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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第一部

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後日談1

後日談①

ティアナside


「ねぇ、ティアナちゃん」


訓練場の端。

木剣の整備をしているところへ、ルイがひらりと現れた。

伯爵家に注文の品を届けてくれた帰りだろう。


「ちょっと疑問なんだけどさ。

 魔宝剣の使用って、かなり厳しく規制されてなかったかしら?」


「うん」


即答だった。


「新人研修のときも、訓練で使わせてもらうには

 事前申請と承認が必要だったはず」


「ですよね?」


アレンも頷きながら続ける。


「じゃあ……あの時、どうやったんですか?」


一瞬、沈黙。


私は視線を泳がせた。


「えっと……」


その様子を見て、ロベルトとレオが同時に何かを察した顔になる。


「あー……それね?」


「うーん……」


「レオちゃんたちは、知ってるの?」


「だいたい」


レオは苦笑いし、肩をすくめた。


「“正面から申請したら通らないやつ”でしょ」


「……うん」


小さく頷く。


「やっぱり」


アレンは目を丸くした。


「え、じゃあ無断使用!?」


「ちがうちがう!」


私は慌てて手を振る。


「ちゃんと、許可は取ってるの」


「どこで?」


「……書類上は」


ルイとアレンが同時に顔を上げた。


「書類上?」


「うん」


少し言いにくそうに続ける。


「訓練内容を“対人模擬戦”じゃなくて、

 “多人数連携調律試験”って名目にして」


「……あ」


アレンの思考が止まった。


「魔宝剣の使用目的を

 “攻撃”じゃなくて“魔力観測”にして」


「……あぁ」


「危険度判定を“低”に下げて、

 代わりに監督責任者を増やして」


「待って待って」


アレンが思わず遮る。


「それ、誰が責任者になったんですか?」


「えっと……」


ほんの一拍。


「セナと、殿下」


その場の空気が、ぴたりと止まった。


「……通るわね、それ」


ルイが遠い目をする。


「通らないわけがないよね」


テオも笑う。


「でも、それって――」


アレンが恐る恐る言う。


「かなりグレーじゃないですか?」


私は少し困ったように笑った。


「うん、グレー」


「黒では?」


「限りなくグレー」


そう言ってから、付け加える。


「でもね、規則は破ってないの。

 “使っていい条件”を、全部満たしただけ」


「条件を……書き換えただけで?」


「うん」


あまりにあっさり言うものだから、

アレンは思わず頭を抱えた。


「それ……騎士団の人が一番やっちゃいけないやつ……」


「そう?」


首を傾げる。


「でも、誰も困ってないよ?」


「……確かに」


実際、被害はなかった。


訓練は成功し、

騎士団の連携能力は向上した、名目上は。



「じゃあさ」


ルイが少しだけ真面目な声で言う。


「私とレオちゃんに、ティアナちゃんが魔宝剣を使うのって、

 やっぱりまずいわよね?」


「一応、魔宝適正判定は受けてるけどな」


レオも付け加える。


「大丈夫」


私は頷いた。


「問題ないよ」


「……ほんとに?」


「だって」


にこっと微笑む。


「私たち、“騎士として使ってる”わけじゃないもの」


その言葉に、二人は黙った。


「守るためでも、

 戦うためでもなくて――」


「“支えるための力”として使ってるだけ」


声を少し落とす。


「登録も管理も、全部王国の管轄。

 定期検査も、制限刻印も、ちゃんと受けてる」


「……なるほど」


アレンが小さく頷いた。


「完全に合法だけど、

 仕組みを理解してないと通らないやつですね」


「そういうこと」


私は少しだけ照れたように笑う。


「うやむやにしたわけじゃなくて――

 “うまく隙間を通った”だけ」


レオは深く息を吐く。


「……セナが止められないわけだ」


うんうんとみんなが頷く。


「え?」


「いや、なんでもない」


そう言って、苦笑する。


規則を破らず、

権限を振りかざさず、

それでも必要な結果だけを導く。


そのやり方は、騎士というより――

どこか、王族に近かった。


ティアナ本人だけが、

その自覚のなさを含めて。

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