蝶の会潜入1
ティアナside
ユウリが一人で蝶の会に潜入しようとしていることには、薄々気づいていた。
長い付き合いだ。彼が私を危険から遠ざけるため、単独で動こうとすることくらい、簡単に想像がつく。
だから私は、別ルートで調べ始めた。
蝶の会は、貴族たちが集う秘密の社交場。
表向きは優雅でも、裏では金と欲が渦巻いている。
そこで目をつけたのが、宝石に異常な執着を見せ、金の出入りが激しくなった貴族たちだった。
その中でも特に目立ったのが――
悪評高い、ゾーナ伯爵。
立場だけは立派だが、爪が甘い。
情報を隠すのも、人を見抜くのも下手な男。
だから、セナに調べさせた。
多少……強引な手を使って。
南の温室。
“羽化”の夜。
合言葉は「白い蝶」。
蝶の会は月に一度だけ開かれ、参加には招待状が必要。
その正体は――宝石だった。
準備は抜かりなく進めた。
仮面、ドレス、身分を偽るための細工。
すべて整えた上で、私は確信していた。
一人で行かせたりしない。
案の定、ユウリは会場へ向かう途中で見つかった。
私たちは同じ馬車に乗り込む。
「お嬢様は、どうやって調べたのですか?
危険なことはしていませんね?」
ユウリが真剣な目でこちらを見る。
「蝶の会が貴族の集まりだって聞いたから。
宝石に魅了されて、金遣いが荒くなった貴族……
ゾーナ伯爵、覚えてる?」
「ええ。裏で色々やっていると噂の。
ただ、伯爵という立場上、手出しができないと」
「だから、脅したの」
さらりと言うと、ユウリが絶句する。
「あ、でも私じゃないよ。セナがね」
ちらりとセナを見る。
「正体が割れないよう、背後から処理しましたので問題ありません」
「……そういう問題ではありません」
ユウリは深くため息をついた。
「それで、蝶の会に入るための招待状は――これ」
銀の箱を開け、宝石を二つ取り出す。
一つはローズマリー夫人から回収したもの。
もう一つは、ゾーナ伯爵から手に入れたもの。
「危険はありませんか?」
「大丈夫。黒いモヤは見えないし、直接触らなければ問題ない」
そう前置きしてから、続ける。
「それで、この宝石を調べてみたんだけど……」
「また危険なことを……」
心配するユウリに、私は微笑んだ。
「ちゃんと成果はあったよ。
肉眼じゃ見えないけど、特殊な赤外線を通すとね。ほら」
特殊なルーペを差し出す。
「これは……」
「でしょ? 蝶の模様。
これで招待客を判別しているみたい」
「まさか、宝石にそんな細工が施されていたとは……」
ルーペを返しながら、ユウリが静かに息を吐く。
「だから、宝石は2つしか用意できなかった。正面からは、私とセナ。」
そう告げると、
「では、私は主催者側から回りましょう」
即答だった。
「それで大丈夫?」
念のため確認すると、ユウリは穏やかに頷く。
「ええ。
元からそのつもりで準備していましたので問題ありません。
ただし――」
視線が私に向く。
「お嬢様は、決してセナから離れないでください」
「わかってる」
短く答える。
ユウリはそれで納得したように、今度はセナを見る。
「セナ。お嬢様を、お願いします」
「はい」
セナは迷いなく、力強く返事をした。
「それでセナと私はパートナーとして参加するとして、偽名を使いましょう。
私のことは…そうね。今日は月がよく見える夜だからルナと呼んで。セナはどうする?」
そう言ってセナに視線を向ける、少し悩む素振りをする。
「…お嬢様にお任せします」
「じゃあ シオンね!」
「はい…なぜその名前ですか?」
「昔好きだった小説の主人公。ただヒロイン守るために片腕なくなっちゃうんだけどね」
「とても物騒ですね…」
「確かに」
苦笑いをするセナとユウリ。
「任せるっていったでしょ?じゃあシオン!今から恋人同士ということでよろしくね。
ユウリも会場の中では極力接触しないようにしましょう」
「はい」
「わかりました」
セナとユウリが返事をしたところで馬車が静かに止まり、御者の合図が夜気に溶けた。
3人はそれぞれ仮面に手をとった。
石畳に降りると、会場の温室は改装されており前見た時とはまるで違う建物に見えた。
私ティアナ…いやルナは深呼吸した。
「……似合ってるよ」
思わず口をつくと、彼は一瞬だけ言葉に詰まった。
「お嬢様こそ——いえ、ルナ」
呼び名が変わるだけで、胸の奥が少しざわつく。
私は微笑み、腕を差し出した。
「恋人同士、でしょ?」
「……はい」
指先が触れ合う。
2人は歩調を合わせ、入口へ向かった。
ユウリは、素早く静かに別の出入り口に向かって行った。
扉の前で係員が一礼する。
「合言葉を」
そう問われ、緊張しながら。
「白い蝶」
と答える。
「それでは招待状のご提示を」
ドレスのポケットから2つの宝石を見せる。
係員が特殊なライトを宝石に照らす、蝶の模様を確認。
「間違いないですね…ところで」
「何でしょう?」
係員に引き留められ少し緊張する。
「宝石は身につけられないのですか?」
こんな物騒な宝石身につけられるかと思いつつ、穏やかに笑ってみせる。
「私の今日のドレスとでは、相性が悪いの。
それに彼とお揃いの宝石をつけたいからそれも今日探しに来たの」
そう余裕たっぷりにいい、シオンの腕に捕まる。
「ああ、ルナに似合う宝石があるはずだ」
「それは失礼致しました。ようこそ、蝶の会へ」
係員がお辞儀をし扉が開く。
ここで何が行われているのかこの目でしっかりと確かめなければ…




