救世主1
気づけば、第一王子暗殺未遂事件から1週間。
結局 ウェイターは口を割ることなく、自害したとの知らせがきた。
デホラ男爵とその娘ニーナは、財産や地位を全て取り上げられて辺境の地で過ごすこととなった。
でも、まあ命があるだけマシだろう。
殿下の暗殺未遂事件以降 街で騒がせていた宝石事件が少し落ちついたところだ。
まだ何も解決していないが…
そんな中 第3騎士団騎士団訓練場にて新人のアレンと手合わせ中。
「アレン、もっと足踏み込んで、甘いよ!」
「は、はい!」
「ほら、そこ遅いよ!」
「は、はい!」
アレンは息を切らしながらも必死に食らいついてくる。
その様子を他の団員たちが遠目で見守る。
「なんだか今日、お嬢様キレッキレだなー」
「俺も次、手合わせしてもらおう!」
「みんなよくお嬢様に剣向けられるよねぇ……俺は絶対無理だ」
テオが頬杖をつきながらつぶやく。
「そうですか?でも、俺も最初は怪我させたらどうしようって心配してたけど、それよりもお嬢様が強すぎて余計な心配でしたよ。
テオさんなら、上手にコントロールして怪我させないようにできそうですけどね」
団員たちはうーんとうなりながら、改めてティアナの実力を感じる。
「当たり前でしょ。お嬢様に怪我一つなんてさせない。
他の団員たちがそんなことしたら許さないよ。俺がぶちのめしてあげる」
テオの鋭い瞳と低い声色に、周囲の団員たちが一斉に「ヒィ……」と小さな悲鳴を上げる。
「そういう意味じゃなくて…
お嬢様に剣を向ける行為そのものが、そもそも無理なんだろ」
セナが静かにテオの横へ歩み寄る。
「は? セナ副団長に知ったかぶりされたくないんだけど」
「……いちいち生意気なやつだな」
「あ、でもさ」
テオは急に表情を緩め、どこかうっとりとした顔になる。
「お嬢様と試合したら、俺のことだけ見て、俺の動きだけ考えてくれるんだよね。
それって、すごく良くない?」
その場の空気が、一瞬ひやりとする。
「……重い愛だな」
セナがぼそりと呟く。
他の団員たちも、無言で深く頷いた。
「あれ、みんな何の話してるの?」
アレンとの手合わせを終え、私は団員たちのところへ近寄る。
「お嬢さまぁ!お嬢さまへの俺の愛の気持ちについてだよー」
テオがにこにこと近寄ってくる。
「何言ってるんだか」
軽く笑いながら首を傾げる私。
「本当だよー。俺はお嬢さまには剣向けるの絶対無理って話してたんだ」
テオの顔は真剣そのもの。
「そう?テオと手合わせしてみたいけどなー」
ちょっとからかうように言う。
「お嬢さまのお願いでも、それはちょっとなぁ」
苦笑いを浮かべるテオ。
「ごめんごめん、無理強いするつもりは全くないの。それにテオは私より全然強いから、相手にならないだろうしね」
ふふっと笑うと、テオも安心したように肩の力を抜く。
「あれ、アレンは?」
他の団員たちがアレンの方を見ると、まだ大の字でへばり倒している。
「まだまだだなー」
誰かが苦笑する。
「うーん、でも筋はいいよ。言えば食らいついて反応してくれる。あとは訓練あるのみかな」
私が少し肩を揺らして笑うと、セナも頷きながら言葉を添える。
「そうですね。俺もそう思います。変な癖があるので、それは直さないといけませんけど」
団員たちは少しずつ笑顔を見せ、場が和む。
――こういう何気ない時間が、やっぱり安心するな。
「あーもう、どうするんだよぉー」
「いやあー、どうするも何もどうにかしなきゃだって」
「いやいや、どうにかって……はぁあああ」
第2騎士団の3人が、大きいため息をつきながらトボトボ歩いている。
その姿はまるで子犬のように情けなく、少し微笑ましい。
「何か困っているようですね」
セナが3人の様子を見て、静かに口を開く。
「そうみたいね」
私は軽く肩をすくめる。
「でもあいつら、第2騎士団ですよ!俺たちのことバカにしてるし、ほっとけばよくないですか!?」
食い気味で言う他の団員たち。
「俺もどうでもいいー」
テオも同意見の様子。
ただ……ここはちょっと、救世主になってやりましょうかね。
「ちょっと話を聞きましょうか。大体は予想つくけど」
心の中でため息をつきつつ、3人に近づく。
……多分、マルクの無茶振りだろう。




