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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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ユウリの心配3

自室に戻ると、ユウリが静かに紅茶を淹れてくれた。


たっぷり注がれたミルクの白が、湯気の向こうでゆっくりと混ざっていく。

それを一口含むと、不思議と心が落ち着いた。


そして私は、蝶の会で起きた出来事を、ひとつひとつ話し始めた。


「まず、その“サーフェス”という男の話だけど……」


カップを両手で包みながら言葉を選ぶ。


「魔女の雫は、宝石を媒介にして

人の弱さや憎悪、恐れ、絶望……そういった感情を集めるらしいの」


ユウリは無言で紙を取り、要点を書き留めていく。


「集められた感情は、より強大な形となって

“魔女の紅血”に変わるそうよ」


「紅血は、ただの魔力じゃない。

欲望を増幅し、持つ者に途方もない力を与えるものなんだって」


ペン先が止まり、簡潔な言葉が紙に並んだ。


――魔女の雫

――感情の集積

――紅血へ変換


「そして、それを企んでいる人物は……まだ不明」


「……そうですね」


喉が少し乾き、紅茶をもう一口飲む。


「それから……私の記憶の件」


「男性と女性が言い争っている光景が、何度も浮かぶの」


言葉を選びながら、続けた。


「その女性のことをアイリスって呼んでた」


「アイリス様ですか」

ユウリが呟く。


「呼んでたその男性はお父様かもしれない……

顔ははっきり思い出せないけど……」


記憶を辿る。


確信はない。

けれど、父のような気がした。



「さらに――」


私は息を吸う。


「お父様が蝶の会に関わっている“かもしれない”という点」


ユウリの表情が、わずかに引き締まった。


彼は黙ってその内容を書き加える。


「そして最後に……」


「謎の男、サーフェスと共闘すべきかどうか」


書き終えると、ユウリは紙全体を見渡し、小さく息をついた。


「……中々の情報量ですね」


「でしょ……もう頭がパンクしそう」


思わず本音がこぼれる。


ユウリは、わずかに口元を緩めた。


「では、順番に整理しましょう」


「まずは、アドルフ様が本当に蝶の会へ出入りしていたかどうか。

仮面越しでしたし、別人という可能性も否定できません」


「うん……お願い」


「次に、その記憶に出てきた女性についても調べてみます」


「……ありがとう」


少し肩の力が抜けた、そのとき。


机の上に広げられた紙の端に、妙なものが目に入った。


「……ねえ、ユウリ」


「はい?」


「この絵に描いてある……その化け物は、何?」


まとめられた図の片隅。


どう見ても人とは思えない何かが描かれている。


角のようなもの、鋭すぎる目、禍々しいオーラ。

しかも、やたら迫力だけはある。


あまりにも壊滅的な似顔絵に、思わず尋ねてしまった。


「お嬢様ですよ」


「…………は?」


まさかの回答。


私本人。


衝撃的すぎる事実に、思考が一瞬停止した。

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