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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第一部

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双輝(そうき)アレキサンドライト王国

この国は、双輝そうきアレキサンドライト王国。


自然と鉱物に恵まれ、

採掘から製造、加工に至るまで、宝石に関わるすべてを国の礎としている。


私たちの暮らしも、戦いも、政治さえも――

その中心には、常に“宝石”があった。


王国の支配構造は、明確な階層制によって成り立っている。


頂点に立つのは王国本体。

国全体を統治し、政策や法、領地管理の最終決定権を握る存在だ。


その直下には、二つの公爵領が置かれている。


ひとつは、

紅輝こうきオパール公爵家

(通称:ファイアオパール公爵家)

兵器や武器、宝石兵装の開発を担い、

王国の軍事力そのものを支える家系だ。


魔導剣、防衛機構――

戦場で用いられる力の多くは、彼らの工房から生み出されている。


もうひとつが、

紫統しとうタンザナイト公爵家


こちらは軍人の育成と統率を専門とし、

戦争・防衛・交渉・戦略立案までを担う。


王国騎士団の中枢もこの家の管理下にあり、

前線を導く指揮官の多くが、ここで育てられる。


そしてその配下に、伯爵家領地が存在する。



私がいるのは…

蒼紋そうもんラピスラズリ伯爵家

鉱物の採掘と、鑑定、宝石加工を専門とする領地だ。


原石を掘り起こし、磨き上げ、

純度を整える。


王国に流通する宝石の多くは、

この地を経て世に出ていく。


迅晶じんしょうトパーズ伯爵家

戦略的鉱山の管理と軍事物資の補給を担う。


前線へ宝石と物資を途切れさせないこと。

それは、どんな剣よりも重要な役割だった。


そして輝炉きろシトリン伯爵家


特定鉱物の製造・精製を専門とし、

魔導燃料や生活用魔導具など、王国の日常を支えている。


こうして王国は、


王国本体

 → 二代公爵家

  → 伯爵家領地


という三層構造によって、

採掘・製造・軍事・戦略を効率的に循環させている。


その中核を担うのが――

王国騎士団だ。


騎士団員は、各公爵領や伯爵家へ配属され、

領地と民を守る役目を負う。

だが、王国騎士団そのものに入団できる者は、ほんの一握り。

王国が正式に“力と志を認めた者”のみが、その名を名乗れる。


さらにその中でも、

王の傍に仕える専属騎士となれる者は――

選ばれし存在だけ。


だからこそ。


騎士であるということは、

単なる武力ではなく、


この国に生きる意志そのものを示す証だった。


王国騎士団に入隊するためには、

剣の腕だけでは足りない。


どれほど剣技に秀でていても、

どれほど学問に通じていても――

ある資質を持たぬ者は、騎士団の門をくぐることすら許されない。


それが、

魔宝石適性と呼ばれるものだ。


双輝アレキサンドライト王国では、

騎士の力は宝石――すなわち魔宝石によって支えられている。


入隊試験の最終段階で行われるのが、

《魔宝石適正判定》。


試験官の前に置かれるのは、

一切の色を持たない透明な魔法石。


それは、まだ何者にも染まっていない“空の器”。


受験者がその石に触れた瞬間、

魔力の質、精神の在り方、感情の傾向、意志の強度――

すべてが同時に測定される。


そして条件を満たした者のみ、

魔宝石はゆっくりと色を宿す。


蒼、紅、紫、翠、黄金、月白――

その者に最も適した宝石の輝き。


魔宝石が透明なものからその人自身の色に染まり、

それを武器に装着することで

“その者にしか扱えない武器”へと姿を変える。


この武器は、

単なる装備ではない。


魔力と精神に直結した――

魂の半身とも呼ばれる存在だ。


だからこそ、

この武器を扱うためには、厳格な条件と規定が設けられている。


第一に、

魔宝石武器は登録制である。


選抜された宝石は王国に記録され、

所有者以外が扱うことは原則として禁じられている。


第二に、

精神状態が著しく不安定な場合、

武器は応答しない。


恐怖、憎悪、執着――

それらが魔力を歪めたとき、

宝石は力を拒む。


第三に、

王国騎士以外が魔宝石武器を用いることは、

重罪に等しい。


それは力の暴走を防ぐためであり、

同時に――

宝石に宿る“星の記憶”を守るためでもあった。


星の記憶とは…この世界に存在する宝石すべてに宿る、

**“星が生まれ、砕け、巡ってきた時間の残響”**である。


第四に、


宝石に選ばれた者には、定期選定を受ける責務が課せられている。

これは新たな適性を測るためのものではなく、

既に宝石との状態を確認するための制度だ。


年に一度、

王国が定めた期間に必ず実施される。


内容は――

魔力量の測定、魔力の流れの安定性、

精神状態、感情の偏り、共鳴反応の変化など。


それらすべてを総合的に検査し、

記録として王国に保管される。


いわば、

魔宝石適性保持者に課せられた“健康診断”のようなものだった。



以上のことから騎士団では、こう言われている。


「剣を振るう者が騎士なのではない。

 宝石に選ばれた者が、騎士なのだ」と。


それでも。


どれほど優れた適性を示しても、

宝石は決して“王になれ”とは告げない。


あくまで示されるのは、

その者が何者であるかだけ。


――力の使い方を選ぶのは、常に人間だった。


この魔宝石適正判定が、

希望を与えると同時に――

多くの人の運命を残酷なまでに分けていくこともある。


魔宝石適正判定を受けるかどうかは、強制ではなく任意である。


王国騎士団の入団試験においては必須の検査項目だが、

国民すべてが受ける必要はない。


そもそも、適性が確認されたからといって、

その全員が騎士団へ進むわけではないのだから。


稀ではあるが――

騎士団とは異なる立場で、宝石に選ばれる者も存在する。


彼らは戦場に立つ騎士ではなく、

側近、侍女、執事、補佐官、研究補助官といった役目に就く者たちだ。


主を守る剣ではなく、

主を支えるための力として、宝石の適性を授かる。


そうした者の宝石は、

攻撃性よりも補助性や調律性に特化することが多い。


結界の維持。

魔力の制御。

精神の安定。

情報の伝達。


戦闘に直接用いられずとも、

それらは王国の運営に欠かせぬ力であり、

確かにこの国を支えている。


ただし――

そこには、厳格な条件が課せられる。


魔宝石適性を持ちながら騎士団に属さない者は、

必ず伯爵家、あるいは公爵家の管理下に置かれる。


個人の意思で力を振るうことは許されず、

登録、監督、定期検査を受ける義務が生じる。


それは、保護であると同時に――

拘束でもあった。


宝石の力は、あまりにも強い。


無秩序に扱えば、

人も、街も、国でさえも、容易く壊してしまう。


だから王国は、

こうした原則を定めている。


「力を持つ者を、力だけで生かしてはならない」と。


騎士であれ。

側近であれ。

侍女であれ、執事であれ。


宝石に選ばれた瞬間から、

その者はもはや“ただの民”ではなくなる。


守られる代わりに、

守る責務を背負う。


立場や役割は違えど、

等しく王国の秩序の一部として生きることを求められるのだ。


だから私は思う。


王国騎士団に入ることよりも、

宝石に選ばれることそのものが――


すでに、運命なのだと。


……私自身も、そうであるように。


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