一緒に歩く人1
母アイリスの死の謎。
不老。
不滅。
途方もない力。
魔宝石と共鳴する――“器”の存在。
頭の中で言葉を並べるたび、胸の奥が冷えていく。
知れば知るほど、底が見えない。
正直に言えば、怖い。
母が命を懸けて遠ざけた世界。
それが今、私の足元に口を開けている。
逃げたい、と思わないわけじゃない。
知らなければ、平穏なままでいられたのかもしれない。
けれど――
私はもう、知ってしまった。
母は、私を守るために死んだ。
なら、私が目を逸らすことは、
その選択を無意味にする。
だから、立ち向かうと決めた。
ただし。
一人で突っ込むほど、私は無謀じゃない。
この問題は、私一人の力ではどうにもならない。
剣も、知識も、立場も、時間も――
すべてが足りない。
必要なのは、仲間。
誰を、どこまで巻き込むのか。
どこまで真実を共有するのか。
誰に、命を預けるのか。
それは、守るための選択であり、
同時に――危険に引きずり込む選択でもある。
冷静で誠実な執事 ユウリ。
幼い頃にした約束を守ってそばにいてくれた騎士 セナ。
愛情を知らなかった危うくて鋭い騎士 テオ。
明るくて料理上手 で狂乱の金獅子とまで言われた元騎士レオ。
オシャレで綺麗な元公爵家の騎士 ルイ。
それぞれが、違う力を持っている。
それぞれが、違う危うさを抱えている。
私は、深く息を吸った。
――選ばなければならない。
誰を信じるか。
誰を遠ざけるか。
それは、
母が私の代わりに背負った選択を、
今度は私自身が引き受ける、ということだ。
怖い。
それでも。
私は、前に進む。
第二部開幕
◇
夜の静けさの中で、
その決断だけが、確かな重みを持って私の中に残っていた。
コンコン。
控えめなノックの音が、夜の静けさに溶け込む。
こんな時間に訪ねてくるのは、一人しかいない。
「……どうぞ」
扉が開き、ユウリが入ってくる。
手には、湯気の立つカップ。
「お嬢様、紅茶を」
「ありがとう」
カップを受け取ると、指先に温もりが残った。
「こんな遅くまで、起きていらっしゃったのですね」
「うん……」
一口、紅茶を飲む。
ほっとするはずなのに、胸の奥は静かに張りつめたままだ。
「私、決めた」
その一言で、ユウリの空気が変わる。
「……はい」
促すように、静かな声。
「誰を、どこまで連れて行くか」
「そうですか」
驚きはない。
まるで、この瞬間を待っていたかのようだ。
私は、ユウリを見上げる。
「ユウリ……一緒に来てくれる?」
ほんの一瞬、間があって。
次の瞬間、ユウリはにこりと――満足そうに笑った。
「当たり前です」
そう言って、胸に手を当てる。
「私は、あなたの執事です」
そして、静かに、しかし揺るぎなく続けた。
「あなたが望むその時まで――
いえ、望まなくなるその時が来たとしても」
ユウリの瞳は、まっすぐだった。
「私は、あなたの傍におります」
胸の奥で、何かがほどける。
――一人じゃない。
その事実が、こんなにも心強いなんて。
「ありがとう、ユウリ」
「いえ」
ユウリは軽く頭を下げる。
「覚悟を決められたのは、お嬢様ご自身です。
私は、それを支えるだけ」
ランプの灯が、2人の影を壁に映す。
主と執事。




