ブティック グロウ4
エマが小さく身じろぎした。
「……ん……?」
伏せていた瞼がゆっくりと開く。
焦点が合うまで少し時間がかかり、それから、はっと息をのんだ。
「サラ……?」
「エマ!」
扉が開く音と同時に、駆け寄ってきたのはよく似た顔の少女だった。
髪の結び方も、表情も違うのに、並べば一目で双子だとわかる。
サラはエマの肩を掴み、顔を覗き込む。
「大丈夫!? 急に倒れたって聞いて……」
「う、うん……頭が少し、ぼうっとするけど……」
エマはゆっくりと上体を起こし、胸元に手を当てた。
そこには、もう何の違和感もない。
「……あれ?」
不思議そうに眉を寄せる。
「胸が……軽い」
私は一歩下がり、様子を見守った。
ルイも余計な口は挟まない。
サラは私に向き直り、深く頭を下げた。
「ありがとうございます。
エマを助けてくれたって……」
「命に別状はないよ。少し休めば大丈夫」
サラはほっと息をつき、再びエマを見る。
「本当に無茶するんだから……」
「ごめん……」
そのとき、エマが何かを思い出したように、はっと目を見開いた。
「……あっ」
「どうしたの?」
エマは一瞬、言うか迷うように唇を噛んだあと、私を見た。
「……あの宝石、実は……もう一つ、あったの」
空気が、静かに張りつめる。
「2つセットだったの。サラに渡そうとしたけどあやしいからやめた方がいいって…でも、1つは……」
エマは申し訳なさそうに視線を落とす。
「常連さんが、すごく気に入って……
“お守りにする”って言うから、渡しちゃった」
サラの顔色が変わる。
「エマ……!」
「だって、普通の宝石だと思ってて……
まさか、こんな……」
言葉が途切れ、エマの声が震えた。
私は静かに息を吸い、落ち着いた声で聞いた。
「渡した人の名前は?」
「……ベルトルト男爵家のローズマリーさん」
胸の奥で、嫌な確信が形になる。
――やっぱり、偶然じゃない。
「いつ、渡したの?」
「3日前……」
ユウリが低く呟いた。
「まだ猶予はありそうですね」
サラはエマの手を強く握りしめた。
「エマのせいじゃない。
でも……それ、放っておけない」
私は割れた宝石の残骸を布で包み、立ち上がる。
「大丈夫。
その“もう一つ”――必ず見つける」
エマは不安そうに私を見上げた。
「……私に出来ることありますか?」
一瞬、迷った。
けれど、私は首を横に振る。
「いいえ。
無事だった。それだけでいい」
エマは少し安心したように、力を抜いた。
その様子を見届けながら、私は心の中で誓う。
翌日。
エマに教えられたベルトルト男爵家にやってきた。
男爵家の領内でも指折りの良家だった。
派手さはないが、手入れの行き届いた庭と、落ち着いた石造りの外壁が、この家の格を物語っている。
門をくぐると、使用人がすぐに応対に出てきた。
「ご用件は?」
「ティアナ ラピスラズリと申します。
ローズマリー様に、宝石の件でお話を」
名を告げると、使用人の表情がわずかに引き締まった。
「……少々お待ちください」
程なくして、ローズマリー自身が現れた。
以前会ったことがあるが表情が硬い。
「来てくださったのね」
「突然で失礼します」
私の隣には、ユウリとセナが控えている。
ユウリは周囲をさりげなく観察し、セナは一歩後ろで静かに気配を殺していた。
応接室に通されると、ローズマリーは早々に切り出した。
「……あの宝石を、エマに譲ってもらったんです」
彼女は小さな箱を机の上に置いた。
「そうですか、身につけてはいませんか?」
「ええ、エマが宝石をつけていた時はとても魅力的に見えたんです。けれどそれが不思議なぐらいその宝石が今はとても気味が悪くて…」
私は箱に手を伸ばす。
箱の中には、例の宝石。
箱の中からでもわずかに――嫌な気配が強まっていて、黒いモヤが漂う。
「身につけていなかったのは、正解です。
これは――人に害を及ぼす可能性がある。身体に異常はありませんか?」
その言葉に、ローズマリーははっと顔を上げた。
「ええ、大丈夫です」
「何か変わったことはありませんでしたか?ほんのささいな事でもいいんです。」
少しでも手掛かりがほしい。宝石に影響される人とそうでない人の区別があれば…
考える素振りをしながら静かに口を開く。
「関係あるかはわかりませんが…」
「構いません」
はっきりと告げる。
「その日 夫と言い争いの喧嘩をしてしまって…子供のことでも悩んでいたことがありまして。ひどく気分が落ち込んでいたんです。
それでブティック グロウでエマの宝石を見て、取り憑かれたようにそれが魅力的で…引き寄せられてしまったんです。」
空気が、静かに引き締まる。
精神が宝石に影響されている??弱った人の心に漬け込む宝石なの?
頷きながら話を聞く。
「でも、その後夫ともよく話し合って問題が少し解決したんです。そうしたらその宝石がとても気味悪く思えてしまって…」
「なるほど…とても参考になりました。
念の為、宝石はお預かりしてもいいでしょうか?」
「ええ、そうしていただけると幸いです」
ローズマリーはホッとしたような表情を浮かべた。




