと思うけど私達、戦っちゃう?」


 ガサガサガサッ!


 慌てたようにそんな意思は無いと枝を振り、そんな気は無いという反応をするトレント。うん、だからそんな気は無いと思うけどって前置きしておいたじゃない。


 「それじゃお互いに戦う気は無いって事だし、ここでお別れだね」


 ガサガサガサッ!


 またしても慌てたように反応を示すトレント。私を引きとめようとたくさんの果実など素材アイテムを生み出していく。

 まあここまで来たら何故引き止めるような真似をするのか予想が付く。さっきの闘いを見る限り、支援系スキルを持ってそうだからメンバーとしては問題ないし、いいよね?


 「ねぇトレント、私と一緒に来ない?」


 ワサワサッ!!!!


 驚きの表情とは裏腹に体……というか枝葉が喜びを表現している。このトレントは天邪鬼ね~?

 きっとこう言う子がツンデレって言うんだね(えっ?


 「それじゃ……勧誘といきましょうか!【テイム】っ!」


 テイムの光が巻き起こり、光が治まったあとはトレントが嬉しそうに枝を振っていた。どうやら無事仲間に出来たみたい。次は名前だね。うーん、どうしよっかなー。

 トレントには様々な植物の葉が生えている。その中で目立ったのは楓の葉っぱ。


 そうね、やっぱりビビッと来たこの名前に決めちゃおう。このトレントの名前は……。

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