お嬢様の反逆1
孤児院でのボランティアの一件以来 私は宝石事件を、独自に追っていた。
騎士団の報告書、街の噂、意図的に消された記録。
点と点をつなげていった先に――蝶の会があった。
間違いない。
あれは偶然でも、単なる犯罪でもない。
けれど、すべてが狂ったのは、孤児院でのボランティアの日だった。
あの時、私は――共鳴を使った。
守りたかった。
力を使ったことを後悔している訳ではないけれどただ、まずいとは思った。
この力は知られては行けないと。
それを知ったセナは、何も言わなかった。
けれど、すぐに分かった。
――ディラン殿下と、何かしら繋がっている。
蝶の会から私を遠ざけるため。
危険から切り離すため。
守る”という名目で。
……でも。
それは、私の望みじゃない。
すでに、身近な人は傷ついている。
誰かの悪意で。
誰かの都合で。
このまま見過ごせば、きっと――
死人が出る。
想像しただけで、胸の奥が冷たくなった。
私の大切な人が、奪われてしまったら?
その時、私はどうするの?
――なにもしないの?
そんなの、ありえない。
私は、見過ごせない。
黙って守られるだけの存在になど、なりたくない。
「守られるだけのお姫様なんて……
なって、あげない」
だから私は決めた。
セナに、諦めさせる。
力でねじ伏せるのではない。
覚悟ごと、理解させる。
そのためには――
勝たなければならない。
正面からでは無理だということも、
彼がどれほど強いかも、分かっている。
だから。
私は策を練ることにした。
信頼できる人たちを、招集する。
雷のように動く、やんちゃで真面目な新人。
土のように揺るがない、力強い騎士。
影のように気配を消す、誇り高い男。
そして、予想外の切り札たち。
――一人では無理でも、
仲間となら、道は作れる。
私は机に地図を広げ、ペンを取った。
「さて……」
自然と、口元が少しだけ緩む。
「どうやって勝とうか、セナ」
これは、諦めさせるための戦い。
私が“進む”と決めたことを、証明するための――
最初の一手だ。
――そろそろだろう。
そう思った矢先、セナは私の前に姿を現した。
いつもの穏やかな表情ではない。
剣を抜かずとも、張り詰めた空気が伝わってくる。
「お嬢様。これ以上、宝石事件や蝶の会の詮索はやめてください」
迷いのない声。
それが、余計に分かりやすかった。
「どうして?」
「危険だからです」
たった一言。
でも、その裏にあるものが手に取るように分かる。
――守るつもりなのだ。
私を、この件から遠ざけることで。
「……そう」
私は一度、息を整えた。
「なら、条件がある」
セナはわずかに眉を動かした。
「なんでしょう」
「私と勝負しましょう。剣で」
セナは即座に否定しなかった。
それが、彼の誠実さだ。
「私が勝ったら」
はっきりと言う。
「あなたは、私のすることを見守る。
止めない。口も出さない」
しばしの沈黙。
「……お嬢様は、俺に勝てたことなどないでしょう」
事実だ。
それでも、私は笑った。
「次は勝つよ」
自分でも驚くほど、軽い声だった。
セナは私をじっと見つめ、やがて小さく息を吐いた。
「……分かりました。いつにしますか」
「じゃあ、明日」
逃げ道は作らない。
「承知しました」
それだけ言って、セナは踵を返した。
◇
翌日。
私は用意を入念に済ませていた。
剣、装備、魔宝石。
そして、仲間との合図。
日にちを空けすぎれば、セナは準備を整え、
こちらの意図を読み切ってしまう。
胸の奥で、不安が蠢く。
けれど、それ以上に――確信があった。
上手くいく。
――絶対に。
私は剣を握りしめ、静かに息を吐いた。
守られるためじゃない。
進むために。
今日、私は――
勝ちにいく。




