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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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ティアナの決意1

朝になり、ベッドの中で今日の予定を思い返す。


——あ。


1ヶ月に一度の朝食会だ。

ラピスラズリ家当主であり、実の父でもあるアドルフと。


……嫌なんだよなあ。


仕事はできる。判断は正確。

けれど冷徹で、無慈悲で、感情というものをどこかに置き忘れてきた人だ。

朝から気が重い。


そんなことを考えていると、はっきりとしたノックの音が響いた。


「はーい」


たぶん、アリスだ。


「失礼いたします、お嬢様。おはようございます」


「おはよう」


「今日は……」


言いかけて、アリスが私の表情を見て言葉を切る。


「お父様との朝食会ね」


私が先に付け加えると、アリスは小さく苦笑した。


「……準備させていただきます」


アリスが選んだのは、水色のドレスだった。

身支度を整え、髪は低い位置で一つにまとめ、ドレスと同じ色合いと装飾のカチューシャをつける。


鏡の中の私は、少しだけ“いつもの憂鬱”から遠ざかって見えた。


「爽やかミントブルーコーデです」


アリスが、じゃじゃーん、と効果音までつけて言う。


「ありがとう。ドレスだけでも爽やかだと助かるよ」


そう言って立ち上がると、アリスは満足そうにうなずいた。


そのとき、扉の外から声がする。


「お嬢様、お支度はお済みでしょうか?」


ユウリだ。


「済んだよ、今行く」


扉を開け、廊下に出る。

そこには、いつも通りきちんとした姿のユウリが立っていた。


——さて。


逃げられない朝食会の始まりだ。



「とても爽やかなコーデですね、お顔が伴っていませんが」


そう言われた私は相当憂鬱な顔をしているのだろう。

はぁ。気を引き締めないと。

スッと顔を作ってニコリと微笑む。


「さあ、行きましょうか。朝食会」


「さすがお嬢様。切り替えが素晴らしいです」

ユウリがサラッと褒める。


姿勢を正し朝食会のある部屋に向かう。


コーラルオレンジのくせのある髪が、扉の前で大きく跳ねていた。

近づくにつれ、その正体が見えてくる。

白いコック服に身を包み、

腰にはエプロン、腕まくりされた袖からは健康的な腕が覗いていた。

レオだ。


くせのある髪は無造作に跳ね、

陽だまりのような色合いがやけに場を明るくしている。


黄緑色の瞳がぱっと輝いた。


「あ、お嬢さーん!」

ブンブンと効果音がつきそうなぐらい豪快な手の振り方に笑みをこぼしながら手を振り返し、声をかける。


「おはよう、レオ。今日の朝食楽しみにしてるね」


「もちろんですよ!お嬢さんの好きなもの用意してますからね」

ニカッと快活な笑顔を向ける。

彼は私の専属の料理人。元々平民で騎士団出身だったが私がスカウトして料理人となった。本来であれば平民が貴族の料理人になることはないのだか、彼を気に入った私が周りを巻き込み何とか引き入れたのだ。


そのため、彼のことをはじめはよく思わないものもいたが料理の腕前は確かなので、当主 アドルフにも気に入られ、1ヶ月に一度の朝食会はこのレオが担当となっている。


「ありがとう、レオの朝食があるから頑張れるよ」


「そう言ってもらえて嬉しいです!あ、お嬢さん、もう当主様は席にいますのでどうぞ」


「ありがとう」


ふーっと一息つきコンコンとノックをする。



「…入れ」

低く重たい声がはっきりと聞こえる。

扉の奥からでもその主の威圧感を感じられる。

憂鬱な朝食会のはじまりだ。



「おはようございます、お父様」


「ああ」


こちらには目を向けず新聞を読んでいる。

見出しには宝石事件の文字がみえる。


レオが私の椅子を引いてくれ、腰を掛ける。

手際よく朝食の準備をする。

威圧感のある人で恐れる使用人もいるけれど、レオは堂々とした立ち振る舞いだ。


「本日の朝食はマッシュルームサラダ、ほうれん草とベーコンのキッシュ、ローストビーフ、バターロール、カボチャスープになります。デザートはミルクプリンとフルーツ盛り合わせになります」


料理の説明をさっと終え紅茶を入れたレオは私に微笑みかけ、去っていった。

私は彼の誰に対しても堂々としていて、裏表のない性格が気に入っている。

そして料理がとても美味しい。


レオが出て行ったことを確認した父がようやく新聞から私に目を向ける。

鋭い眼光が私を捉え、背筋がピシャリと伸びる。



「宝石事件は、すでに王国騎士団の管轄だ」


それだけ告げて、父は視線を朝食に戻す。いつも通り、無駄のない動作で朝食を口に運んでいた。

感情を挟まないその所作は、王国でも名高い冷徹さの象徴だ

けれど私は知っている。

父がこういう言い方をするときほど、事態は深刻だ。


ちまたで騒がれている宝石。

パン屋の奥さんの話もそうだが他にも似た事例がおきている。触れた者の性格を歪め、欲望や怒りを増幅させる――

そして私には、それが黒いモヤとして見える。


悪意ある宝石だけに、まとわりつくような濁り。

初めて見たとき、息が詰まったのを今でも覚えている。


「お前は関わるな」


父の声は冷たく、命令そのものだった。

理由の説明も、慰めもない。


「…ですが」


父のナイフを持つ手が、わずかに止まっている。


「その力を使うべきではない。王国にいいようにされるだけだ。余計な事はするな」


低く落とされた一言は、私を心配してのことなのか面倒事を避けたいだけなのか定かではないが。


「私は――」

言いかけた私に父の眼光が鋭く向けられる。


「何度もいわせるな、わかったな」


「はい」

これ以上無駄だな。

父は私のことよりも立場を大事にしている人だ。仕方がない。


紅茶の表面に、私の顔が揺れる。



朝食会を静かに味わいながら頭の中では宝石事件のことを考える。


父が隠したがるこの力こそが、やがて宝石事件の核心に触れてしまうことをまだ私は知らない…

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