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1:レジデンス高村206号室の怪談

1章分を毎日投稿します。

最初は3話分投稿です。

 仕事が忙しかった。

 とても忙しかった。

 プロジェクトに関わっていた若手のエンジニアが離職した。

 代わりのエンジニアが補充される前に、次の離職者がでた。

 なんとか立て直そうと取り組んでいたものの、日常的な超過勤務状況に陥り、深夜1時帰宅、8時出社の完全どブラック状態になっていた。

 人間、ほとんど休まずに働けるわけもなく、自宅に戻ってコンビニで買った弁当を開けようとしたところで意識が途切れている。


 俺はそこで死んだらしい。

 篠宮優太、エンジニア、32歳、おそらく過労による心不全で死亡。

 月400時間くらい働いていたので、正直なところ驚きはなかった。

 動かなくなった自分を見下ろしていたので、自分が死んでしまったことには、短時間で気がついていた。

 死んだ直後は、すぐに成仏できるものだと思ったが、創作で見かける天の光や天使のお迎えもなく。

 死体の発見は6日後。

 おそらく会社から不動産会社に連絡がいったんだろう。

 今が春でよかった。これが夏だったら、とてもじゃないが悲惨な室内になっていたと思う。


 遺体の搬出、家財の撤去など、自分の死んだ後始末を見届ける経験はなかなかないだろうな。

 そういう意味では俺はかなりレア体験をしている。

 本当は自分の葬式に出て、じいちゃんばあちゃんの顔を見てみたかったが、どうやらこの部屋から外に出ることができないようで、その時初めて自分が地縛霊になってしまったと気がついた。


 心残りは、忙しい忙しいと言って、5年近く直接会いにいかなかった祖父母の事。

 最後くらい、ありがとうって伝えたかったなぁと思いながら、あぁ、これが成仏できなかった原因なのかもしれないと思った。



 ーーー



 死体が片付いて部屋の改装が終わってから、3週間ほどで新しい借り主が引っ越してきた。

 どうやら最寄りの大学に通う学生らしい。

 荷物運びをしていた友達との会話が聞こえてきて、元々7万円の家賃が5万円になったようだ。

 この辺りの相場から考えてもかなり安い。

 築年数だって11年くらいか?2DK風呂トイレ別、駅から5分。

 最寄りのコンビニまで200メートル。

 前の住人が死んでさえいなければ、かなり良い物件だろう。



「しっかし、お前怖くねぇの? 前の住人死んでるんだろ?」


「そりゃぁ、殺人現場とかだったら嫌だけど、心臓発作とかみたいだし、床も張り替え済みだからそこまではなぁ。何より、敷金礼金なし、5万で風呂トイレ別2DKって、かなりお得だったし」


「お前、それ、事故物件ロンダリングじゃん」


「まぁ、気にしない気にしない。

 俺、お化け見たことないし、多分霊感ないから大丈夫だと思うよ」



 霊感の有無のせいなのかはわからなかったが、確かに彼らに俺は見えなかったし、声をあげても聞こえることもなかった。

 かろうじてできるのは、電気をちらつかせるくらいか。

 霊現象起こせてるじゃんって最初はワクワクしたものの、



「なんかちょっとライトチラつくなぁ?」


「新しい蛍光灯買ってこないとな」



 と、なる未来が想像できて、彼らの周りをふよふよ浮かびながら、伝達手段に悩む。

 どうすっかな〜、このチカチカでメッセージをと考えた時に、モールス信号が浮かんだものの、そんなの俺だって知らないしな。

 特殊な趣味でも持ってないと普通は知らないだろうなぁと思いつつ、ふとよぎってしまった、ヒットソング。


 モールス信号のSOSを歌詞に入れたヒットソング。

 あぁ確か社畜の曲だったかと苦笑しながら



 トントントン、ツーツーツー、トントントン。



 その一瞬の考えが、すぐに電灯に反映されるとは思えないじゃん。



 トントントン、ツーツーツー、トントントン。

 部屋の電気の異様な点滅に、室内の2人は青ざめた。



 ーーー



 学生の彼らに、何か助けを求めたわけではないが、どうやら俺も幽霊になりたてで制御が甘く、ことあるごとにライトを点滅させてしまった。

 次第に彼はなかなか家に帰ってこなくなり、気がついた時には引越し業者が荷物を搬出していった。


 そこから何人かの住人が引っ越しては、俺の無意識でやってしまう霊現象にびびって引越していった。



 ーーー



 次の住人はずいぶん若い新婚カップルで。


 まぁ、若い男女、一つ屋根の下。

 いつどこで、そういうムードになってしまっても仕方ないってのはわかっているんだけれどもね。

 まぁまぁに

 頻度高くて。


 そういう状況になると天井の裏だったりトイレだったり、一応同居している霊としての配慮で見えないところに退散してはいたんだけども、若さあふれる男女のパッションが、もー、ほら、なんていうの?

 え、そんなところで、ちょ、流石に、まままままって、せめて、窓ぐらい閉めようよってなくらいに、もう本当に驚きしかなくて。


 感情の揺れに合わせて、霊現象が溢れちゃって。

 気がついたら、パシーンパシーンって、ラップ音マスターしてたよね。


 何かに使えるのかなぁ、ラップ音。


 まぁその夫婦も、流石に霊現象に思うところあってか、2週間ほどでいなくなってしまった。



 ーーー



 大半は俺の霊現象が原因で、他にも数件住人が出たり入ったり。


 そのうち、困った大家さんが、お祓い専門だとうたう陰陽師のようなコスプレおじさんを連れてやってきた。


 数珠を持って、部屋の四隅と玄関に盛り塩のオブジェクトを作って、



「ウニャウニャウニャンウニャウニャウニャン、はぁーーーーーーーーっ」



 なんだか呪文のような、よくわからない声をあげて、小瓶に入った水のようなものを撒いて、儀式のような、よくわからない何かをしていたよね。



「凶悪な霊魂を成仏させました。

 これで霊障に脅かされぬ平安が戻ってこよう……」



 ドヤ顔のおじさんと、よかったわ〜ってニコニコしている大家さん。

 ねぇ、大家さん、これ騙されていると思うよ?



「じゃあ、これで霊現象なくなるんですね」


「無論っ」



 あんまりにもあんまりだったので、「パシンパシン」ラップ音とインターフォンから「火災です、火災です」の音声と、ピカンピカン照明をつけたり消したり、全然成仏できてないですよ〜ってアピールをしてみた。



「ヒェぇぇぇ!」



 慌てて逃げていく霊能力者風のおじさんを見ながら、大家さんが深いため息をついたので、ごめんなさいの代わりに「お風呂が沸きました」と音声を流しておいた。


 プリセットされた音声しか出せないのは不便だなぁ。



 ーーー



 そうこうしているうちに、俺が死んでから3回目の春が来た。


 この間、時々住人がやってきて、短期間で出ていってを繰り返していて。

 1年くらい住人が住み続けてくれれば、事故物件ロンダリング成功ってなりそうなものの、今の所、最長記録が3週間。

 ここまで来ると立派な怪談扱いだな。


 ただ、この頃になると俺も力の制御ができるようになってたから、決して霊現象を起こしていたわけじゃないんだ。


 だけど、幽霊がいるなんて情報を聞いて部屋を借りる人間からすると、転んで骨を折ったとか、腹をくだしただけでも霊現象だと不安にはなるようで。

 俺、呪ってなんかないよ?呪う能力なんてないよ?

 それ、俺冤罪だよぉぉと届かぬ声をあげながら引越トラックを見送る日々を送っていた。

 それでもラップ音を我慢した俺。制御できてえらいと褒めてほしい。


 そのうちに、気がついた時には隣の205号室も空き部屋になっていた。

 住人の出入りの激しい部屋のあるアパートは、やっぱり評判が悪くなるよな。

 いや、本当に大家さんごめん。


 怪談話が広がってくると、悪ふざけを行う迷惑なお客も増えた。

 自称オカルト専門配信者が取材と称して、深夜に部屋に忍び込んで無許可で配信をし始めたりな。


 真っ暗な中、堂々と玄関の鍵をピッキングで開錠して、靴を履いたまま上がり込んできて、



「この柱に亡き住人の苦悩の表情が見えます」



 とか言い始めて、それただの柱の節(ふし)だから。



<ちょ、まじこえぇ>

<いい加減中止しろ、ガチでやばいぞ>

<本気にしてるやついんのかwww>

<それはそうと通報しとくか>



 スマホのインカメラで撮影している画面には、リスナーのコメントも映っていた。

 そういうことされると、大家さんに迷惑かかるんだから、まじでやめてほしい。


 そのうち、この場所が住人の死んだ後の染みだとか、いろいろ適当なことを言い始めていて、流石にイライラしてきてしまっていて。

 まぁ、つい、出来心とも言える。



<縺�繧�縺ェ繧薙°おかし縺�縺�>

<縺。繧�縺」縺ィまて縲√∪縺�やば縺�>

<繧ケ繝医ャ繝励せ繝医ャ繝暦シ�文字が縺翫°縺励>

<縺翫>縲�驟堺ソ。止め繧阪▲縺ヲ縲�ガチ縺縺槭%繧後�>



 コメントの文字をバグらせてやったぞ。

 電子機器なら結構なんとかなるもんだ。

 文字化けっていうか、ただ部分的にコメントの文字コードをいじっただけだけど。



「え」



 それまできゃっきゃと騒いでいた配信者の目が泳ぎ出した。

 よし、せっかくなので、久しぶりにラップ音だ。

 パシン……パシン……。


 震え出している配信者の視線の先には、応答ボタンを押してもいないのに、画面が通話状態になる様子。



「ひっ」



 画面に映るのは、誰もいない通路。



 ここまで来ると、配信者の顔色も相当悪く、文字化けしたコメントをみて固まってしまっている。


 そして最後に



「お風呂の栓が抜けています。確認してください」



 お風呂のリモコン画面から音声を出す。

 うん。やっぱり、プリセット音声だとしまらないな。

 まぁ、やりすぎたかなと反省するのがちょっと遅くて、この配信が原因なのか、家賃は月25,000円まで下がったと聞いた。



 いや、本当に、大家さんごめんなさい。


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