表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/127

第32話 誕生日プレゼント

「でえぇぇぇぇいっ!」


 ポコンと音がして、ピートの持つ布を巻いた木剣が俺の頭に当たった。


「むっ……!」

「や、やった……! やったぜ! エイスさんに一発当てたあぁぁぁっ!」


 剣術教室の最後に行っていた、俺対参加者全員の実戦稽古。

 今日は二十人ばかりが俺を追い回していたのだが――

 その中で、ピートの放った一撃が俺を捕らえた瞬間だった。


「おおおおおおおーー! すげえなピートのやつ! エイスさんに当てたぜ!」

「ああ、この教室が始まって以来、エイスさんに当てた奴は初めてだな――!」

「メキメキ腕上げやがったな、あいつ!」


 他の参加者や観衆から、歓声と拍手が起こった。


「へへへっ! どーもどーも!」


 確かにピートが急速に腕を上げているのは確かだ。

 伸び盛りというやつだろう。楽しみな事である。


「エイスさんエイスさん」


 ロマークさんが俺に近づいて来る。


「?」

「大丈夫かい? 今日はいつもより動きが鈍いぜ? やっぱり双子ちゃんが心配かい?」

「いえ。確かに心配ですが、それで動揺していては参加している皆に悪い」


 俺はそう応じ、剣を再び構えた。

 しかしどうも、しっくりこない気がした。


「エイスさん。構えの手が逆じゃねえか……よっぽど心配なんだな。分かったよ」


 ロマークさんはそう言うと、パンパンと手を打ち鳴らした。


「ようし、キリのいい所で今日は終わりにしようや。みんなお疲れさん!」

「ああ終わりかー。今日はいつもよりちょっと楽だったな」

「よーし終わった終わった! 今日もいい汗かいたぜ」

「運動したら腹が減ったぜー! 下の酒場に飲みに行こうぜ」


 と、口々に言いながら、冒険者の参加者達が散会して行く。


「「「エイスさん、今日もありがとうございました」」」


 訓練場を出て行く前に、皆が俺に礼をして行った。


「ええ。お疲れさまでした」


 さてこれから、ロマークさんとピートに気孔節(プラーナ・ノード)の制御法について講習を行う予定だった。


「……では、約束していた気孔節(プラーナ・ノード)についての訓練を――」

「いいや待ってくれエイスさん。今日はいいから、子供達の様子を見に行ってやりなよ。なあピート? エイスさんは逃げねえんだし、また次の稽古の後でいいよな?」

「勿論だぜ。エイスさんに迷惑はかけられねえよ。二人の所に行って下さい」

「……ありがとう。では、今日は失礼させてもら――」


 と俺が皆まで言い終える前に――


「「エイスくーーーんっ!」」


 リーリエとユーリエが、満面の笑みで訓練場にやって来た。

 その顔が元気そうだったので、俺はかなり安心した。


「二人とも、もう大丈夫なのか!?」

「あ、それはね――ごめんなさいっ!」


 リーリエが頭を下げるので、俺は首を捻った。


「何の事だ?」

「具合が悪いって言ったの、ウソなの! ごめんなさいっ!」


 ユーリエがそんな事を言い出す。


「何だって? 何故そんな事を……?」

「それは……はいこれ」


 と、二人が俺に、何かが入った小さな革の袋を手渡して来た。


「あのね、今日エイスくんのお誕生日でしょ?」

「だから、黙って準備して、驚かせたくて――」


 だから仮病を使って俺に分からないようにして、これを用意しに行ったのか――


「そうか……仮病を使うのは悪い事だ。それは反省するんだ」


 二人がこくんと頷く。


「よし。そしてプレゼントをありがとう。すっかり忘れていた、嬉しいよ」


 それなのにこの娘達はしっかり覚えていて、プレゼントまで用意してくれたのだ。

 なんて嬉しい事をしてくれるのだろう。

 俺は感動して、前が見えなくなりそうだった。


「えへへっ。ねえねえ、エイスくん。中身を見てみて?」


 言われた通りに中身を空ける。

 それは細工の施された銀製のブレスレットだった。


「――綺麗だな」


 たとえそれが石ころだとしても、子供達が俺のためにと言うならば、計り知れない価値があるが。


「エイス君エイス君! これも見て!」


 と、ユーリエは嬉しそうに自分の腕を見せる。

 そこには、俺のものと同じデザインのブレスレットが着けられていた。


「わたしもわたしもー!」


 どうやら家族三人でお揃いのもののようだ。

 それはいい。俺一人で着けるより、余程価値がある。


「お揃いか――それはいい」


 三人で同じものを――という一体感が感じられるので俺は好きだ。


「いろいろ見てたんだけど――リーリエがこれが可愛くて欲しいなんて言い出すから。じゃあ三人お揃いにしたら、エイス君も喜ぶよって、ネルフィさんが教えてくれたの」

「ふふふっ。どう? 正解でしょ?」


 子供達に付いて訓練場に来ていたネルフィが、悪戯っぽく笑う。


「ああ。正解だな――」

「それはそれは――って事で、私からもはいこれ」

「? 君もか?」


 ネルフィが俺に手渡して来たのは、水晶を削った護符だった。

 形がハートの形状をしている。


「ほらほら。私達もお揃いよ?」


 ネルフィはもう一つ同じものを取り出して、俺に見せた。


「あ、ああ……どうもありがとう」


 他に言いようもないので、大人しく受け取っておく。

 子供達がやけにわくわくした目で俺を見つめていた。


「それは恋人の無事を祈るためのお守りなのよ。だからね、そういう事だからね? 分かってもらえる? エイスさん」

「ならばこれは受け取れん」

「ちょっと何の躊躇いもなく返そうとしないでよ! 分かった、気持ちだけ受け取ってくれればいいから! はい、ちゃんと持っててね?」

「……」


 突き戻された。


「あ、でもお礼に食事に連れて行ってくれたりするのは大歓迎だからね?」

「……生憎これから追加の訓練がある。ロマークさん、子供達の具合も悪くなかったようだし、予定通り例の訓練をしましょう」

「ああ――そいつはありがてえ」

「リーリエ、ユーリエ、暫く待っていてくれよ。終わったら食事に行こう」

「じゃあみんなで行こうよ! 皆でエイスくんのお祝いをするの!」

「ネルフィさんもロマークさんもピート君も一緒に!」

「おっ。ユーリエちゃんいいわね、それ!」

「ああ構わねえ、いい酒が飲めそうだ」

「エイスさんの武勇伝を聞かせて下さいっ!」


 まあ、賑やかなのも悪くは無いだろう。

 その中で楽しそうにしている子供達を見れば、俺も楽しい気持ちになれる。

面白い(面白そう)と感じて頂けたら、ブクマ・評価等で応援頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ