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2.ミステリー大募集中なのである

「ミステリー? そんなことを言われましても、そんな大それたことこの城にはありません」


 アリーの侍女であるミアは、アリーの髪を丁寧に梳かしつつ迷ったように首を傾げた。

 ミス研を創設してから一日目は、ミス研とはどういう活動をするものなのかをルイとカイに説明することに費やされた。

 ふたりとも呆れた様子でアリーの話を聞きつつ、どうして自分たちがこんなワガママ王妃の相手をしなくてはならないのだろうか、と思っていたのは明白であるが、アリーの希望を理解してくれた。


 ルイは、では早速謎を探しに行ってきますと部室を出て行った。後で部屋に戻る途中で裏庭でサボって居眠りをしているところを発見したが、見ないことにしておいた。

 カイは、とりあえずこのままでは凍え死にそうなので暖炉を整備して使えるようにしましょうと行ってしまった。使用人たちを連れて戻ってきて、今日は部屋の整備をするので、もうお部屋にお戻りくださいと言われてしまった。


 そうして部屋に戻ってきたアリーは、まあ、今日はミス研の活動の一日目だからこんなものかと思いつつ、ふとミアに謎はないかと尋ねてみたのだ。


「どんなことでもいいのじゃ、部活だからな。別に殺人事件を解決するだとか、ストーカー事件を解決するだとか、そのようなものではなくとも」


「ささささ、殺人なんて! そんなことこの平和な城では起こるはずがありません! ああっ、恐ろしい!」


 怖がりのミアは血相を変えてそう言い身体をガタガタと震わせる。それに合わせて彼女が持つ櫛が揺れて髪が絡まるので、早く震えを止めて欲しい。


「それから、すとーかー? とはなんですか? また新しい言葉が出てきました」


 前世のときに覚えた言葉をついつい使ってしまう。訝しく思われて疑われてもいいところだったが、アリーはそもそも変わり者だと思われているため、特に気にされていない。


「つきまとい行為のことじゃ。好きな相手に固執して、相手が嫌だと言っているのにずっと後をつけるような」

「では料理見習いのハクのアリー様に対する行動はストーカーですか?」

「あれは料理長に言いつけられて、妾がつまみ食いをしないように見張られているだけじゃろう」


 晩餐会に出す予定だったテリーヌを、ちょっと味見と言ったにもかかわらず残さず食べてしまったことを根に持たれているらしい。

 おかげでちょっと厨房に顔を出すだけで「アリー様のお出ましだ!」とフライパンをカンカンカンカンと叩かれ、作りかけの料理や高い食材を隠されるようになってしまった。


「なにかないのか? こう、ミアがかねてから不思議に思っているだとか、誰がこんなことをしたか知りたいとか、そんな些細なことでいいのじゃ」


「そうですね……アリー様がなぜあんなに逃げ足が速いのか不思議です……。昼寝をしていた近衛兵長の顔に髭を書いたとき、必死の形相で追いかけてきた近衛兵長から逃げ切ったでしょう?」


「それは普段から鍛え方が違うからじゃ! 実家の裏山では木イチゴの奪い合いで野生の馬から逃げ切ったことがある」

「……まあ、なんて恐ろしい!」


 ミアは再びぶるぶると震え出す。髪のことはもう諦めた。


「それはともかく、この城でなにか事件が起きると、優秀な近衛兵がすぐに解決してくださいますから」

「それはそうじゃな……」


 髪を梳き終わると、夕食の時間までまだしばらくあるので紅茶に焼き菓子などいかがですか、と言われたが、それを断って机に向かった。

 そしてミス研のこれからの活動内容について羊皮紙にペンであれこれ書いていった。最初、なんでこの世界にはボールペンと紙のノートがないのかと不自由に思っていたが、もう慣れてきた。


「……ああ、そういえばありましたよ。ミステリー?」


 ミアがアリーのドレスの手入れをしつつ、ふと声を上げたので、アリーは勢いよく彼女を振り返った。


「おお! あったか! どれ、苦しゅうない、話してみよ!」


 アリーは期待で目を輝かせる。それを解決することでミス研の活動を城中に知らしめるような、素晴らしいミステリーであることを願う。


「クライン男爵夫妻のことです。どうしてふたりが結婚したのか不思議で仕方がありません。エミリア様は美しく賢く、一時は王妃に望まれるかもと言われていたような優れた女性です。それがブ男……失礼、平凡な顔立ちで決して金持ちとはいえないクライン男爵と結婚するなんて。これって、いい謎ではないですか?」

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