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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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ユウリとお嬢様5

「何をなさっていたのですか?」


「走り込みをね!体力もつけないと!」

動きやすい格好のまま、元気に笑うティアナお嬢様。


「そうでしたか」

その真剣さに改めて感心する。


「でも、このあと馬小屋に行って、にんじんもあげに行くの」


「では、ご一緒します!」

ユウリは自然と答えていた。



正午。

お茶会の礼儀作法を学びながら一息ついていると、突然騒がしい声が聞こえてきた。


「お前の仕業だろう!白状しろ!」


「そうよ!」


この声は――間違いなくマルク様だ。

ユウリは思わず眉をひそめる。


「少し様子を見に行きましょうか?」

ティアナお嬢様が立ち上がり2人で声の方へ向かう。


そこには、マルク様や令嬢たちが集まるお茶会の一角があった。

マルク様はある令嬢を指差し、大声で責めている。


「失礼致します。何事ですか?」

ティアナお嬢様が前へ出る。


「なんだ我が妹よ。お前をお茶会に招待したつもりはないがな」

マルク様の言葉には、相変わらずの横柄さとおごりが滲んでいる。


「あまりにも下品な声が聞こえてきたもので、驚きまして」

ティアナお嬢様は嫌味たっぷりに返す。

ユウリの心の中で、少しばかり良い気味だと思う感情が芽生えた。


「下品とは失礼だな。

まあいい、そこのユリア嬢がナナ嬢の持ってきたバラをめちゃくちゃにしたのだ」


ピンク色のバラは無惨に散り、茎や花弁が床に散乱している。


「私ではございません。私はただ薔薇の数を…」

泣きながら弁明するユリア嬢の言葉を、ナナ嬢は強く遮る。


「なんてことなの!!

私が持ってきたバラが貴方のバラと被っていて気に食わなかったからって、ひどいわ」


「ナナお嬢様が可哀想だわ」

周囲の令嬢たちもナナ嬢の肩を抱き、同情を示す。


「これだから、市民出身の者が私たち貴族のお茶会に混ざるからよ!」

ナナ嬢は泣き笑いのような表情で演技を続ける。


ユウリはその様子を観察する。

一目でわかるのは――ナナ嬢がユリア嬢を巧みに嵌めたこと。

だが、証拠を示すことは難しい。


ふと、ティアナお嬢様に目を向けると、彼女は泣いているユリア嬢の肩をそっとさすりながら、耳打ちで何かを確認している。

ユウリにはその言葉は聞こえなかったが、目の動きと仕草から、ティアナお嬢様は状況を的確に把握していることがわかる。


「さて、少しお話よろしいでしょうか?」

ティアナお嬢様がゆっくりと立ち上がり、柔らかく微笑む。


「なにかしら」

ナナ嬢は少し警戒した表情だ。


「なんだ、言ってみろ、妹よ」

マルク様もティアナお嬢様に注目している。


「まず、こちらのバラですが……濡れていますね。

こちらは花瓶に入っていたのでしょうか?」


「ええ、そうよ」


「持ってきたバラは誰が花瓶に入れたのですか?」


「それはうちの使用人にやらせた。令嬢たちの手を煩わせるわけにはいかないからな」

マルク様は少し紳士的に答える。


「ただ、少し化粧室にと目を離した隙にこの有り様だったのよ」

ナナ嬢が説明する。


「そうでしたか。ところで、今日はとても良いお天気ですね」


「は?まあ、そうですわね」

ナナ嬢は急に話題を変えたティアナお嬢様に怪訝な様子を見せる。


ティアナお嬢様は冷静に周囲を見渡し、言葉を続ける。

「雨も降っていないので、地面も濡れていません。


なのに――どうしてナナ令嬢のドレスの裾は濡れているのでしょう?」


ユウリは息を呑む。

お嬢様の言葉はまるで、ただの観察ではなく論理の刃のように空気を切り裂いていた。

誰もが視線を下げざるを得ない――ティアナお嬢様の洞察力が、この一瞬で場を支配したのだ。


確かにナナ嬢のドレスの裾は泥で少し汚れている。


「あとそうですね……まるでバラのトゲに引っかかったような傷もドレスに見られますね」


ティアナお嬢様の指摘に、ナナ嬢の顔が青ざめ、慌てふためきだす。


「こ、これは少し……お茶をこぼしましたのよ!

あとドレスの傷は、馬車から降りる時にできたものですわ!」


無理のある言い訳を必死に並べるナナ嬢。


「では、この手はなんて説明しましょうか?」

ティアナお嬢様はナナ令嬢の手を取り、手袋を外す。

指先にはバラのトゲでできた傷がくっきりと見える。


「な、なにを……」

ナナ令嬢は息を詰める。


「そうですね、ユウリ。そちらのユリア嬢の手も確認してくれるかしら」


「は、はい。失礼します」

ユウリがそっとユリア嬢の手を見ると、手袋はしていないにも関わらず、傷ひとつない綺麗な指先がそこにあった。


ユウリの胸に、答えは明らかだ――ナナ嬢がユリア嬢を嵌めたのだという確信が走る。

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