表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

13 邪神様はボスと戦うようです(4)

 男は、自分の鎧についた血を布で拭き取る。赤い濁りが腹部の溝に溜まって拭き取りにくいらしく、黄みがかった麻布で、彼はそこを丁寧に何度も擦った。


「思ったよりも対処は難しくなかったですね。戦力的にはもう少しあると思っていましたが。」


 昭毅(ショウキ)は、レヴィアの身体を見て、首を捻る。


「しかし、この身体のどこにあのような魔力操作能力があるのでしょう。通常の竜人種にしては精神面の発達の度合いが高いのでしょうか。」


 彼は周囲の様子を見る。天幕という天幕は嵐の吹き抜けたあとのように吹き飛び、焼け焦げ、残った木材でできた骨組みが食べ残した魚の骨のように立ちっぱなしになっている。

 盛大に、壊滅していた。


「これで、十分任務は果たされたでしょうか。副隊長含め、斎藤 翔太(サイトウ・ショウタ)以外の中枢は全て殺害、予期せぬ障害も排除できました。なかなか順調なようです。後は「あの方」が仕事をしていることを祈りますか。」


 噛み付いていた捕食槍(ほしょくそう)が、唐辛子を食べた犬よろしく、「口」を離し、突然吐き出すようにしてレヴィアの身体から抜けた。


「おや。」


 槍の先端が、べとべとした液体を飛ばした。昭毅は槍を手に取り、地面に置いた。くしゃみのような動きをする。


「美味しくなかったみたいですね。もしくは毒があったのか。この武器に好き嫌いがあるとは思いませんでした。反応も含め、後で記録しておかなければなりませんね。」


 昭毅は嬉々として槍を振り、回しながら槍を布に包み、背負いつつゆっくりと腰を下ろした。槍は虚空に溶けていき、「遺体」と昭毅は顔を合わせる。


「あなたも、目的が違えば面白い話し相手になれた気がしたんですけどね。」


 眉を歪ませ、彼は背中から二対の固形物を取り出し、長方形に押し固められた日干し煉瓦のような見た目のそれを頬張った。


「残念です。」


 長髪を束ねた男はそう言って、立ち上がる。背後に向けて手を降ると、砂の奥に去っていく。

 その後ろで、鱗に満ちた手が微妙に動いた。掌に深い紫色の光が灯った。


 妙な感覚を覚えて、昭毅(ショウキ)は振り返る。


 朝日の影を落としながら、竜人族の少女が、立っていた。腹から血を流し、ふらつきながら。その姿は人が手を入れていない時の歪なパペットに似ていた。


「これは驚いた。まさか、あれで動けるとは。しかし、肉体は限界に近いはずです。」


 レヴィアは金色の目で昭毅を見据えた。日の光が照らすのと同じくらい、気に溢れた眼光が漏れる。


 だが、昭毅(ショウキ)の言葉通り、彼女が歩みを進めると、首が後ろにぐりんと傾き、身体が膝から崩れ落ちた。


 昭毅(ショウキ)は踵を返した。


 目を擦ったあと、黒い霧が視界に映った。

 気配を感じて槍を振り向きざまに振るった。


 少女の姿はない。

 耳元に汗をかいた彼は安堵した。


 -ない?


 次の瞬間、強烈な衝撃が腹を折った。装備していた最新式の鎧が、凹む程の衝撃が走った。護符が入っているから、内臓は傷つかないはずだ。しかし、痛みは鋭く感じられた。損傷があるかもしれない。


 身体が遠くまで投げ出される。槍を構えて、彼は踏みとどまった。

 前に視線を送れば、黒煙を(まと)う少女の姿があった。


「手加減していたのでしょうか。」


 水刃が続けて3つ放たれる。今までのように、盾を一つ一つ丁度良い角度に構え、弾き飛ばす。威力は変わらない。変わったのは、自分の動きが緩慢(かんまん)になったこと、そして、少女の動きが速くなったこと。


 しかし、少女は全く同じ戦法で、こちらに急接近してくる。対処法が分かっていれば問題なく叩ける。


 至近距離からの水刃、に見せかけて魔法陣は展開されていない。直接の打撃が空気を切って襲った。

 昭毅(ショウキ)は槍を握り、真半身から足元を薙ぐ。彼女は跳んで避けた。


 上に浮いている状態では、体勢を大きく変えることができないため、長い棒などで打てば避けようがない。昭毅(ショウキ)は、上に向かって穂先を突き上げた。


 突いたはずの穂先が押し戻され、白い豪腕に身体が押しつぶされる。少女の口が開くのが見えた。


嘆きの泉(マリオーラ・フォルス)。」


 昭毅(ショウキ)は足に力を入れ、強引に砂の中を踏み出し、暴流から抜け出す。それを待っていたかのようにレヴィアは続けざまに水弾を放った。


 昭毅(ショウキ)はそれを同じように盾で受け流す。

 いつもと同じ動きをしたが、盾は底に傷がつき、光を放ちながら、ガラスを割った時のように盾は木っ端微塵に壊れた。

「拒絶の盾が壊れましたか。」


 昭毅(ショウキ)は全く気に留めることなく、次の盾を取り出し、腕に取りつけ、構えた。その上からレヴィアは回し蹴りを放つ。昭毅(ショウキ)は身体を下げ、盾の下から槍を放つ。しかし謎の煙に阻まれ、レヴィアを吹き飛ばしただけであった。


 彼女は、地面に手をついて、宙返りをしつつ体勢を整えた。


 そろそろ、終わらせてしまおう。このような持久戦をしていては面倒だ。


 昭毅(ショウキ)は肩の上で槍を構え、レヴィアの方に槍を投げた。レヴィアは左足を軸にして槍をするりと躱すと、何事もなかったかのように詠唱を続け、水弾を何個も飛ばした。


 腰から弓を取り出し、弩のように横に構えた。いくつかの水弾を撃ち落とし、砂の上を滑りつつ距離を詰めようとするレヴィアの足元を射抜き、左右に振る。


 レヴィアが水刃を飛ばした。

 ぴぃっと高い音がして、彼の袖口は破けた。


 彼は、羽飾りの弓を構えた。

 弓を持って、爆弾矢をつがえた。

 さらにつがえた。

 さらに。

 さらに。

 さらに。

 さらにつがえた。


 昭毅(ショウキ)が6本の矢を同時に持って、引き絞るのを見て、レヴィアは詠唱した。爆流が猛然と昭毅(ショウキ)に迫った。


四天の炎(バレット・タイムズ)


 空気が、ぐにょりと歪んだ。


 導線の先が朱く光る。それは激突する前にレヴィアの目の前で爆ぜ、聴力を奪う程の爆音と眩いばかりの閃光を放った。


 追加で、鉄と木の破片が肌に無秩序に突き刺さっていく。それが、昭毅(ショウキ)が弓を引く度に襲いかかってくるのだ。


 身体が浮く度に、次の矢が放たれる。そして再び身体が浮く。轟音が立て続けに起こる。砂が巻き上がり、土埃が舞い、閃光が周囲の視界を奪う。さらにまた身体が浮く。


 最後に絞られた矢がレヴィアの胸板を撃った。

 血を流すことなく、彼女は砂の海に倒れた。


 それは、一瞬の出来事であった。


 砂煙が、ただぼわっと登っていく。あたりは完全に静まり返った。


 「ふう。」


昭毅(ショウキ)は目を凝らした。まだ、油断はならない。あれは、まともな生き物だと考えてはならないと心に言い聞かせる。今夜は多くの使い手と渡り合った。副隊長のカノールも厄介だった。それで疲弊しているのに、こちらが一番面倒だとは思いもしなかった。


後悔先に立たずである。

案の定、奴は起き始めた。手を横に大きく振り、胸元の矢を抜き放った。


「呪ってやりますよ。神様。何でこんなのを私の前に遣わしたんですか。」


昭毅(ショウキ)は弓を向けて、渾身の力で引いた。

少女は、仰け反った。


そして、昭毅(ショウキ)を指差し、不気味に笑ったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ