表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/222

ティアナの決意2

父が出て行った後、レオに声をかける。


「レオ、ご馳走様。美味しかったよ。デザートのミルクプリン、絶品だった!あれってコンデンスミルク入れてるの?」


レオはにやりと悪戯っぽく笑いながら、皿をさっと片付ける手を止めて答える。

「さすがお嬢様、甘さとコクをプラスしました。あとはシナモンも少々」


「だからかー、また今度作ってね」


「もちろんですよ!……その代わり、味見は抜かりなくしてもらいますけど?」

言いながら、レオは目をキラッと光らせて舌をちょっと出す。あのヤンチャな顔つきに、思わず私もクスッと笑ってしまう。


「ちょっとお願いあるんだけど、騎士団に顔出すから差し入れに何か持って行きたいんだけど頼めるかな」


「もちろんですよ!……俺もつまみ食い担当で行ってもいいっすか?」

手をひょいと挙げ、いたずらっぽくウインクしてくるレオに、思わず頬が緩む。


「ありがとう、来てもいいよ」


「時間があれば俺もいこうかな!そうだ、すぐ行かれます?休憩の時間に合わせてですか?」


「書類仕事片付けないとだから、14時半にお願い」


「了解っす!」

レオは両手をパッと広げてポーズを決める。


朝食会の後、午前中に書類仕事を片付け、昨日の報告書を父に渡すため書斎へ向かう。

もし父が不在なら、執事のスミスさんに頼むつもりだった。だが、どうやら今日はタイミングが悪く、父はいるらしい。

先程の朝食会の件もあり、あまり顔を合わせたくないんだけどな。


ノックを控えめに打ち、声に応答があったのでドアを開ける。


「…入れ」


少し冷たい声に、背筋が自然に伸びる。


「失礼致します。昨日の報告書と、以前ご依頼いただいていた書類になります」

手を揃え、きれいにまとめた書類を差し出す。


父は書類を軽く手に取り、パラパラと目を通していく。

「よくできてる、早かったな」


そう言うと、サインをした書類を隣に控えているスミスさんに手渡す。

スミスさんは執事長を務める大ベテランで、動作の一つ一つに落ち着きと威厳がある。


心の中で、ため息が漏れる。

――こちとら貴方から頼まれた仕事で、睡眠を削ってるんですよ。

女だから、と何かあるたびに能力を疑われる立場にいる。

できて当然、できなければ後ろ指を指される――そんな日常だ。


「全く、お前が男なら迷わず次期当主にするんだかな」


父は本気で残念がる顔をする。

またか――毎度同じことを言われるけれど、少し悔しくもあり、どこか呆れも混じる。


特に返事はせず、無言で話を聞く。

確かに、男だったら――と思うことはある。武術を嗜めば、長い手足が欲しいと思うし、力の差を比べれば男と女では全然違う。

だが、私は女でも悪くないと思う。身軽さを武器にできることもあるし、

何より、きれいなドレスに身を包み、ヒールで歩くことの楽しさも知っているのだ。


「――あいつはダメだ、遊んでばかりで次期当主の自覚がまるでない。自分でやっていない事をやったように話す」


マルクは遊んでばかりだもんな。辺境の地への視察に騎士たちだけを派遣し、自分は何もしていなかったこともあった。

父にはそのこともお見通しのようだ。まあ、父の息がかかった騎士たちが数名おり、逐一報告しているのだから当然だろう。


私自身も、騎士たちに泣きつかれ、彼の尻拭いを随分としてきた。

だが、蔑ろにできないのは、妻であるマリアンヌが名高い貴族の出身だからだ。


そろそろ痺れを切らし、口を開きかけたその時――


「この後は、騎士団に行くのか?」


「はい、少し体を動かしてきます」


「そうか、ケガはしないようにな」


そこまでなら、娘を思いやる父の声に感じられ、お礼を言おうかと思った。だが、すぐに言葉が飲み込まれる。


「お前も良い歳だ、顔や体に傷をつけるなよ。

あと、あまり騎士団の連中と馴れ合うな。いずれ結婚相手を見つけなければならないのだからな」


結局この人にとって、私はただの駒なのだろう。

結婚し、子を産み、ラピスラズリ家を安泰に導く――それが私の役目であり、まあ、それ自体は嫌ではない。領地の人々のことも、私は大切に思っているのだから。


だが、私はただの大人しく従う花嫁ではない。

嫁いだ先でも、ラピスラズリ家でも、共に肩を並べ、互いに支え合える関係でありたい。

それが、私の務めであり、誇りでもあるのだ。


「お気遣いありがとうございます」

何でもないと装い、淡々と一言口にし書斎を後にしょうとすると声がかかる。


「朝食会で言ったこと忘れるなよ。絶対に関わるな」


宝石事件のことね。

くるっと向きを変えニコリと微笑む。


「もちろんです」


取り繕った笑顔は完璧な淑女だ。

これ以上何も言わせないよう書斎から出た。


日の光が陰り廊下が冷たく感じられ、一歩一歩、書斎から遠ざかる足取りが重い。

頭の中で、父の声とあの宝石事件の光景が交錯する。


――関わるな。

だが、見過ごすわけにはいかない。

私は小さく息を吐き、心を落ち着けた。

どんなに釘を刺されようと、この手で守らねばならないものがある――


やっと書類仕事も、小言がうるさい父からも解放された。

まだやることはあるが、まず優先すべきは身体を動かすことだ。


自室に戻り、動きやすいシャツとズボン、ショートブーツに着替える。

髪はポニーテールにまとめ、身支度を整えた。

レオに頼んでいた差し入れを手に、騎士団へ向かう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ