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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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ティアナの決意5

「そっか!それもそうだ!お嬢さーん、俺もいいですか?」

首を傾げて聞くレオに、


「もちろん。持ってきてくれて助かったよ。仕事の時間は平気?」


「はい!今は休憩時間だから、少しなら平気です!」


「あ、これめっちゃ美味しい」

隣のテオが、すでにフィナンシェを口にしていた。


「テオ、挨拶してから食べろ」

やれやれとため息をつくセナ。


「でしょ!こっちも美味しいから食べてみて!」

レオは気にせず、テオに新しい味のフィナンシェも勧める。


「あ、どうも」

短くお礼を言って、テオはフィナンシェを頬張る。

なんだかリスみたいだ。ふふっと笑うと、テオがこちらに目を向ける。


「お嬢さまぁ、なんで笑ったのー?」

小首を傾げるテオに、自分の口元を指す。


「ついてるよ」

口元にフィナンシェのカスがついているのを教えると、


「ほんとー?お嬢さまとって?」

そよ風が吹き、テオの長い前髪が揺れる。

ルビーのように赤い瞳が熱を帯びて、私をじっと見つめる。

たまに、歳下とは思えないほどの色気を垂れ流す瞬間があるのだ。


ポケットからハンカチを取り出し、テオの口元を拭こうと手を伸ばしたその瞬間――


「俺が拭きましょう」


「ちょっ、痛い。痛いです」

セナが自分のハンカチをテオの口元に押し付けている。


「もういいですって、取れましたから」

セナの腕を振り払い、テオの口元が少し赤くなっているのを見て、私は思わず苦笑いする。


「セナとテオ、仲良しだな!」

レオが二人を見て笑う。


「仲良くないです。手のかかる後輩です」

テオの口元を拭いたハンカチをパタパタしながら、セナはフィナンシェのカスを落としつつ答える。


「たった今、陰湿な先輩にいじめられたんですけど」

赤くなった口元をテオがさする。


「誰が陰湿だと?」

セナがテオを睨むが、本人は全く気にしていない様子だ。


「だって、俺がお嬢さまと仲良くしてるの、気に入らないんでしょー?セナ副団長、むっつりですもんね」


「そのうるさい口に俺の分のフィナンシェも入れてやるよ」

セナはテオのほっぺを片手でつまみ、フィナンシェを口に押し込もうとする。


「いひゃいひゃい。ぼうりょくはんたい!」

テオは片言のまま、慌てて声を上げる。


「それにしても、テオもだいぶ騎士団に馴染んできたな!お嬢さんも安心だな!」


「そうだね、来た時に比べたら、だいぶみんなと打ち解けてきたね」


「テオなんて、来た時はずっと威嚇してたもんなー。お嬢さんにしか懐かない猫みたいだった!」


「懐かしいね……もう3年くらい経つ?」


最近のことのように感じるけど、月日の経つのは本当に早い。

私とレオのやりとりを聞きながらセナがぽつりと口にする。


「あれは、猫じゃなくて狂犬だった。今にも噛みつきそうだった」

指導員をしてくれていたセナだ。

だいぶ苦労した様子だ。まあ、私がお願いしたんだけど。

相性は良いと思ったけど、予想通りだったな。


テオはセナから解放され、口に入れられたフィナンシェをぺろりと平らげる。


「そうだったかなー。それより、俺はレオにぶっ飛ばされたのがトラウマ」

小さく呟くテオ。

本気で怖かったらしく、「もうレオだけは怒らせたくない」と思っているようだ。


「いやぁー、あの時は悪かったよー!」

ハハハッと豪快に笑いながら頭をかくレオ。

誤解は解けて仲直りしたけれど、テオにはまだトラウマになっているらしい。


4人は30分ほど談笑し、レオは厨房に戻って行った。

セナも休憩から戻るところに声をかける。



「セナ少しいい?」


「はい」

私の真剣な声色にセナも真面目に答える。

テオは私とセナの様子をみて、悟ったかのように席を外してくれた。

意外と空気が読めて察しがいいんだよな。

周囲に人がいないことを確認してから私は声を潜めて話す。


「さっきお父様から、宝石事件に関わるなってくぎを刺されたの。だからって、あの件を放っておくのは無理だと思って」


セナは少し眉をひそめ、私の目をまっすぐに見つめる。

「……お嬢様、それは危険ですよ」


「分かってる。でも、どうしても調べたいの。セナ、一緒に手伝ってほしいの」


セナは一瞬考え込むように沈黙したが、すぐ口を開いた。


「もちろん俺はお嬢様の騎士です。力になります」


私はほっと微笑む。

「ありがとう。頼りにしてる」


短い沈黙のあと、セナは少しだけ笑みを浮かべ、肩の力を抜いたように言った。

「でも……本当に怪我だけはしないでくださいよ」


その言葉に、私は胸の奥で少し温かいものを感じた。

一緒に挑む仲間がいる。それだけで、心強さが違うのだ。

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