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第13話 真相

 娘達を乗せた馬車の前に降り立った俺に、村人たちが寄って来た。

 先程の村長らしき白髪の男性が、息を切らせて俺の手を取る。


「あ、ありがとうございますじゃ……! おかげで村が全焼せずに済みました……!」

「いや、礼には及びません。それでは――」


 と、俺は御者台に戻ろうとするが、その前に子供達が馬車を降りて来た。

 それも――クルルを抱きかかえながら。


「!? リーリエ、ユーリエ……!」


 何故出てきたのか――そんなに聞き分けのない二人でも無いはずなのだが……

 俺の疑問をよそに、娘達は村人達の前に立つと、揃って深く頭を下げた。


「「こ、この子がこんな事をして――ごめんなさいっ!!」」


 分かった――この娘達が考えていることが。

 クルルの炎が結果的にここまで来て被害を出していることは確か。

 それは、経緯はどうあれ悪い事だ――と二人は考えている。

 悪い事をしたならば、謝らなければならない。

 クルルは話せないので、代わりに保護者の自分達が謝る――という事なのだろう。


 悪い事をしたら素直に謝るというのは、誰しもがそう教育されるはずだ。

 この娘達はそれを忠実に実行しようとしている――

 その意味でこの子達は正しい。だがこの状況では――


「ど、どう言う事じゃあ!? お嬢ちゃん達……」


 村長が面食らったように声を上げる。


「あ、あいつ――山に現れたドラゴンか!?」

「でもあんなに小さくなかったぞ……!?」

「魔術でいくらでも大きさが変わるんじゃないか?」

「あれだけの魔術を使えるんだから……な」

「じゃあいつのせいで村が……!?」


 村人が俺達を見る目が、感謝の眼差しから疑いの目に変わる。

 自分達の家が焼かれているのだ、そうなるのも当然の事だ。

 何も知らせずに助けるだけ助けて立ち去るのが、面倒が無くていいのは確かだ。

 だがそれは、大人の理屈。

 伝えなくていい事は伝えないという、計算が働いた結果である。

 子供はもっと単純で素直だ。悪い事をしたら謝るのである。


「説明をさせてくれ」


 俺はそれを咎める事は出来ない。咎めてはいけないと思う。

 むしろ素直に謝って偉かったと言ってあげなければ。

 だから、言葉を尽くしてみようと思う。


「俺達は今朝方、深手を負って今にも死にそうなこいつを見つけたんだ。それを治癒魔術で癒すと懐かれてしまったので、一緒に連れて来たんだ。そしてここに来て山火事が起こっているのを見つけた。炎の色が緑色だから、恐らくこいつが原因なのは確かだろう。翠玉竜(エメラルドドラゴン)など、そうそうこんな人里近くに現れないからな」

「ちょっと待て……! じゃあやはり、そいつのせいで俺達の村が……!?」


 そう険悪な声が上がった。

 家を焼かれては、確かに冷静ではいられまい。


「だが考えて頂きたいのは、この翠玉竜(エメラルドドラゴン)の習性だ。このドラゴンは非常に温和な種族で、しかも草食性なんだ。それがあれだけ傷ついていたという事は誰かに襲われたんだろう。その時に身を護るために火を吐いて、それが山火事になってしまった。誰か翠玉竜(エメラルドドラゴン)を襲撃した心当たりはないのか?」

「そ、それは――」


 と、村長が視線を向けたのは、鎧を纏った冒険者風の二人の男だ。

 三十代後半から四十少々という風体である。


「ドラゴンが現れて恐ろしかったですので、冒険者ギルドに依頼(クエスト)を出しましたじゃ……何とか村を守ってくれと――そうして来て下さったのがこのダッカさんとコタールさんですじゃ……」


 視線を向けられたダッカとコタールは悪びれずにひょいと肩を竦めた。

 髪の毛を短く四角に刈り込んだ男が、俺がダッカだと言いつつ前に出る。


「じゃあ兄さん、これは俺達のせいだって言いたいのか? 俺達だってそんな事知らなかったんだぜ。こいつぁ村に近づかせちゃならねえと必死に戦ったんだ。結果的に悪い事になっちまったみたいだが――」

「それを言い合っても不毛だろう。俺は事実を伝えたまでだ。我が家の娘達に疑いを持つのは止めて頂きたくてな」

「……ま、それは俺はいいんだが兄さん、ひとつ提案がある。聞いてくれるか?」

「ああ」

「不幸な事故とはいえ、こうして燃えちまった家もあるわけだ。その持ち主にしちゃ一大事だろ? どうだ、ここは一つ乗り掛かった舟だ。何とか救ってやらねえかい?」

「……どうやるんだ?」

「そいつさ」


 と、クルルを指差す。


翠玉竜(エメラルドドラゴン)の鱗や骨なんかは、とんでもねえ高値で取引されるんだぜ? こいつをバラしちまって金に換えて、家を建て直す金を出してやらんか? 俺達の知り合いの商人の所に持ち込めば、すぐ買い取ってくれるぜ? あんたの腕なら朝飯前だろ?」

「「ええええぇぇぇっ!?」」


 リーリエとユーリエは驚きの声を上げて、きつくクルルを抱き締める。


「そ、そんなの可哀想だよぉっ!」

「ダメッ――! ダメだから――!」


 しかし、ダッカの提案は、確実に村人の心に刺さった。

 村人の視線が一斉に俺に降り注いでいた。


「そうだ……結局、こいつのせいで村が焼けたのは事実なんだ、こいつは責任を取るべきだ――!」

「そ、そうだよな……! そうだ!」

「やってくれよ! 頼む――!」

「いや、兄さんがやりたくねえってんなら、置いて行ってくれるだけで構わねえよ。俺達がやるからよ」


 そう述べるダッカと、横で腕組みするコタール。

 俺の見た所、この二人は結構な手練れだ。

 クルルをあれだけ傷つけられたのだから、当然だが――

 クルルを置いて行けば、本当にこの二人は倒せてしまうだろう。

 一度逃げおおせて俺達の元に辿り着けたのは、クルルにとって幸運だった。


「……偽善は止すんだな。翠玉竜(エメラルドドラゴン)の素材が高値で取引されると知っている者が、何故その生態を知らない? 彼らが人を襲わない事を、お前達は知っていたな? 知っていた上で、金目当てに自分から襲ったな――村の安全を第一に考えるなら、あれは無害だと村人に説くべきだった」

「「なっ……! そんな――っ!」」


 そう村人たちから声が上がるが、ダッカ達はあくまで悪びれない。


「さぁてねぇ。起こっちまったことは仕方ねえし、やらない偽善よりやる偽善だろ? 俺達に任せてもらえりゃ、焼けた家が建て直せるのは確かだぜ?」

「断る。そしてただで済むと思うな」

「ヘッ――そりゃこっちの台詞だぜ。兄さん、腕の立つ魔術師のようだが……俺達もそれなりに腕に覚えはあるんでな……腕ずくでも村のために翠玉竜(エメラルドドラゴン)は置いて行ってもらうぜ」


 ダッカとコタールが、俺を挟み込むように散開する。


「よく言う。誰のせいだと思っている」


 俺は特に構えも取らず、立ち尽くしたままで奴等に応じた。

 別に必要を感じなかったからである。

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