ティアナの決意4
「私はティアナよ。たまに訓練中に遊びに来ることもあるから、そのときはよろしくね」
軽く挨拶すると、アレンは緊張した様子で深くお辞儀する。
「は、はい。よろしくお願いします」
「さっき、コナミ村出身って言ってたけど、リンゴの収穫が盛んな村よね」
「はい!甘いリンゴが採れます」
山間部に位置するコナミ村は寒暖差が激しいが、そのおかげでリンゴが甘く育つ。実際に口にしたことがあるが、とても美味しかった。
「リンゴの収穫は肌寒くなってからよね?今の時期は何をして生計を立ててるの?」
「今の時期は、キャベツやレタスを育ててますね。暑い時期でも他の地域に比べれば涼しいので、甘みや旨味が増すんですよ」
「なるほどね、教えてくれてありがとう」
「はい」
笑顔で答えるアレンに、もう一言付け加える。
「そうだ、さっきの試合だけど……素早さはあるけど、太刀筋が少し大雑把ね。もう少し技の正確性を意識しないと、セナには全く相手にならないよ」
少し驚いた顔をしたアレンだが、素直に助言を受け入れる。
「は、はい!精進します!」
勢いよく答える声に、私は自然と微笑む。若さと真面目さが入り混じったその姿勢は、騎士団での成長を期待させるものだった。
ぐーっと伸びをして、軽く準備運動をする。
手渡された木剣を軽く振る。
真剣よりは軽いが、当たれば普通に痛い。自然と気が引き締まる。
準備が整い、セナに視線を向ける。
「じゃあ、よろしくね。セナ」
「はい、こちらこそ」
セナも木剣を構え、互いに構えを確認する。
足を踏み込み、まずは正面から木剣を振り下ろす。
木剣同士がぶつかり、カッと鋭い音が響く。
まずは準備運動も兼ね、軽く打ち合う程度に決め込む。
身体が温まってくると、スピードを少し上げる。
するとセナもすぐに応じ、リズムが加速する。
「鈍っているかと心配していましたが、そんなことはないようですね」
木剣を交えながら、余裕のある声で話すセナ。
「一応、素振りや体力作りはしてたの。ただ実践は久々だけどね!」
隙を狙ったつもりだったが、軽々とかわされる。
しばらく打ち合いが続き、私は受け身を取るので精一杯。
このままでは体力が持たない。
さっき、新人のアレンくんに偉そうに講釈を垂れていたのに、この有様ではちょっと恥ずかしい。
「お嬢様、そろそろ体力切れですかね。決めさせてもらいますよ」
そう言って、セナが重い一撃のために木剣を溜めた隙を逃さず、私は素早く懐に滑り込み木剣を向ける。
これで決める――顎先を狙った。
スピードを緩めたつもりはないし、怪我をさせまいと躊躇したわけでもない。
本気で一撃を入れようとし、寸止めさせる自信もあった。
それなのに、私の木剣はセナに届くことなく弾かれ、宙を描い飛んでいった。
「お嬢様、お見事ですね」
「……むっ」
一撃も入れられず、木剣を吹っ飛ばされた相手に褒め言葉を言われ、思わず睨みつける。
「さっき体力切れの振りをして俺を誘いましたね。
あのスピードで正確に顎を狙いにくるとは、中々です」
「そうだけどー」
決められると思ったのにあっさり回避され、戦略も見抜かれてしまった。
涼しげな顔のセナは汗一つかいていない。悔しい。
――いつか、焦った顔をさせてみたいものだ。
ただセナは、ラピスラズリ伯爵家 第3騎士団の副団長。
剣術の腕は王国でも随一で、王国騎士団の入団試験ではぶっちぎりの一位。
本来なら、王国騎士団としてアレキサンドライト王国で働けるほどの実力者である。
それでも本人の希望で、私の専属騎士としてここにいるのだ。
「さて、少し休憩にしましょうか」
セナが他の団員たちに声をかける。
「そうだ、差し入れ持ってきたんだった!アレンくん、みんなに配ってくれる?」
近くで控えていたアレンに、私が持ってきたバスケットを手渡す。
中には、レオに頼んでおいた焼き菓子――フィナンシェが入っている。
アーモンドと焦がしバターの香りが絶品だ。
強面の騎士団員たちだが、見た目とは裏腹に甘党が多い。
甘いのが苦手な人のために、フィナンシェはプレーンのほか、紅茶味とコーヒー味も用意してもらった。
私は、もう一つのバスケットからピクニック用クロスを取り出す。
「俺がやりますよ」
セナがライトグリーンのクロスを広げ、手際よくバスケットからフィナンシェを取り出して並べてくれた。
「あ、私、飲み物を忘れちゃった」
レオが用意してくれた飲み物を置いてきてしまったのだ。
「俺が取りに行きますよ。厨房ですよね?」
「いいよ、私が急いで取りに行くから」
そうセナに声をかけ、立ち上がろうとしたそのとき、よく通る声が聞こえてきた。
「おーい、お嬢さーん、忘れ物です!」
豪快に手をブンブン振りながら、コーラルオレンジの髪を風になびかせて走ってくる。
すごい勢いで駆けてくるけど……手に持っているのは、私が忘れた飲み物だよね?中身、大丈夫かな。
「レオ、わざわざありがとう。溢れてない?平気?」
私はレオの手元に目をやる。
「多分大丈夫です!」
そう言いながら、レオはピクニックシートの上に荷物を置き、瓶の水筒とコップを取り出す。
瓶の水筒の中には、真っ赤なラズベリーとソーダ水が入っていて、シュワシュワと泡が立っている。
案の定、コップに注いだラズベリーソーダが溢れそうになり、レオは「おっとと」と言いながら、なんとか溢れる前にすする。
私、セナ、テオ、レオの分の飲み物を無事に配ってくれた。
「セナ、お邪魔するよー!」
レオがピクニックシートに座る。
「まずはお嬢様に許可を取ってくださいよ」
呆れ顔のセナに、レオは特に気にする様子もない。
彼は騎士団にいたこともあり、セナとは顔見知りなのだ。
テオも特に気にせず、私のそばに腰掛ける。




