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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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パーティーは波乱1


エマの宝石事件から一週間。

エマはあの事件から何事もなく回復した。宝石を持っていた間の記憶は少しあいまいだったが、それ以外は問題なさそうだ。



「エマの様子どうだった?」


紅茶を注いでくれるユウリに声をかける。

良い香り。



「特に身体の異常もなさそうです。ルイさんも感謝しておりました」


「そう、良かった」


「あとエマさんですが、悩みがあったようですね。サラさんと比べて自分は人見知りで不器用なことを気にしていたと話していました」



「やっぱり…」


気持ちが病んでいる人に魅惑的にみえる宝石か…



「そうだ、古書店のお客さんがいってた宝石をやり取りしている会のことってわかった?」



ユウリはゆっくりと首を振る。


「すみません、まだ何とも。ただその会が何と呼ばれているかはわかりました。 … ’蝶の会’だそうです」



「蝶の会…」


存在するとわかっただけでも前進か。



「あと、セナからの報告で、セナの実家近くのパン屋の奥さんも夫の浮気で悩んでいたようです」


「やっぱり…」


何かしら心の悩みがある人につけ込んでいる。


「考えることは山積みですね…ですがお嬢様。とりあえず今日すべきことがあります」


そう言うユウリの言葉にハッとする。


「パーティーあるの忘れてた…」


「クラリス夫人の誕生日パーティです。ディラン殿下も出席予定ですね」


ユウリが出席名簿を確認している。



「やだな…殿下に会いたくない」



「…まあ、できるだけ会わないよう回避されればいいのでは?

ただ宝石事件を調べているお咎めがないということは、殿下が黙認していることになりますね」


「それもそうね…」


わざわざ報告する暇もないよね?


「ただ10年近くいただいていたた本についてのお礼をそろそろした方がいいとは思いますがね。」



グサっとつきささる。

ディラン殿下からもらっていた本の数々を思い返す。

数ヶ月に一度、2〜3冊の本を、10年近くも……!

総数にして約130冊ほど。


「それはそうだけど…っというか返せっていわれたらどうしょう」


それは困る。非常に困る!

結構役に立つ本ばかりだし、気に入っているものも多く読み返すこともある。


「そう言われたら返すしかなでしょうね。

そうならないよう少し媚をうられてはいかがですか?」



「え?誰が!?」


「お嬢様しかいないでしょうに」

涼しい顔でとんでもないことを言う。


「お嬢様、そろそろ支度をいたしましょう」


アリスがドレスや小物類を準備しながら声をかけてくる。


「では、アリス。よろしくお願いします。

お嬢様 一応こちら今日の名簿になりますので目を通しておいてください。クラリス夫人への誕生日プレゼントは上質なシルクのカーディガンを用意してあります。

では後ほど迎えに来ます」


そう言って、ユウリは部屋を出ていった。

さすがユウリ 抜かりない。

もらった名簿に目を通す。


「ねぇ、アリス」


「何でしょう、お嬢様?」


「媚を売るって、どうしたらいいと思う?」


「そのお相手は殿方ですか?」


「……まあ」


「でしたら、こうです」


そう言うとアリスは右手を軽く握り、頬の近くに添えて小首を傾げてみせた。


「それ、本当に効果ある?」


「お嬢様の美貌なら、殿方などイチコロです。ついでに上目遣いも忘れずに」


……なんだか、あまり当てにならない気もする。


パーティ用のドレスに着替え、ヘアセットとメイクも整えてもらった。

今日は紫色ドレス。髪型はハーフアップだ。

鏡に映った自分を見て、思わず瞬きをする。


「……誰?」


「お嬢様ですが?」


「知ってるけど、そうじゃなくて」


普段より少し大人びた姿に、どうにも落ち着かない。

紫色のドレスは動くたびに柔らかく揺れ、首元の装飾が控えめに光っている。


「とてもお似合いですよ。殿下も、きっと驚かれます」


「殿下はそんなことで驚くほど可愛い人じゃないよ。逆にそれで驚かれたら怖いんだけど……」


アリスは楽しそうに微笑んだ。


そのとき、控えめなノックの音がした。


「お嬢様、準備はよろしいですか」


ユウリの声だ。


「ええ」


返事をしながら、私は一度だけ深呼吸をした。


逃げたい気持ちは変わらない。

でも、ここまで来たら腹をくくるしかない。


(媚を売る……)


アリスの仕草を思い出し、鏡の前で小さく首を傾げてみる。


「……うん、やっぱり無理」


「本番でお願いしますね」


そう言ってアリスは、そっと背中を押した。


パーティ会場へ向かうため馬車に乗り込む。

10年分の本と、10年分の気まずさを抱えたまま——。






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