1.第三王妃アリーは退屈を弄ぶ
短編……中編?書いてみました。
8回くらいで終わる予定です。
「暇じゃぁぁぁぁ! なにかすることはないのか!!」
アリーは枕に顔を埋めながらそう叫び、両手両脚をばたばたと振った。
そしてアリーがいる寝台を取り囲むようにしている三人は、すっかり呆れたという様子で彼女を見ていた。
十五歳のアリーが、ミカエル国王の三番目の妃として周囲の反対を押し切って結婚して半年。彼女がこうやって癇癪を起こすたびにあれやこれやとなだめていたミカエルは今、視察のために辺境の地に行ってしまい、留守である。
国王不在の王城では派手な行事はなにもない。むしろそんな行事がない時期だからこそミカエルは視察に出掛けたということもあるのだが。
「だいたい、新しく整備された運河の視察など、国王自ら行く必要があるものなのか! この妾を置いてまで!」
「いえ、運河の視察は国王陛下の大切な仕事です。かの運河のおかげで、船の運航がぐんと楽になるのです。他国との貿易もますます盛んになり、我が国が受ける恩恵は大きなものになるでしょう」
侍従のルイは真面目くさった顔で言う。
確かミカエルもそのように語っていた。まるで少年のように目を輝かせて。ミカエルにとってその運河を整備することが若くして国王になってから初めての功績になるだろう。
そんな夫の背中を見送りながら、結婚してからまだ半年、新婚と言っていいくらいの時期だというのに、妻を残して仕事に出掛けてしまうとは、と憎々しく思っていた。私より仕事を選ぶのね、国王という立場なのだから視察など誰にでも任せれるのに、と。
それは自分のわがままだとは知っているが、結婚するときにはどんなわがままでも聞くと言っていたのに、と歯がみしたい気持ちであった。
しかもその視察に第二王妃のカルラを連れて行ったのが気に入らない。結婚してからというもの、王宮内で暇を持て余していることはミカエルも知っているはずなのに。外出するならば一緒に連れて行ってほしかった。
こんなはずでは……アリーは考えていた。
生まれ変わるときに願ったはずだ。今度の人生では丈夫な身体を持ち、自分がやりたいことをなんでもやれるようになりたい、と。王妃になることで、本当に自分がやりたかったことができるのかは分からない。熱心に求婚され、自分の他のふたりの王妃がもういるのに、という気持ちがあったが、自分と結婚したかったら他のふたりと離婚せよ、とまでは言えなかった。
望まれたのだからそれに応じるのはやぶさかではない、という気持ちだった。だが第三王妃という立場はどういうものなのかよく分からない。なにをするべきなのか、なにができるのか。
やりたいこと……と考えて、アリーは不意に思い出したのだ。
あったではないか、やりたいことが。しかも、それは世のため、人のためになることだ。
「よし! ミス研を作ることにするか! 今すぐ部室を探さなくてはならないな、ミス研に相応しい部室を、な!」
ミス研?
部室?
聞き慣れない言葉に首を傾げる三人をよそに、アリーは素早く寝台から起き上がり、早速ミス研の部室に相応しい場所を求めて部屋を出て行った。
アリー、ことアイリッシュは前世では城谷綾という名で、病気で二十三歳で死んだ。
幼い頃から入退院を繰り返し、中学には半年、高校には一週間しか通えず、大学受験に挑むこともできずにはかない命を終えた。
身体は生まれつき健康だった。元気が有り余って落ち着きのない問題児と家庭教師に認定されたが、そんな評価などどうでもよかった。この身体ならばどこまでも行ける、何者にもなれると歓喜に打ち震えた。
病室から空を見上げていることしかでない貧弱な身体ではない、誕生日もクリスマスも正月も病院で過ごすことが多く、たまに家で過ごすことができても食事制限のためにケーキを食べることもできない。そんな身体を脱ぎ捨てて、行きたいところならばどこでも行ける、食べたいものならばなんでも食べられる身体を手に入れたのだ。
しかも緩く波打った黄金色の髪と、くりくりと大きな碧い瞳は自分が好きでよく見ていた海外のホームドラマの主人公のようで、どこからどう見ても美少女である、と大変満足であった。
走るワガママ、底なしの胃袋、そんな不名誉な評判を立てられてもまるで気にしていなかった。やりたいことがすぐできる、なんでも食べられる、そんな身体を愛していたから。
こんなことでは嫁の貰い手がないと言われていたが、アリーは十三の社交界デビューで国王であるミカエルに見初められて、周囲からの反対を押し切って十五で結婚した。
幸せであるはずだった。
しかしその幸せは退屈だと気づいた結婚半年目なのであった。
「うむ! ここをミス研の部室とする!」
アリーが声高らかにそう宣言すると、ルイとカイは顔を見合わせて、うんざりと肩をすくめた。
ルイとカイは双子だということだけあってうり二つだった。銀色の髪にとび色の瞳、薄い唇。両親でも兄弟でもふたりのことを見分けられないという。
だから、ふたりは服装を変えることにしたらしい。
ルイは白色の侍従服を身にまとい、カイは黒色の侍従服を身にまとっていた。
「アリー様、正気ですか? こんな城の地下室をその……ミス研? の部室? にするとは?」
ルイは新たに部室になった小部屋を見回した。
元は地下牢につながれた囚人たちを管理する監視官の詰め所だったようだ。ごつごつとした石の壁に囲まれており、暖炉があり、部屋の中央に粗末なテーブルと椅子が置いてあった。ちなみに、現在は監獄は王城の外に作られている。過去の囚人たちの恨みを封じ込めるように地下牢は閉鎖されてその入り口は壁で塗り固められていた。
「こんなに暗く肌寒い部屋、居るだけで気分が悪くなりそうではないですか? 本当にこちらに?」
カイは暖炉の中をのぞき込みながら冷静に言う。
「手狭で城の人からは忘れ去られているような部屋……こここそミス研に相応しい。ミス研とは校舎の外れにひっそりと存在するものだからな。花形の吹奏楽部や美術部とは違う」
「すいそうがくぶ、びじゅつぶ……おい、またよく分からない言葉が出てきたぞ?」
ルイがカイにこそこそと耳打ちをした。こんな狭い部屋では丸聞こえである。
「とにかく、この部屋をミス研の部室とするのだ!」
アリーは弾んだ声で言って、今にも壊れそうな粗末な椅子にでんっと座った。
「さあ、この城にあるミステリーを集めてくるがよい。妾が見事解決してみせるぞよ!」
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