第122話 マポレフスキンの最期
俺は静寂の中を高速移動し、『浮遊城ミリシア』の外に飛び出す。
街の近くまで空を飛んで移動し、空中で静止している主砲が放った魔術光弾の前に回り込む。
「はあぁっ!」
上空へ向けて、魔術光弾に拳を叩き込む。
時が制止しているためすぐには飛んでいかないが――
俺が殴ったことにより、その位置が少し上方向にずれた。
これで進行方向が変わっていることが分かる。
力が足らず進行方向に変化が無ければ、魔術光弾の位置は微動だにしないはずだ。
やる事は終わったので、俺は再び高速移動をして元の『浮遊城ミリシア』の最深部に戻る。そして、時穿孔《クロックダイバー》を解除する。
またしても、主砲が放った魔術光弾は明後日の方向に飛び去って行ったのだった。
「な、何いぃぃぃぃッ!? おのれぇぇぇぇッ!」
「何度やっても同じだ。もう諦めろ」
「そんな馬鹿なそんな馬鹿なそんな馬鹿なあぁぁぁぁぁッ!」
マポレフスキンは駄々っ子のように、再び主砲を放たせる。
しかしそれも、先程と同じく俺の手によって阻止をされる。
いくつもの主砲の光弾が、明後日の空へと向けて飛んで行った。
「……気は済んだか?」
「嫌だ嫌だ嫌だあぁぁぁぁッ! ふぐぅぅえぐぅぅごふぅぅぅっッ!」
「……大の男が泣くな」
「うわあぁぁぁぁぁんッ! こうなったら我が存在を上乗せして、主砲をオーバードライブさせて見せましょうぞおぉぉぉッ!」
言ってマポレフスキンは自ら中枢部の魔晶石の中へと飛び込む。
そうすると魔晶石を包む輝きはさらに増したが――
中枢部のあちこちがバチバチと弾けるような音を立て、煙を噴き上げ始める。
「……おいおいこいつぁ、爆発しかけてるんじゃねえか!?」
「かも知れんな――」
「ああ――アイリンがっ……!」
中枢部の中で小さな爆発が起きて一部が損傷し、飛び散った破片がアイリンに突き刺さったのだ。腕や腹部から血が流れ出している。
これは結構な深手だ――が、アイリンはまるで表情を変えない。
「お姉ちゃん……っ! 怪我してる!」
「は、早く治してあげないと! エイス君!」
「ああ――悠長にしている場合ではないな」
古代文明の遺産は学術的な価値を考えるとおいそれと破壊するわけには行かないし、あのマポレフスキンもはた迷惑な性格だが、純粋な敵というよりは俺に自らの力と存在価値を見せたいだけのようだった。
だから、こちらからの直接攻撃は控えてなるべく穏便に、俺に『浮遊城ミリシア』の力など必要ない事を納得させて元に戻って貰おうと思っていた。
そうでなければ、時穿孔《クロックダイバー》を使った瞬間にマポレフスキン自体を攻撃して潰してしまえば良かったのだ。
――しかしそうも言っていられないようだ。早くアイリンを救い出して治療をする必要がある。
「警告だ。今すぐアイリンを開放して『浮遊城ミリシア』を元に戻せ。さもなくば潰す」
「くわあぁぁぁぁはっはっははぁぁぁッ! 死なば諸共おぉぉぉぉッ!」
「……やれやれ。無駄のようだ、仕方ないな」
俺は中枢部の中に入り込んだマポレフスキンに向けて掌をかざす。
アイリンを傷つけてはいけない。範囲は慎重に絞り、貫通力を高めるように魔素の具合を調整し――
「七神竜滅光」
七種属性混合の破壊光線だ。
七つの光が虹のような閃光の束となり、うねりながら目標へと突き進む。
それは中枢部を貫通し、マポレフスキンを飲み込んでいた。
「のおおぉぉぉぉォォッ! こんなあぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァッ…………!」
断末魔が尾を引きながら、向こう正面の壁を突き破って行く。
更にその先その先と壁が貫かれて行き、最終的には青い空が見えた。
――と、同時にアイリンも中枢部の外に排出されていた。
俺の魔術はマポレフスキンだけを捉えつつ、その余波でアイリンを外に弾き出していたのだ。あるいはマポレフスキンの消滅によってそうなっただけかもしれないが、狙い通りになったのだから、それはどちらでもいいだろう。
「……やれやれ、うるさい奴だったな」
悪いが、俺には世界を支配する古代兵器の力など必要ない。
我が家の子供達が幸せであれば、それでいいのだ。
マポレフスキンが消滅し、アイリンも排出されると、巨大な魔晶石を収めた円筒型の中枢部は床下に引っ込んで姿を消して行った。
それと共に周囲の様相も一変し、魔素に満ちた青黒い石の壁や床が、古ぼけた灰色のものへと変わって行く。
「リーリエ! やるわよ急いで!」
「うんっ! 分かった!」
子供達は一目散にアイリンの元に駆け寄って行く。
気を失って地面に横たわるアイリンは、既に先程までの魔術紋や光る翼は無くなっており、俺達の知る普通の少女に戻っていた。
ただ先程の負傷までは無くなっておらず、早急な治療が必要な状況だ。
俺に治癒魔術は出来ないため、こういう時はこの子達に任せるしかない。
あの子達もそれが分かっているから、これは自分たちのやるべき事だと自覚して動いている。まだ小さいが、立派な治癒術師としての心構えだ。
俺はその様子を頼もしく、そして微笑ましく思う。
「ようエイス。お疲れ、多分もう大丈夫だよな?」
と、ヨシュアが俺の肩をポンと叩く。
「ああ。恐らくはな」
最後にマポレフスキンを倒した魔術は、全ての壁を貫通して外の様子が見えるようになっている。そこから垣間見える風景の中に、キラキラと輝く花園がある。
あれが恐らく『水晶の花園』だ。俺達がここにやって来たお目当てである。
『水晶の花園』があるという事は、これが普段アルディラさん達が見ていた『浮遊城ミリシア』の姿だろう。
「……あとはアイリンさえ無事なら万々歳ってなもんだ――治るんだよな?」
「ああ。あの子達はまだ小さいが、実力はそこらの治癒術師に負けていない。大丈夫だ」
と、俺が太鼓判を押した直後――悲鳴に近いような子供達の声が上がる。
「エ、エイスくんっ……! 大変だよぉっ!」
「何か変なの! 治癒魔術が効かないの!」




