表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/222

孤独な黒狼6

お嬢さまはにっこり笑う。


「だから、ご飯いっぱい食べてね。

レオの作るご飯は本当に美味しいんだから」


言われて、俺はこくんと頷く。


(……うん、食べよう)


――やっと、素直に思えた。


「……あ、悪かったな。

誤解してて。テオだっけ?

俺のご飯、食べてくれよな!」


ニカッ、と明るく笑うレオ。

パワーはすごいけど、やっぱり料理人なんだ。

そう思うと、少し安心した。


「ちょっと、何事ですか?

って、このドアどうしたんですか」


ユウリもやってきた。

俺とレオを交互に見て、眉をひそめる。


お嬢様はため息をつきながら、事情を説明する。


「……やれやれ」


頭を抱えるユウリを見て、

なんだかほっとする自分がいた。


「まず、レオ!」


ユウリの声は少し厳しい。


「早とちりしないように!

扉の修理費は一部、給料から引かせてもらいます」


「はい!」


「次、セナ。

テオの食事や行動をもう少し注意すること。

どうやら、その辺の野草を食べていたようです」


「はい」


そして、俺の方を見て言う。


「そして、テオ。

お嬢様の言うとおりです。

まずは、貴方の健康が第一。

自分を大切にしなさい」


「はい……」


深く頷く。

初めて、誰かに「自分を大切にしろ」と言われた。


――そして、最後にお嬢様の方を向いて。


「あと、お嬢様」


「え!? わたしも!?」


お嬢様は目を大きく見開き、驚いている。

「人に自分を大切にするようにと言っていましたが、

お嬢様もですよ!

しっかり食べて、休んでください。

ほら、行きますよ」


ユウリの声は、穏やかだけど力強い。

あの人、本当に何でもできそうだ。


「わかったよー、じゃあまたね」


そう返すと、

お嬢様は笑顔で連れていかれた。

……あのユウリって人が、実は1番最強なのでは、と少し思う。


しばらく沈黙。

部屋に残るのは、まだ少し揺れる扉と、朝の光。


「テオ、その辺の草を食べるな。

あと、ちゃんと見れてなくて悪かったな」


セナの声。

謝られると少し戸惑う。

別に、この人のせいではないのだけど――

まあ、いいか。


こくんと頷く。

小さく、でも確かに、自分の気持ちを込めて。


「よし、じゃあみんなで朝飯食うぞ」


レオが明るく声をかけ、

俺はその後に続く。


部屋を出ると、

朝の光が柔らかく差し込み、

騎士団の棟をゆっくりと歩く。


――このドア、いつ直るのかな……


まだ少し気になるけど、

今はいい。

ちゃんと、温かいご飯を食べることが先決だ。


足取りは軽くないけれど、

これも、俺の一歩だ。


それからの1年は、まるで光の速さで過ぎていった。


剣術は、セナのおかげでぐんと上達した。

騎士団員たちにも互角以上に立ち向かえるようになったけど、セナだけはどうしても倒せず、悔しくて歯噛みすることもあった。


お嬢様や騎士団員の人たちに教えてもらい、文字も書けるようになった。

最低限の礼儀作法も、ぎこちなくはあるけれど身についてきた。


季節ごとのお嬢様との思い出も増えていく。


春には桜の下でお団子を頬張り、

夏は騎士団員みんなで川に飛び込んではしゃいだ。

秋には焼き芋を食べながら紅葉を眺め、

冬には雪の中で雪合戦をしてびちゃびちゃになり、ユウリに怒られたっけ。


――今まで生きてきた中で、間違いなく一番充実して、幸せな1年だった。


『お嬢様が、生きていてよかったと思えるように』

その言葉は、今では実感として胸に刻まれていた。

この場所を絶対に失いたくない。


そして、また春が来た。


「ねぇ、テオ。明日は王国騎士団員の試験でしょ!

髪の毛、整えてもいいかな?」


お嬢様に言われ、自分の長く伸びた真っ黒な髪に手が伸びる。


「うん」


その一言に、ぱぁっと笑顔が広がる。


「よし、任せて!かっこよくするからね」


そう言うと、お嬢様はどこから出したのか、手際よくヘアピンやエプロンを取り出す。

迷いなく整えていく姿は、まるで小さな職人のようだった。


「お嬢様、手慣れてますね」


セナも思わず感心した声を漏らす。

目の前で髪を整えるお嬢様を見て、心臓が少し早くなるのを感じた。


(……大丈夫かな、このまま切られても)


緊張と期待が入り混じる中、

お嬢様の手は迷いなく動き、髪が少しずつ形を整えていく。


「それはもちろん、暴れ羊のショーンのカットだってやったことあるんだから」


お嬢様は自信満々に言う。

……羊のカットって、丸刈りのことじゃないのか?


(ちょ、ちょっとそれは……いやだ……)


不安がよぎるけど、言う間もなく手鏡を渡される。


「はい、できた!」


鏡を見ると、短くきれいに整えられている。

前髪は少し長めに残してくれたようで、ほっと胸をなでおろす。


「ありがとう」


笑顔で礼を言うと、お嬢様はにこにこと頷いた。

その笑顔だけで、少し勇気が湧いてくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ