表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

223/231

番外編 幻の魚が恋した味 1


宝石事件の数か月前。


トワと二人、穏やかなティータイムを過ごしていた。


「お嬢さーん!」


「なに、レオ?

このシフォンケーキ、すごくおいしい」


「はい! おいしいです!」


トワも頬張りながら、元気よく頷く。


「ありがとうございます!

中にくるみが入ってるんですよ!」


一瞬間を置いて、はっとしたように身を乗り出す。


「……じゃなくて!

これです!」


「なにそれ?」


トワと2人で、きょとんと首をかしげる。

レオが差し出してきたのは、画用紙に描かれた魚の絵だった。


「これ! 珍しい魚らしいんです!」


「へぇ……」


「エンジェルドラゴン!!」


「……へぇ」


「これ、探しに行きましょ!!」


「えっ!?」


「幻の食材らしくて、

しかもすっごくおいしいらしいんです!」


「ね! 行きましょうよー!!」


レオはそう言って、全身で嬉しさを表すように大きく揺れた。


「その絵、見せて」


「はい、どうぞ!」


レオから受け取り、目を落とす。


――上手だな。


鋭い口元に、長く伸びた髭。

どことなくドラゴンを思わせる、迫力のある魚だった。


それにしたって、

前にユウリが描いた私の似顔絵より、だいぶ上手だ。


ユウリが描いた私の顔は、

鋭い眼光で、まるで悪魔のようだった。


「レオって、絵が上手なのね」


「ありがとうございます!」


ぱっと顔を輝かせ、レオは胸を張る。


「料理って、盛り付けとかケーキとか、

デザイン画を描くじゃないですか!」


「だから、これくらいなら描けますよ!」


ふふん、と得意げに鼻を鳴らした。


「いいよ。

行こう」


急ぎの仕事もないし、

一日くらいなら問題ないだろう。


「やったー!!!」


レオが両手を上げて跳ねる。


「もちろん、トワ坊ちゃんも行きますよね!」


「う、うん」


少し間を置いて、トワも小さく頷いた。


そして、当日。


「よし! 準備オッケーですね!

行きますよ!」


まだ朝靄の残る時間帯、

トワが小さくあくびを噛み殺す。


「こんなに早く行くの?」


「あたりまえですよ!」


「それに……荷物、多くない!?」


馬車の荷台には、

どっさりとした荷物の山が積み込まれていた。


「釣り道具でしょ、お魚のご飯でしょ、

それから毛布にピクニックシート、

お昼ご飯と着替えと、暇な時用のトランプ!」


「……す、すごい」


「ということで!

俺が運転しますから、トワとお嬢様は並んで座ってください!」


「朝は少し寒いですから、毛布にくるまってくださいね!」


レオ、トワ、私の三人で並んで腰掛け、

レオは慣れた手つきで手綱を操る。


馬車は、軽やかに走り出した。



馬車が走り出したところで、私はレオに声をかけた。


「ねぇ、その……何ドラゴンだっけ?」


「エンジェルドラゴンです!」


「その話、どこ情報なの?」


「農家仲間のジャマルおじさんの話だよー。

なんでも、そのエンジェルドラゴンは体長が10メートルを超えて、

味はまるでお肉みたいにジューシーなんだって!」


「すごくない!?」


……いかにも怪しい噂だ。


「十メートルって……

そんなの、三人で捕まえられる規模じゃないでしょう」


「ほんとですね」


くすっと、トワも笑う。


「でも、そのエンジェルドラゴン、

この本にも載ってますよ」


そう言って、トワは手元の本を開く。


「幻の食材。

見た人は幸せになる、とか。

魚なのに、鳥みたいに羽ばたく、とか」


ちらりと、トワの持っている本を見る。


――『幻の生き物集』。


胡散臭い。

そんなことを思いながら、馬車を一時間ほど走らせ、湖に到着した。



「よし、着きましたよ!

荷物、下ろしますね!」


「ぼくも手伝います」


トワがそう言って、レオと一緒に荷台から荷物を下ろし始める。


私は湖の方へ視線を向けた。

森に囲まれ、朝日を受けて水面がきらきらと揺れている。

そこまで大きな湖ではないが、静かで心地いい場所だ。


「お嬢さんは、ゆっくりしててください!

今からセッティングしますから」


そう言いながら、レオは手際よく日傘や椅子を並べていく。


「じゃじゃーん。

どうぞ!」


促されて、私は椅子に腰を下ろした。


「ありがとう」


「よいしょっと」


レオが釣り竿を取り出し、餌を用意しているのを覗き込む。


……エビ?


「ねぇ。ずいぶん美味しそうなものを餌にするのね」


「そうですよ!

エンジェルドラゴンって、美食家らしいんです」


「舌が肥えてるみたいで、ミミズとか安い餌じゃダメなんですって」


だから――と、胸を張る。


「レオ特製、エビとイカのテリーヌです!」


「……美味しそう」


「味見してみます?」


「いいの?」


「どうぞどうぞ」


一口食べて、思わず目を見開く。


「……美味しい。

これ、本当に餌にするの?」


「もちろんです!」


「なんだか……お金のかかる魚なのね」


私は、曖昧に笑った。


餌を用意して、しばらくすると――


「レオっ! 引っ張ってるよ」


少し興奮した様子で、トワが声を上げる。


「おっ、来たか!」


「よいしょ――っと」


慣れた手つきで釣り竿を引き上げると、魚が跳ねた。


「これは……ただのマスだな。

お昼用にしよっと」


その後も、ちょこちょこと魚は釣れるが、

幻の魚――エンジェルドラゴンとやらは、まったく姿を見せない。


まあ、こんなものだろう。

そもそも、そんな簡単に現れたら「幻」なんて呼ばれない。


……それに。


静かな湖畔で、のんびりと過ごす休日も悪くない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ