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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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蒼の約束4

さらに1ヶ月後

鈴音のようにきれいな声で、ティアナが俺を呼ぶ。

「セナ……」


少し不安だ。

何だろう、この胸のざわつきは。


「実は……伯爵家の仕事が忙しくなるの。

ここの工場も落ち着いたから、しばらく会いに来れなくなる」


「そっか……」

言葉が、ほんの少し寂しく響く。


ティアナは小さな手を差し出す。

「これ、セナに」


手に取ると、淡い水色の宝石が光るブレスレットだった。

「これは……?」


「アクアマリンよ。あなたに。

勇気と希望を象徴する石」


――そう言われて、胸がぎゅっとなる。

この小さな宝石が、ティアナの想いそのものに感じられた。


「ありがとう」

俺はそっと握り、必ず大切にすると心に誓った。


ティアナの顔が、少し寂しそうに揺れる。

何か言おうとして、言葉を迷っているのが分かる。


「俺……騎士になるよ。

ティアナが俺にきっかけをくれた。

だから待ってて…は違うな。すぐに追いつく」


ちょっと照れながら、でも目は真剣に。


ニカっと笑うと、ティアナはようやく小さく笑った。

「うん……待ってる」


その瞬間、何とも言えない温かさが胸に広がる。



俺はブレスレットを握りしめ、心の中で誓った。

――ティアナの騎士になる。

どんな時も、どんな困難も、彼女のために立ち向かう。

それが彼女への恩返しだ。


そしていつか、また一緒に笑える日まで――


あの日の夕暮れから、俺の生活は変わった。


ブレスレットを握りしめ、ティアナの声を思い出しては、支えにし、俺は訓練に明け暮れた。


剣の基本。馬術。戦術。耐久力。

毎日毎日、疲れ果てるほど走り、剣を振った。

年齢のせいで最初は笑われることもあったけど、俺は諦めなかった。

「ティアナが、俺の成長を待ってる――」

その想いが、どんな苦しさも超えさせてくれた。


数年後、12歳で始めた修行は、ついに成果を見せる。


王国騎士団の試験に合格したのは、15歳歴史上最年少だった。

立派な騎士の制服に身を包むと、あの日の夕暮れを思い出す。

小さなティアナが、笑顔で「待ってる」と言ってくれたあの瞬間。


そして今日――


王宮の広間で、再びティアナと向き合った。


「……ティアナお嬢様」

目の前に立つ彼女は、あの日の面影はそのままに、

でもさらに大人びて、気品と自信が溢れていた。


長い髪が光を受けて揺れる。

立ち姿だけで、空気まで凛とする。


思わず見惚れる。

胸の奥がドキドキして、剣を握る手に力が入る。


(……でも、俺は騎士だ。感情だけじゃ動けない)


深呼吸して、背筋を伸ばす。

「ティアナお嬢様 俺――騎士になりました。

あなたの騎士として、命に代えても守ります」


ティアナは少し微笑み、でも目は真剣そのものだった。

「そう……あなたなら、できると思ってた」


その言葉に、胸が熱くなる。

そして確かに、自分の中に覚悟が生まれた。


もう泣いたり迷ったりはしない。

騎士として、セナとして、

――ティアナお嬢様を守る。


俺は小さく頷き、心の中で誓った。


(もう後戻りはできない。

ティアナお嬢様のため、王国のため、俺は前に進む――)


目の前のティアナお嬢様の視線に、恋心のようなものを感じながら、俺は剣を握り締めた。



うたた寝をしていたら懐かしい夢をみた。


ティアナお嬢様からもらったブレスレット。

チェーンはもう駄目になってしまって、今は形を変え、ピアスとして作り替えてもらった。


耳元で光るアクアマリンに、そっと指を触れる。

あの時と変わらない、澄んだ蒼。


――勇気と、希望。


そうだ。

俺は、お嬢様を守る。


何があってもだ。


12歳のあの日、俺は決めた。

彼女の力になると。

怒りと無力さしか持たなかった、あの頃の俺ではない。


今の俺は、騎士だ。


だから分かってしまう。

お嬢様が施設でのボランティア中に、危うい力を使ってしまったこと。

それが王国の目に留まれば、彼女は利用され、搾取される。


それだけは、絶対にあってはならない。


だから、ディラン殿下と話をつけた。

殿下がお嬢様に好意を抱いていることも、承知している。

……それすらも、使わせてもらう。


手段は選ばない。

お嬢様を守るためなら。


だからやはり、これ以上はだめだ。


宝石事件。

蝶の会。


これ以上深入りさせるわけにはいかない。


俺は騎士だ。

彼女を守るのが、俺の仕事だ。


……彼女がそれを望んでいないことも、分かっている。

大人しく守られるだけの、お姫様でいられない人だということも。


それでも。


何も知らず、

少しだけ世間知らずで、

危険から遠い場所にいるお姫様でいい。


彼女が、安全であるほうがいい。

それが何よりも大切だ。


――そうに、決まっている。


耳元のアクアマリンが、静かに揺れる。


あの日、彼女がくれた希望を、

俺は俺のやり方で守る。


たとえそれが、

彼女の意思と食い違うことになったとしても。


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