ティアナの決意3
見知った顔を見つけ、声をかけようとしたが――どうやら試合中のようだ。
私は足を止め、少し離れた位置から様子を見守ることにした。
鋭い剣捌きと、無駄のない華麗な身のこなし。
銀髪の彼はひときわ目立っている。陽の光を受けて揺れる銀の髪と、冷静な視線。
対する5人ほどが次々と挑みかかるが、そのすべてを、まるで相手にならないとでも言うように、あっさりと倒していた。
そこへ、のんびりと剣を構える黒髪の彼が前に出る。
一瞬の静止――次の瞬間、滑らかに加速し、銀髪の彼へと一気に詰め寄った。
(……レベルが違う)
先ほどまでとは明らかに空気が変わる。
剣と剣がぶつかるたび、鋭い音が訓練場に響き、周囲の騎士たちも自然と視線を向けていた。
2人だけ、別の場所で戦っているようだ。さすがだ、と素直に思う。
しばらく互角のやり取りが続いた後、
――乾いた音とともに、黒髪の彼の剣が折れた。
「そこまで!」
その声と同時に試合は終了となる。
「セナ、テオ。お見事」
私は拍手しながら近づく。
「お嬢様、いらしてたんですね」
銀髪のセナが気づき、こちらへ歩み寄ってくる。
「お嬢さまぁ! 久々に会えたー!」
次の瞬間、
黒髪の彼――テオが駆け足でこちらへ向かってきた。
そのまま勢いよく抱きついてくる。
「ちょ、テオ……!」
思わず声を上げる私をよそに、
彼は腕を離そうとしない。
私は苦笑しながら、
その背中をぽんぽんと軽く叩いた。
さらりとした黒髪が肩に触れ、
間近で見る赤い瞳は、鋭さよりもどこか不安げだ。
テオは、14歳という異例の若さで
王国騎士団へ入隊した実力者。
だが――
その力とは裏腹に、彼の育った環境は決して恵まれていなかった。
今年で16歳。
私とは、たった一つしか年が違わない。
それでも時折、
こうして子どものように甘えてくる瞬間がある。
軽く抱擁を交わしたあと、向かい合う。
長めの前髪が、きれいな紅い瞳を少し隠していた。
「前髪、少し伸びたね。目に入ったら痛いから、切った方がいいよ」
そう言って、さらりと前髪に触れる。
「そうかな。でも見えるから、別にいいよ」
「せっかくルビーみたいにきれいな瞳なのに」
するとテオは、私の手をそっと取った。
「そんなこと言うのは、お嬢さまだけだよ。
でも……お嬢さまがそう言うなら、ほんのちょっと切ろうかな」
そう言って、片手で自分の前髪をねじねじといじる。
ルビーのように紅い瞳。
私は心からきれいだと思う。
ただ、この国では紅い瞳は珍しく、時に“不吉”だと囁かれる。
――そんなことを言う人たちを片っ端から引っ張たいてやりたい、と口にしたら、
テオに大笑いされたことがあったっけ。
「いつまでお前はお嬢様の手を取ってるんだ」
セナがテオの手を、私からすっと引き剥がす。
「別にいいでしょう。久々に会えたんだし」
むすっとした顔で答えるテオ。
「それにしても、さっきの試合見てたけど、セナまた強くなったよね!」
「そうですか?」
「俺も思った。あんなボロい木剣をあんな風に扱えるなんて、同じものを使ってるとは思えないよ」
テオの木剣は真っ二つに折れている。
しかしセナの木剣は、傷はあるもののまだしっかりしている。
「それより、テオ。お前、もう少し敬語を覚えろ。それじゃあ、お嬢様の護衛を任せるのも難しいぞ」
「わかりましたよー」
気怠げに返事をするテオに、私は思わず微笑む。
「そうだよ、テオ。護衛騎士として一緒に連れて行くなら、礼儀作法も学んでもらわないとね」
「わかりました!お嬢さまあ!」
セナへの態度とは裏腹に、しっかり敬礼するテオ。
「調子の良いやつめ……」
セナのため息が、少し苦笑を含んで聞こえた。
「とりあえず、私とも手合わせいい?」
「もちろんですよ。誰か、そこの木箱の横に置いてある木剣を持ってきて」
さっき試合中、セナにあしらわれていた騎士団員たちに声をかける。
「はい!」
一際大きな声で返事をし、
小型犬のように素早く動く赤銅色の髪をした騎士団員。
彼は勢いよく駆け寄ると、
丈夫そうな木剣を両手で差し出してきた。
「どうぞっ!」
あまりの速さに、
風が一瞬遅れてついてくる。
――速い。
ふと、初めて見る顔だと気がついた。
赤銅色の髪は短く整えられ、動くたびに軽やかに跳ねる。
瞳は透き通った黄金色。
陽光を閉じ込めたようなその色は、まっすぐで迷いがない。
濃紺の騎士団制服はまだ新品らしく、
袖や襟に刻まれた紋章が、やけに誇らしげに輝いていた。
「君は、入ったばかりの新人のアレンくんかな?」
「へっ!? は、はい!
アレンと申します。コナミ村出身です!
よろしくお願いいたします!」
私が名を知っていたことが予想外だったのだろう。
一瞬、素っ頓狂な声を上げたかと思えば、
すぐに背筋を伸ばして丁寧に名乗る。
赤銅色の髪が風を切るように揺れ、
勢いよく頭を下げるその様子は、実に元気いっぱいだ。
勢い余って膝に額をぶつけていないか、
思わず心配になってしまうほどだった。
――コナミ村。
標高の高い山間部にある、小さな集落。
そんな場所で育った少年が、
今こうして騎士団の制服に身を包んでいる。
その事実に、
私は自然と微笑みをこぼしていた。




