一緒に歩く人5
私はブティック・グロウを訪れた。
ルイに会うためだ。
「いらっしゃいませ!」
可愛いらしい声に迎えられる。
「あ! ティアナ様!」
サラとエマが、ぱっと顔を輝かせて駆け寄ってきた。
「エマ、具合はどう?」
「大丈夫です。
あの時は……本当にありがとうございました」
そう言って頭を下げるエマ。
顔色もよく、動きもしっかりしている。
後遺症もなさそうで、胸を撫で下ろした。
「それならよかった」
そこへ、凛として、優しい声が割り込む。
「あら、ティアナちゃんじゃない?」
振り返ると、ルイがこちらを見て微笑んでいた。
「どうしたの?
もしかして……お姉さんに相談かしら?」
その言い方に、少しだけ肩の力が抜ける。
「うん……そうかも」
「ふふ。いいわよ」
ルイは踵を返し、奥へと歩き出す。
「おいで。
ここじゃ落ち着かないでしょう。
ゆっくり話しましょう」
私はその背中を追って、
ブティックの奥へと足を踏み入れた。
柔らかな布の匂いと、
静かな空気。
何から話せばいいのか分からず、言葉を探していると。
「なに?
誰かに告白でもされた?」
「……へ?」
「あら、図星」
楽しそうに微笑むルイ。
「セナちゃん?
それともテオちゃん?」
「えっと……」
答えを迷っていると、ルイは肩をすくめた。
「テオちゃんのほうね。
あの子、ティアナちゃんのこと大好きだもの」
胸が、ちくりと痛む。
「……でも私、ずるいことしたの。
好意に……漬け込んで、お願いごとをした」
正直にそう言うと、ルイは一瞬きょとんとして、それからくすっと笑った。
「それ、ずるいこと?」
「え?」
「そういうのってね、
“惚れた弱み”って言うのよ」
驚いて見つめる私に、ルイは穏やかに続ける。
「ずるくなんかないわ。
むしろね、好きな人からのお願いなんて」
少し身を乗り出して、囁くみたいに。
「男なら、嬉しいものよ」
「……そうかな」
「そうよ」
迷いを包み込むように、きっぱりと。
「大切なのはね、
利用することじゃなくて、
一緒に背負う覚悟があるかどうか」
ルイは、私の目をまっすぐ見た。
「ティアナちゃんは、
その覚悟をちゃんと持ってる顔をしてるわ」
その言葉が、
胸の奥で静かに灯りをともした。
「……そうだと、いいけど」
まだ、心のどこかが揺らいでいる。
みんなを連れて行くということ。
その先に待つ道は、きっと平坦じゃない。
それでも――
明るい未来を見るために。
大切な人たちを守るために。
私は、立ち上がる。
その沈黙を破るように、ルイが微笑んだ。
「ねえ、ティアナちゃん」
「……なに?」
「私も、ティアナちゃんのこと、好きよ」
不意打ちの言葉に、目を見開く。
「可愛い見た目で、芯があって、いつだって前を向いて。
……本当に、強い女性よ」
からかうようで、でも真剣な声音。
「私もね、“惚れた弱み”ってやつかしら」
くすっと笑って、続ける。
「ティアナちゃんのお願いなら、嬉しいものよ」
「……え?」
「私はね、貴女に返しきれない恩があるの」
少しだけ表情を和らげて。
「今の生活があるのも、貴女のおかげ。
エマのことも……ね」
そう言って、ウィンクする。
その仕草の奥に、ふと影が差す。
遠い昔を思い出しているような目。
――騎士だった彼を、スカウトし
この店に引き寄せたのは……私だった。
過去と現在が、静かにつながる。
「だから」
ルイは、まっすぐに言った。
「今度は私が、あなたの力になる番」
胸の奥が、熱くなる。
「……ありがとう、ルイ」
その一言に、ルイは少し照れたように笑った。
「礼なんていらないわ」
そう言って、軽く肩をすくめる。
「お嬢様が進む道、
どんなに暗くても――
私は、ちゃんと隣を歩くわよ」
ブティック・グロウの奥で。
静かに、けれど確かに、
仲間がひとり、増えた瞬間だった。




