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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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番外編 その手を差し出す日まで1


お嬢様が騎士団の真ん中でディランにプロポーズされた後すぐのこと…

俺テオは騎士団の任務で、夜会の護衛についていた。


ダンスパーティーの護衛。

正直、気が進まない。


……あーあ。

お嬢様に会いたい。

あのクソ王子。。お嬢様の手を取りやがって。



笑ってるお嬢様の顔が、勝手に浮かぶ。

なんであの人はあんなに可愛くて綺麗なんだろう。



退屈だけど、投げ出すわけにもいかない。

俺は――お嬢様の騎士だ。


音楽が流れ、貴族たちが優雅に踊る。

きらびやかで、平和で、

それでもどこか、くだらない。


そう思いながら会場を見回して――

ふと、見知った人物に気づいた。


……あれは。


お嬢様と、以前お見合いしていた人物。

第2騎士団、オリバー団長。

あの時はほんとむかついたけど。


へぇ。


あんなふうに、自然にエスコートできるんだな。

手の取り方も、距離の詰め方も、様になっている。


……すご。


胸の奥が、ちくりとした。


お嬢様もあいつとこうやって踊るのだろうか。


なぜか、俺の視線に気づいたのか。

オリバー団長が、こちらへ歩み寄ってきた。


「君は、第3騎士団で――

 お嬢様と親しい騎士だね」


……親しい。


その言葉を、頭の中で一度転がす。

悪くない。

むしろ、少しだけ誇らしい。


「どうも。テオです」


「テオか。よろしく頼む」


強面な見た目に反して、口調は穏やかだった。

拍子抜けするほど、普通に親切だ。


「あの……」


「なんだい?」


「ダンス……上手ですね」


思ったまま、口に出していた。


「ダンス?

 一応、子爵家だからな。

 これくらいは踊れないと困る」


そう言って、少し照れたように頬をかく。


……意外だな、この人。


「俺でも……できる?」


自分でも驚くほど、小さな声だった。


「できるさ」


あまりにも即答で、

逆に面食らう。


「……ほんと?」


「ああ」


オリバー団長は、軽く笑って言った。


「よければ、教えようか?」


一瞬、迷って――

それでも、俺は。


こくん、と頷いていた。



訓練の合間、空いた時間を使って――

オリバー団長が、約束通りダンスを教えてくれていた。


「まず立ち位置だ。

 それと……そう、腰に手を」


「こ、こう?」


「そうそう」


……意外と、難しい。


「ちょっと、ちょっと待ってくれ!!」


突然、割り込んできた声。


「なんだ、エリック?」


「なんだじゃないですよ!!

 なんで俺が、こいつのダンス相手なんですか!!」


噛みつくように叫ぶ。


「あ、えっと……お願い。

 エト? エリ? エリクソ?」


「エリックだ!!

 人をハナクソみたいに言うな!!」


くわっと、全力で怒鳴られる。


……名前、覚えてなかったのは悪かったか。


「まあまあ、いいじゃないか」


オリバー団長が、落ち着いた声で間に入る。


「騎士として、

 剣だけでなく社交も身につけようとしている。

 それなら、協力すべきだろう?」


「……はあ。団長がそう言うなら」


エリックは渋々、肩を落とした。


「でも言っときますけど、

 俺、手加減しませんからね」



「それでいい」


「あと、テオだったか?

 お前、敬語使え! 敬語!」


「わかった」


「わかりましただろうが!!」


……早速か。


エリックのレッスンは、想像以上に厳しかった。


「おい、前を見ろ。

 下を向くな!

 足を踏むな!!」


「うん……」


いや、無理だろ。

同時にそんなに意識できない。


――む、難しい。


こんなに難しいのか、ダンスって。


「とにかく姿勢だ!

 お前は姿勢が悪い!

 腹に力を入れろ!」


ぐいっと背中を叩かれる。


「それから、顎を引け」


言われた通りにすると、首が少しきつい。


「紳士としてエスコートできないなんて、

 美しくない!!」


……美しい、か。


剣なら、

相手を倒すために構える。


でも、これは違う。

相手を導くための姿勢だ。


そう思った瞬間、

言われていることが、少しだけ腑に落ちた。


エリックは相変わらず口は悪いが――

アドバイスは、やけに的確だった。


「次までに、姿勢を直せ。

 何十回、何百回もやれ!」


エリックは容赦がない。


「頭にこの本を乗せろ。

 絶対に落とすな。

 それができるようになるまでだ!!」


……無茶だろ、と思った。

でも――


「わかった」


俺は、言われた通りにやった。


何時間も。

何日も。

特訓の合間をぬって…。


本を頭に乗せて、歩いて、止まって、向きを変える。

落ちたら、最初から。


剣の素振りと同じだ。

地味で、単調で、逃げ場がない。


それでも。


「……なかなか、よくなったな」


ぽつりと、エリックが言った。


「ほんと?」


「エリックが言ったこと、

 全部やってる。

 毎日、何時間も」


「……あの量を、か」


「あたりまえ」


エリックは、何も言わずに口を噤んだ。


その様子を見ていたオリバー団長が、

ぽん、とエリックの肩を叩いて言う。


「すごいぞ、テオ。

 エリックの厳しい指導に耐えて、

 しかも“言われた以上”にやっている」


一拍おいて、穏やかに続けた。


「……お嬢様が、そばに置くわけだ」


その言葉が、胸に落ちた。


あたたかくて、

少しだけ、誇らしい。


オリバー団長と、2人きりになる。


周囲の気配が遠のいで、

静かな時間が流れた。


「……だいぶ、様になってきたな」


「そうだと、いいけど……」


「謙遜するな」


オリバー団長は、少しだけ口元を緩めた。


「あのエリックの指導についていける騎士は、

 第2騎士団でも多くはない」


「そうですか?」


「ああ。

 あいつは、自分にも厳しいが――

 他人にも厳しいからな」


なるほど、と納得する。


「でも……」


俺は、正直な気持ちを口にした。


「エリックが言っていたことは、全部正しい」


オリバー団長が、意外そうにこちらを見る。


「実際、ダンスは上手い。

 立ち方も、視線も、間の取り方も」


そう言うと、

オリバー団長は小さく笑った。


「……わかっているな」


一歩、間を置いて、続ける。


「厳しい指導を“ただの苦行”で終わらせるか、

 “糧”にできるかは、受ける側次第だ」


その視線は、試すようでもあり、

認めているようでもあった。


「お前は、後者だな。テオ」


胸の奥が、静かに熱くなる。


「……どうも」


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