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第121話 時穿孔

「くっ――何が起きやがった……!」

「こ、こいつは凄い力ですじゃ……!」

「うわぁ、凄い眩しいよぉっ!」

「くううぅっ――リーリエ、リコ! 目を閉じてなさい!」

「うぎゃーーっ!」


 皆がそれぞれに声を上げる。

 そして光が収まって、映し出された光景は――

 先程まであった山が完全に吹き飛び、地面に大穴が穿たれていた。

 それを見たヨシュアや子供達は息を呑み、言葉を失っていた。

 それを見て満足そうに、マポレフスキンが高笑いをする。


「はーっはははぁぁッ! 如何ですか(キング)よぉぉぉっ! この神にも等しき力があなた様のものにございますぞおぉぉぉッ! さぁ我にお命じになられよッ! 世界を我に捧げよとぉぉッ!」

「……何度も言わせるな。不要だ。ましてやそんな豆鉄砲など間に合っている。何も有難みが無いものを押し付けようとするな」

「ば、馬鹿なッ!? あの一撃を豆鉄砲と仰るのか!?」

「ああ。さぁ早くアイリンと『浮遊城ミリシア』を元に戻せ」

「な、なりませぬぅぅぅッ! ならば仕方ありませぬなあぁぁッ! おい、あの下の街に照準を向けえぇぇぇいッ!」


 と、『浮遊城ミリシア』の底部に突き出した主砲が、真下のリードックの街に向けられる映像が映し出される。


「……何のつもりだ?」

(キング)よ! 我等をお使い頂くとお約束下されッ! さもなくばあの街は無事には済みませんぞおぉぉッ!」

「つまり……街を人質にとって、俺を脅すつもりか?」

「お許しください(キング)よッ! これもあなたのお役に立ちたいという我等が忠誠のためぇぇぇッ! あなたにお仕えする事が我らの存在意義でありまぁぁすッ!」

「……まあいい。ならばそのまま撃ってみろ。俺が止めて、俺にお前が不要だという事を教えてやる。それで納得したら、大人しくアイリンと『浮遊城ミリシア』を元に戻してもらおう」

「お、おいエイス……! そんな事言って大丈夫なのか――!? 山を消しちまうような威力だったんだぞ!?」

「あれが街に当たれば壊滅ですじゃ……巨人の結界と言えどもひとたまりも――!」

「あわわわわ……! ま、街にはママがまだ残ってるよぉぉぉっ!」


 ヨシュア達が一様に不安そうな顔をした。


「大丈夫だよみんな! エイスくんが大丈夫って言ったら大丈夫だもん!」

「そうよね!? エイス君! あたし達信じてるから!」


 リーリエとユーリエは、俺への全幅の信頼を口にしてくれた。

 ……元々無理な事を言っているつもりも微塵もなかったが、更に気合が入ろうというものだ。この信頼を裏切るわけには行かない。


「勿論だ。見ていてくれ、街は必ず守って見せる」

「「うんっ!」」

「……俺にはどうこうできる話じゃねえ――! 頼むぜエイス!」

「頼みますでの……! 多くの命がかかっておりますじゃ!」

「おじちゃんお願いっ!」

「ああ任せてくれ。さあ何をしている、さっさとやるがいい」


 俺はマポレフスキンに呼びかける。


「応ッ! なれば(キング)をして止められねば、我等を使って世界を支配する事をお約束下さるのですなぁぁッ!? 張り切らせて頂きますぞおぉぉぉッ!」

「ああ――早くしろ」

「なれば主砲最大出力うぅぅぅぅッ! 放てえぇぇェェッ!」


 マポレフスキンの号令が再び発せられ、眩い輝きがその場に満ちる。

 『浮遊城ミリシア』の主砲が放つのは、超巨大な魔術光弾だ。

 それは、山を消し飛ばす程の威力がある。

 天から落ちる雷さながらに、主砲の輝きが地上の街へと降り注ぐ。

 巨人が街に張っている結界も、その威力には抗えずに穴が開く。

 もう一秒でも遅れれば、リードックの街は跡形もなく消滅するだろう。

 その瞬間、俺は動いた。とある魔術を使って。

 その効果は一瞬。誰も気が付くことは無いものだ。

 そしてその結果――


「はははははッ! ボオォォンッ! ボオォォンッ! ボオォォォォンッ! 一撃粉砕粉微塵んんんッ!」

「何を騒いでいる? よく見ろ」


 リードックの街は粉砕もされないし、粉微塵にもならない。

 主砲が放った超巨大な魔術光弾は、弾道をガクンと真逆に変えていた。

 上へ向かって撃ち上がって行き、そのまま高空に消え去って行ったのだ。


「な、何いぃぃぃぃッ!? そんな馬鹿なあぁぁぁッ!? 貴様さては裏切ったかあぁぁ!?」


 確かに凡そあり得ないような、急激かつ不自然な方向転換である。

 マポレフスキンとしては、魔晶石の中のアイリンが意図的にそうしたように思えたのだろう。だが、そうではない。


「……そうではない。だがとにかく、街は無事だ。分かっただろう、そんな豆鉄砲など必要ない。約束通り全てを元に戻せ」

「ぬうぅぅぅぅッ! これは何かの手違いだああぁぁぁッ! もう一度! もう一度だあぁぁぁッ!」


 再び魔水晶が眩く輝き、主砲が放たれ街に降り注ぐ。


「――やれやれ」


 俺は溜息をつき、魔術を発動させる。


「時穿孔《クロックダイバー》」


 瞬間、俺を取り巻く世界に静寂が訪れた。

 全てのものが制止し、全く動かなくなる。

 『浮遊城ミリシア』の主砲が放った超巨大な魔術光弾も例外ではなく、空中で静止していた。


 これは、この世界を取り巻く時の流れに孔を穿ち、時の影響を受けなくする魔術だ。

 すなわち俺の周囲の時が止まったようになり、その中で俺だけは自由に動く事が可能となるのだ。


 この世界には二十六柱の神が存在しているとされるが、最初の神とされる秩序と光の主神レイムレシスや混沌と闇の主神ゼノセドスですら、時を司る権能を持っているわけではない。時の流れというものは、世界を取り巻く全ての神の力がそれぞれに作用し合い、結果的に生まれている――というような解釈もある。


 その理論は正しい。

 何故ならば、今俺の使用したこの時穿孔《クロックダイバー》は、二十六種類全ての神の守護紋(エンブレム)の力を使わなければならなかったからだ。


 余りに制御が難しく、全力を尽くさなければ使う事も出来ないため、守護影(シャドウ)に力を割いて子供達を守らせている状態では、発動も出来ない。

 故にこの子達が俺の側にいて、守護影(シャドウ)を解いても大丈夫な場合にしか使用のできない大魔術だ。子供達を一緒に連れてくる事にして良かった。

 まさか時穿孔《クロックダイバー》が必要になるとは思っていなかったが――

 流石にあの威力の砲撃が街と目と鼻の先に迫っている状況を覆すには、時の一つも止めねば難しいだろう。

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