第12話 山火事
俺達の家族旅行に、新しいペットが加わる事になった。
人に害を為すわけではない光竜であり、それも上級の翠玉竜にペットは失礼かもしれないが、中型犬程度の大きさに縮み、嬉しそうに我が家の天使達の後ろを付いて回る姿を見れば、そう言わざるを得ない。
ますます旅行も賑やかに、楽しくなるかと思われたのだが――
俺達は早速、問題に直面する事になった。
もう間近の国境を目指して山間を進んでいたが、その日の晩――
夜の闇に包まれいるはずの山が、煌々と燃えているのを見かけたのである。
「うわ――エイス君! 山が――燃えてる……っ!」
真っ先に見つけたユーリエが、怯えたように声を上げた。
「ほ、ほんとだ、山の上の方が真っ黒焦げだよぉ……」
確かにリーリエの言う通りである。
山の上の方で挙がった火の手が、麓まで回って来ている様子だ。
そして、山の麓には村が見える。
今にも炎が村を飲み込もうとしているのだ。
そして何より問題なのはその炎の色――普通あり得ないような緑色をしている。
緑色の炎とは、俺の知る限り候補は一つしかない。
「あの緑色の炎は……翠玉竜の炎のブレスだ」
そしてこんな所にいる翠玉竜とは――
「ええええっ!? じゃ、じゃあ――」
「クルルがこれをやったの!?」
二人の顔が蒼ざめていた。
これは大変な事だと考えたためである。
「ク――クルルウゥゥ……」
空気を感じてか、いたたまれなさそうに身を縮こませるクルルだった。
「……いや、何もクルルが悪いとは限らん」
「どういう事? エイス君?」
「何故クルルがケガをしていたかという事だ。翠玉竜は子供のうちしか食事らしい食事をしないが、それも草食だ。だから自分から何かを襲う事は無いんだ。つまりケガをするなら、逆に何かに襲われた可能性が高い」
「「……」」
二人は、真剣に俺の話に聞き入っている。
「あんな深手を負わされていたんだ。クルルも身を護るために必死になるさ。炎の一つも吐いただろう。その現場が――恐らくあの山の一番高い所なんだろう。そこで吐いた炎が山の木に燃え移って広がったんだ」
推測だが恐らく真相はこれだろうと俺は思う。
だから、クルルを責める気にはなれない。
「クルルゥ……」
クルルは幌馬車の中で身を伏せて、小さくなってしまった。
「クルル――そうなんだね、怖かったね……」
「クルルが悪いわけじゃないんだよ。あたし、安心したよ」
リーリエとユーリエが、二人がかりでクルルを抱きしめていた。
「しかし、このまま村が燃えるのを黙って見ているわけにもいかんか――」
クルルは自分の身を護ろうとしただけとは言っても、その結果村が燃えてしまうのは寝覚めが悪い。まだ何とかなるならば、してやった方がいいだろう。
「うん! そうだよ! そうだよね!」
「じゃあすぐ行こ! ビュービュー! 全速力ッ!」
「頼むぞビュービュー」
俺だけ先行してもいいが、こんな夜の山道に子供だけ置いて行くのは断固拒否だ。
ここはビュービューに任せる――
ビュービューは一つ嘶くと、全速力で幌馬車を牽き始めた。
伝説の名馬八足馬だけあり、馬力も脚力もただの馬とは段違いだ。
程無くして俺達は村の入り口近くまでやって来ていた。
「二人とも、クルルは隠しておいてくれよ。見られたら面倒な事になりかねん」
俺はそう言い置いて、御者台を降りた。
近くには避難して来たであろう村人達が、緑の炎に巻かれる村の家々を唖然と見守っていた。既に炎が、村のある程度を焼いてしまっているようだ。
俺は彼等に近づいて、訊ねた。
「済まないが教えてくれ。逃げ遅れた者はいないか?」
村の代表者なのか、年配の白髪の男性が俺に返事をした。
「え、ええ……遠くから火が迫って来るのは見えておりましたがゆえに――あなた様は何者ですかの?」
「旅の者です。逃げ遅れがいないならば、少々荒っぽく消化しても構いませんか?」
「な――危険ですぞ! ワシらも火の勢いが強すぎて、消火を諦め逃げる他無かったのです……悪い事は言わぬ、気持ちだけ有難く頂戴しますじゃ。お止めなされ」
「いいや。娘の前で情けない姿は見せられませんので。では、やらせて頂きます」
俺は自由と風の神スカイラの魔術で宙に浮く。
村の中央の高い所に位置取り、炎の広がり具合を見て狙いをつけた。
「……凍れ」
ピキィ! ピキピキピキピキイイィィン!
村のあちこちの地点から、巨大な氷柱が現れそそり立つ。
平静と氷の神シルバルリィの氷柱による攻撃魔術【氷柱舞を、秩序と光の主神レイムレシスの魔術【全増幅で増幅した姿だ。
それが炎を遮断したり、溶けて鎮めたり、あるいは直接炎を凍りつかせて消してしまった。ものの一分もかからず、村に到達した炎は消滅していた。
使用者の魔力の強さも魔術の威力に大きく影響するが、俺がこの二種を併用すると、このくらいは容易い。
魔力とは、大気中の魔素に対してどれだけの影響力を行使できるかという制御力あるいは強制力だと定義される。
つまり魔素のない場所では、魔術は行使できないという事になる。
魔素は大気の中に見えない形で混ざり合っており、自然な状態では無色透明で何も起こらないものである。
魔力によって魔素を並び替える事によって、様々な現象が起きる。
そして、その行為を指して魔術と言うのだ。
さて、山火事はまだ山を焼き続けていた。そちらの対応もいる。
俺は山火事の炎を取り囲むように氷柱を生み出して行き――
暫くの後、山火事の完全鎮火に成功する。
「よし――こんなものか」
俺はそう呟くと、先程の村の入り口に降り立った。
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