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洞窟の奥から風きり音がする。
誰かが戦って居るのだろうか?
他にもこの巣穴に落ちた人が居るのか?
「どうするんだ?」
俺と同じ様に洞窟の奥を見つめる撫子が冷静な声で問うてきた。
「……行こう。」
一瞬迷ったが、いつまでもここにいるわけにはいかない。
撫子が頷くのを見届けてから、俺は走り出す。
後ろから撫子も付いてきているが、レベル差があるためだんだんと距離が出来ていく。
本来ならばスピードを緩めるべきなのだろうが、今は非常事態だ。そのまま突き進む。何故かモンスターが居ないので、いっさい立ち止まらない。
暫く走っていると風切り音が一際大きくなってきた。前回の経験から言うとこの先は広間になっていた筈である。
そして……【察知】にモンスター反応多数。
反射的に立ち止まって振り返り後ろに居る撫子に危険を呼びかける。
「まずい!モンスターハウスだ!」
「笑えない冗談だ。」
「冗談ならどんなに良かったかねえ!」
モンスターハウスだけはまずい。巣穴なので複数を相手取ることは想定していたがモンスターハウスは想定外だ。
BOTではたまにダンジョンの小部屋や少し広めの場所でモンスターがかたまってポップする事がある。最低で20体ポップするため、部屋いっぱいにモンスターがぎゅうぎゅうずめになっている。正にモンスターハウスである。
切り抜けるのに一番効果的なのは勿論魔法職の範囲魔法だが、俺は戦士だし撫子も狩人で2人とも使えない。【弓】レベルが高ければ広範囲攻撃もあるが、Lv.1である、あるわけがない。ひたすら切り込んでいくのは無謀としか言いようがない。
……完っ全に詰みました。はい。
「一体どうするんだ!」
「頑張れクウマ!今こそ高レベルの実力を見せるときだ!」
撫子のとても良い笑顔をいただきました。
しかし、無謀でもなんでもやらなきゃいけないのは分かっている。どうせ引き返したって外には出れないんだから。
「後方支援、頼んだ!」
頷く気配を背中に感じつつ、俺はモンスターハウスに身を踊らせた。
*****
気が付いたら、茨に囲まれていました。
茨が私に蔓を叩きつけてきました。
とっさに転がって避けました。
ただの茨ではありません!これはモンスターです!
私は慌てて得物である皮の鞭を構えます。
茨の攻撃を鞭で防ぎつつどうすればいいか考えます。
一体一体の境目が分かりにくいですが見たところ数はざっと30体。もっと居るかもしれません。モンスターハウスです。
不運すぎます。この数は私1人じゃ防ぎきれません。どうにかして広間から出なくてはいけません。植物型のモンスターなら追ってきませんから広場から出れば私の勝ちです。
後は、どうやって出口までの道を開くかですが……残念ながら鞭には一点突破力はあまりありません。植物型モンスターの弱点である火属性の魔法が私に使えれば……。無い物ねだりしても仕方がありません、がむしゃらにやってればなんとかなるでしょう。……ならないと困ります。
「はぁあっ」
私は鞭を目の前の茨に打ち据えます。そのまま振り下ろされた無数に棘が付いた枝を打ち払います。今度は右から蔓が迫ります。それをスレスレで避けて引き戻した鞭で蔓を伸ばしてきた茨を打ちつけます。
「うっぐあっ」
しかし、後ろからの攻撃には対応仕切れずに後ろから飛んできた棘が背中に刺さりました。続けて左から振り下ろされた枝も食らってしまいました。痛みに思わず声が漏れます。見るとHPが三割程減ってます。通りで痛いわけです。
「【応急処置】!」
すかさずスキルを使って回復しました。これで幾分か痛みが取れました。
【応急処置】は所持している包帯を使う代わりに回復魔法やポーションと違って一定時間回復が持続するのが特徴です。
それでは反撃です。
「《旋風》!」
【鞭】アビリティを発動します。振るった鞭の軌跡に幾つもの小さなつむじ風が現れ、茨達を切り刻みます。
これによって何体かの撃退に成功します。
しかし、再準備時間の為連発は出来ません。
BOTには硬直時間は存在しません。かわりにアビリティには再準備時間という物があった同じアビリティや魔法を一定時間使う事が出来ません。そのため同じアビリティを連発する事は出来ません。
因みに魔法はMPの続く限り使い続ける事ができます。
攻撃を避け、時には打ち払い、隙を見ては打ち据えます。が、しかし数が多すぎます。どうしても攻撃を食らってしまいます。【応急処置】を使って回復していますがそろそろ包帯の数が心許なくなってきました。未だに出口には辿り着けません。このままではジリ貧です。
ガンッ
「があっ」
一際鋭く振り下ろされた蔓に直撃してしまい、壁に叩きつけられました。視界が揺れます。どうやら頭を打ってしまったようです。HPは残り一割を切っています。
茨のうち一体が棘を飛ばすモーションに入ったのが見えましたが私は動けません。
ああ……私はこんな所で死ぬんですか……。お父さんお母さんごめんなさい。私は先に逝きます……。
私の目から一筋の涙が零れました。
と、その時です。今にも棘を飛ばそうとしていた茨が光の粒子となって消え去りました。
「……え?」
私は突然の出来事に理解が追いつきません。
ただ、言えることは私は助けられたってことです。
第一章の最後にステータスを追加致しました。