孤独な黒狼1
テオ、13歳。
ティアナ、14歳。
さむい、さむいな。
おなかもすいた。
ボロボロの服にベットリと黒い血がはりつく。
痛くはない、全部返り血だ。
その辺の冷たい川で体を洗う。体が凍えてしまいそうだ。
水面にうつる自分はひどく汚い。自分の赤い瞳と目が合う。
こんな目きらいだ。
親と呼べる人はいない。
この瞳のせいだ、おれは捨てられた。
近くの小屋に入る。
「やっと戻ったか。汚ねぇガキだな。相変わらず。その目も気持ち悪いからみるな。
それよりちゃんと始末しただろうな。」
コクンと頷き、ポケットから財布を出す。
目の前の人は、仕事をすればここにいさせてくれるといった。あとごはんも。
「ほら、飯だ」
差し出されたのは硬いパン一つ。
それを持ち、小屋からでて横の家畜小屋の藁に埋もれながら過ごす。
パンはカビが少し生えてるけど、お腹はすいた。もらえないよりマシだ。
なにもできない俺に価値はない。
だから仕事を失敗した時には、ご飯抜きのことだってあった。
そうならないために、がんばった。
人を殺すことに何の感情もわかなかった。
それより空腹はつらい。死ねたらいいのに、なかなか死ねなくて苦しい。
藁に埋もれながらまた夜を迎える。
「おい、ガキ。仕事だ」
そういわれ動き出す。
「ここに書いてある人物を全員始末しろ」
そういわれ、連れてこられ先は、野盗の集まりのアジトだった。
人数が多く、殺しきれず殴られて、縛られた。
「おい、お前に仕事を頼んだのはだれだ!?はけ!」
何度も殴られたが、俺に頼んできた人の名前なんて知らない。
「気味の悪りぃガキだな。さっさと殺すか」
「おい、そこのガキはほっとけ。ラピスラズリ伯爵家の騎士団が動いてるらしい。はやく逃げるぞ」
どのくらいたっただろう、鎖に繋がれて縛られて動けない。
お腹空いた、寒い。
だけど、全部どうだっていい、ここで死ねるなら。
「うわ。セナ中々臭うね」
「お嬢様死体がありますから、気をつけてください」
誰か来たのか。
まあ、俺には関係ない。
「おーい、生きてる?」
近くで話しかけてきた…女か。
うっすら目を開ける。
子供じゃないか。
「お嬢様あまり近寄らないでください、彼は″血に飢えた黒狼″と呼ばれる少年かと思います」
「そっか、あの人数を1人でやったのかな」
「そのようですね。すべてナイフで正確に仕留めてます」
「ふーん。ここがこの数年で規模を拡大した野盗グループか。
残りの残党は、第1騎士団がどうにかするよね」
「大丈夫でしょう。お嬢様の計算通りに川を下って逃げたはずです、そうすれば確実に第1騎士団が捕えるでしょう」
何なんだこの子供は。
綺麗なドレスを着たやつが来るところじゃないだろ。
「ねぇ、貴方どうしたい?生きたい?」
俺に話しかけてるのか頭のおかしいやつだな。
「おーい」
そう言うと俺の前髪を触ってきた、目が合う。
この赤い瞳をみれば気味悪がって帰るだろ。
「わぁー赤い瞳。ルビーみたいで綺麗だね」
「は?」
予想外の言葉に思わず声が出た。
この目をみて、そんな事言ったやつなんて誰1人いない。頭がおかしいのか。
「なんだ生きてるじゃん」
…なんだこいつ。
俺にさらに近づき、視線を合わせる。
「ねぇ、どうしたい?生きたい?」
答えるまで聞くのか、クソだるい。
「どうでもいい」
「ふーん、そう。ならいいや」
立ち上がりドレスの裾を叩く。
「ここでボロ雑巾のように誰からも必要とされずに死ぬのね。
ほんと惨めね」
鼻で笑う少女。
むかつく。なんなんだよ。
何も知らないくせに。
はじめからなんでも持っているやつにわからない
気づけば体が動き縛られていた鎖を引きちぎり少女に掴みかかろうとしたが、手は届かなかった。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
銀色の髪の男がそう声をかけると同時に、俺の腹に鋭い衝撃が走った。
息が詰まり、床に叩きつけられる。視界が揺れた。
「ええ、大丈夫よ」
彼女の声は落ち着いていた。
「お、お前みたいな……恵まれた人間に、なにがわかるんだよ!」
叫んだ瞬間、喉が焼けるように痛んだ。
ほとんど何も食べていない体で声を出すのは、久しぶりだった。
「俺は、はじめから何もなかった。
こうやって生きていくしか知らないんだ。
……でも、もうどうだっていい」
俺の前に、彼女が屈み込む。
淡い光を宿した瞳が、まっすぐこちらを見つめていた。
「そうね。貴方と私は違うわ」
彼女は否定を恐れない口調で続ける。
「私は伯爵家の娘。
だから――貴方を、ここから連れ出すことができる」
その声は、驚くほど優しかった。
「……そんな同情、いらない」
「本当に?」
彼女は首をかしげ、静かに言う。
「貴方は、この世界しか知らない。
ちっぽけで、冷たくて、閉ざされた世界」
胸が、わずかに軋む。
「でも、外へ出たら――
生きていてよかった、そう思えることに出会えるかもしれない」




