第11話 クルル
「「あははははっ。わーい! ここまでおいでー」」
「クルォークルルルゥゥゥー♪」
小さな二人の娘達の背中を追いかけて、のっしのっしと翠玉竜の巨体が揺れる。
我が家の天使達は、翠玉竜から見てもそうだったらしく、完全に懐かれていた。
恩義を感じる心があるのは素晴らしい事なのだが――
如何せん、翠玉竜の体は大き過ぎる。
馬車の周りを走っているその姿に、ビュービューも多少驚いた様子である。
それはそれであまり見ない姿で、新鮮ではある。
豪胆な性格で、戦場に出て1000人位に囲まれてもまるで動揺を見せないのだが。
「ねぇエイスく~ん」
「この子、あたし達から離れたくないみたいなの!」
何が言いたいか丸わかりの前振りが飛んで来た。
「「連れて行っていい!?」」
キラキラ輝くそんな瞳を二人分も向けられて、俺が嫌と言えるはずがない。
「ああ。構わない」
俺は頷いた、と言うより頷かされたが正解か。
「「やったー!」」
飛び跳ねて喜ぶ子供達。
「だが――連れて行くなら、ちゃんと食事を用意してあげないといけない。それが生き物を飼うという事の責任だ。二人で出来るか?」
俺達の馬車よりも大きい。
これだけ大きいと、食事を用意するのも大変だ。
娘達は顔を見合わせる。
「「うーん……ちょっと大変かも?」」
「――では、これでは?」
俺は魔術を発動させつつ、翠玉竜の表皮に触れた。
魔術というものは、別に詠唱を必ず行わなければならない決まりはない。
要は大気中に存在する魔素を所定の流れ、形に形成できればいい。
それで目的の魔術の効果は発動するのだ。
ならば詠唱という行為は何の役に立つかと言うと、言葉を通して意思を魔素に投影する事によって、魔素の形成を助ける補助的な効果となる。
魔術といえば呪文を唱えなければいけないというのは思い込みだ。
魔素を直接意思で制御できるならば、詠唱はいらない。
無論、詠唱を挟むよりも魔術を発動させる難易度が上がるが。
俺が今無詠唱で発動させたのは、商売人の神マールクットの魔術【小さな鞄】と知啓と金の神アーリオストの魔術【状態維持】を複合したものだ。
小さな鞄は、自分の鞄や身に着けたものに収納する荷物の大きさを小さくする効果だ。だが、自分が触れているものにしか効果がない。
行商が自分の商売を楽にするために、荷物を小さく軽くするための魔術なのだ。
そして、現状維持は物の変化を防ぎ固定化する効果がある。
金属を錆びにくくさせたり、食べ物を腐りにくくしたりする。
それを掛け合わせると――手を離しても維持される荷物の縮小の効果となる。
つまり――翠玉竜の体はどんどん縮んでいった。
小屋ほどはありそうな大きさが、中型の犬程度の大きさになった。
「わぁ――! これなら、お世話できそう!」
「そうね。やったあ! これで連れて行ける!」
効果が永続するわけではないが、時折かけ直してやれば問題無いだろう。
これで、子供達の願いを聞いてあげる事が出来る。
俺にこの力があった事に感謝しよう、おかげでこの娘達をがっかりさせずに済んだ。
「二人とも、ちゃんとお世話できるな?」
「「うんっ!」」
「クルルルー♪」
翠玉竜自体も喜んでいるようだった。
「翠玉竜は、本当はこんな所ではなくて、もっと人が誰もいないような深い森や山に住んでいる。この子はまだ子供で、恐らく親とはぐれたんだろう」
「ええええ? 可哀想――わたし達がエイスくんとはぐれて、迷子になっちゃったのと同じだよね……?」
「リーリエは前に迷子になった時、わんわん泣いてたもんねー」
と、ユーリエがにやにやとしている。
「そ、そんなに泣いてないもん! ちょっとだけだもん……!」
まあ、その時にユーリエは俺といたが、リーリエを心配して涙ぐんでいたのは内緒にしておいてあげよう。
「この子も迷子なら、あたし達が親のドラゴンを探してあげないとよね」
「うんっ。そうだね、そうしてあげよ! それから名前も付けてあげないと!」
「名前かぁ――じゃあせーので言い合いっこね? いいリーリエ?」
「うんいいよ! せーのっ!」
「「クルルー!」」
さすが双子。性格は結構違うが、こういう所はばっちり意思統一が取れているのだ。
「クルルだ!」
「クルルね!」
「クルルゥ♪ クルルゥ♪」
このクルルの親ドラゴンを探す――か。
子供達のやりたい事が、早速一つ増えたようだ。
しかし、翠玉竜の住処など、俺も人里離れた秘境とは知っているが、具体的には分からない。
『樹上都市バアラック』の研究施設に行けば、何か分かるだろうか?
まあ、気の向くまま足の向くまま――だ。
これも旅の醍醐味と言うやつだろう。
俺は二人と一匹になり賑やかさを増したじゃれ合いに、目を細めた。
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