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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第二章 街住まいのドラゴン
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66 ドラゴンさん、みきわめる

 66


「倒す。ヘビ女を、倒す」


 どんな無理だって、無理じゃなくしてみせるから。


 あの蛇っぽい女の人がどこにいるかわかれば、絶対に倒してみせる。

 その場所さえわかれば、わかれば――うん。

 もう少しで、わかるような、気がする。

 ほんのちょっと、何かがあれば、きっかけがあれば、わからないがわかるになる。


『「レオン!」』


 僕を呼ぶノクトの鋭い声。


 でも、その続きはない。

 シアンといっしょになっているノクトもつらいに決まっている。

 もう声も出せないのかもしれない。


 けど、ノクトはすごい猫だ。

 シアンができるといった事をできないにしたまま、あきらめて嘘にしてしまうなんて絶対にない。

 今の僕を呼ぶ声。

 あれにも意味があるはず。


 そうわかっているから、僕は見た。

 ノクトが僕を呼んだわけを見つけるために。


 腕の中のシアンとノクト。

 苦しそうな息づかいでふるえている。

 それだけにしか見えない。

 絶対に何かがあるはずなのに、それでも見えないというのなら、それは僕に見るための『目』がないという事。


 なら、まずはそれを手に入れないと。


 決まってしまえば簡単だ。

 僕の中にある何かが動き始めた。

 体じゃない。

 生命力でも魔力でもない。

 魂魄に入り込んでいた何か。


 それはずっと、ずっと、必要とされる今を待っていた。

 だから、僕に求められて、うれしそうに走って、回って、結果になる。


 頭の中に浮かんだ絵は二本の樹。

 同じ根っこから分かれて、並んで、いつか同じところに行こうと空を目指している。

 そんなイメージが過ぎ去った後。


 目を閉じて、目を開く。


「――ああ、見えた」


 シアンの首の後ろ。

 そこに刺さった銀色――ぐるっと曲がった針。

 針には紫色の糸みたいなのがついていて、天井に伸びている。

 見回すとエントランスにいた人間にも、動物にも、モンスターにも針が刺さっているし、紫色の糸が天井のまんなかに向かっていた。


 いくら僕でもわかる。

 この針と糸がみんなを操っているんだ。


「なら、この糸の先にヘビ女がいる」


 つぶやくと辺りがざわついた。


 操られた人と動物とモンスター。

 そのどれもが僕たちに向かって動き始めていた。

 塔の階段なんて関係ない。

 前で止まっている人を踏み超えたり、壁をよじ登ったり、物を投げたりとメチャクチャしながら僕を攻撃しようとする。


 ヘビ女があせっているのかもしれない。


「待ってなんかあげない」


 シアンをそっとトントロとピートロのとなりにねかせる。

 そして、辺りのマナを生命力と魔力に転換。

 体の中にも外にもあふれたそれを手のひらに集めて、天井に向けて、ゆっくりとにぎりしめる。


 魔闘法――竜人撃:圧海竜『底なしの黒い箱』


 鍾乳石が青白く光る天井。

 そこが手の形につぶれた後、浮かんだのは黒い箱。

 黒い箱に向かって土も石も空気も何もかもが集まっていって、それらは小さく小さくまとめて固められていく。


 一呼吸の後、黒い箱が消えると小さなかたまりが落ちてきた。


「っと」


 青白い光が減って暗くなった中、それをつかむ。

 細い棒みたいになったかたまり。

 いろんなものがムリヤリいっしょになったそれは見た目よりずっと重い。


 操られていたモノたちがバタンと倒れていった。

 黒い箱に糸が巻き込まれて千切れたからだと思う。


「うん。じゃあ、次は――」


 僕は棒に向けて一呼吸で生み出した魔力を注ぎ込む。

 さっきの黒い箱の時に使ったマナとは違う。

 こんな薄くなったマナから転換したものなんかじゃない、さっきから僕が体の中にたくわえていた魔力の全部だ。

 びりびりと空気がふるえて、はじける。


「――見えてるよ。天井うえじゃなくて、塔の地下したでしょ?」


 呼びかけると、倒れた全てがふるえた。


 天井に伸びていた糸は鍾乳石の間に隠れて、壁をつたって、床をはって、僕たちがいる塔の底のさらに下に続いていた。

 建物とか、人とか、モンスターの後ろに隠れていたけど、今の僕にはよく見えている。

 天井から続いていた糸は切れたけど、今は地面をはった次の糸が倒れた人や動物にモンスターにつながっているのも。


 だから、つかむ。


 黒い箱を使った後、僕の首に刺さろうとしていた針。

 そこから伸びた糸――ヘビ女の髪の毛を。


「だから、見えてるんだよ」


 僕の魂魄の奥にある何か。

 それが目だけじゃなくて、いろんなモノで伝えてくる。

 今ならヘビ女のおびえた顔だってわかった。


「じゃあね。バイバイ、僕」


 天井をまとめてできた棒。

 そこに集めた魔力を剣の形にする。


 うん。

 今日のダンジョンでやる事のひとつ。

 武器を使ってみる、だ。


「IYADAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAっ!!」


 悲鳴が聞こえて、ヘビ女が暴れる。

 すぐに魔力の剣を使おうとしたけど、その前に操られた人たちが飛び込んできた。

 これじゃあ、巻き込んでしまう。


 僕が迷った隙に、ヘビ女は自分の髪を振り切って逃げだした。

 すごい速さだ。

 地面をぬるぬるとすべって、外に続く階段に向かっていく。


「『逃がしません!』」

『「止まりなさいな!」』


 シアンとノクトの声。


 首に刺さった針から伸びた髪を握ったシアン。

 そこから不思議な力が伝わっていくのがわかる。

 逃げようとしていたヘビ女がピタリと止まって、そのまま動かない。


「『レオン!』」


 続きは聞かなくてもわかった。


 僕は塔の上から飛び上がって、天井の近くからヘビ女を見下ろす。

 ここなら間に何もないから、思いっきりやれる。


 もうお別れの言葉は言った。

 だから、魔力の剣を投げる。


 魔闘法――竜人撃:始光竜『辿り着く星の光』


 音はない。

 揺れもない。

 まぶしさもだ。


 あるのは一本の道。


 僕の手からヘビ女の向こう側へと、どこまでも続く空白ができあがった。


「A――HA……?」


 ヘビ女の胸にはぽっかりと穴が空いていた。

 僕やこの前のドラゴンならこれぐらいなら大した事じゃない。

 生命力で治してしまえる。

 きっとヘビ女も同じだろう。

 だから、笑おうとして、失敗した。


 まるで傷が治ろうとしない事に驚いて。


 魔力の剣が貫いたのはヘビ女の魂魄。

 普通なら誰にも触れられないそれに、僕は一撃を叩き込んだのだ。


 魂魄を失ってしまえば、もうどうしようもない。

 ぱたりと倒れたヘビ女のそばに下りた僕は一言つぶやく。


「さよなら」

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