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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第二章 街住まいのドラゴン
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47 ドラゴンさん、武具屋に行く

 47


 装備?

 装備っていうと、冒険者の人たちが着ていた金属やら革の服とか、剣みたいな武器とかの事かな?


「それ、いるの?」


 今日の僕はギルドでもらった服を着ている。

 ドラゴンの鱗はなくなってしまったけど、人間のお肌でも生命力で強くしておけば、だいたいどうにかなると思う。

 裸なのはダメなのはわかったけど、防具はいらない。


『いるわね。あなたにとって実用性は皆無どころかマイナスなのでしょうけど、そんな普段着のままダンジョンに入ったりしていたら悪目立ちして仕方ないもの』


 変に目立つと苦労する。

 周りにも迷惑をかけてしまう。

 そういう話はこの三日で聞いている。


「でも、シアンは?」


 シアンの装備は黒いワンピースの上に、白いローブを着ているだけで、あとは木の杖を持っているぐらい。

 体が弱いシアンの方がもっと守った方がいいと思う。


「わたしは魔導使いですからね! 後衛は前衛の仲間を信じていますから。防御を固めるより、動きやすい方がいいんですよ!」

『それだけじゃないでしょう? この子は貧弱すぎて、重い装備なんて身に着けたら歩けなくなるだけよ』

「そういう意見もありますね!」


 そっか。

 シアンは僕が守ればいいから、防具は必要ないんだ。

 でも、だとしたら、シアンを守るためにも余計な物を着たくない、かな?


「レオン、ここはひとつ、冒険者ごっこみたいなものだと思えば楽しいかもしれませんよ?」

『心配しなくてもあなたの手に負えない相手なんて出るわけ……そうそう出るわけないわ』


 うーん。

 シアンとノクトがここまで言うんだから、がまんしよう。


「わかったよ。それで、どこに行けばいいの? えっと、冒険者の物なら、冒険者の多い南側で探せばいいんだよね?」

『正解よ。行きましょうか』


 ノクトは一匹で先に宿屋を出て行ってしまう。

 僕とシアンは慌ててそれについていく。


「では、女将さん。いってきます!」

「いってきます!」


 初めての『いってきます』だ!


「はん。いってきな。せいぜい、宿代を稼いで帰って来いよ」


 女将さんに手を振って、宿屋を出た僕たちはノクトが先頭になって歩き出す。


 この前と同じ道を歩いているはずだけど、いろいろと違っている。

 歩いている人が少ないし、街も静かだし、空気が少し涼しくて、ちょっとだけ湿った香りもしていた。

 昼と朝だと違う顔をしているみたいで楽しい。

 夜だとどうなるんだろう?

 この三日間、朝と昼はたまにノクトといっしょに宿屋の前まで出たりしたけど、夜だけは絶対に出してもらえなかったんだよなあ。


「それで、ノクト? どこのお店に行くんですか?」

『予算だけなら余裕でしょうけどね……』


 言いながらノクトは自分の影を見下ろしている。

 なんだかいつものノクトらしくない、ちょっと怖がっている感じだ。


『シアン、信じられる? 今、あたしの影の中に金貨が一枚あるのよ? これまでもレオンからの信頼が怖いと思った事は何度もあったけど、これ以上の恐怖はないわ。もしも、もしも今、どこからか取り立てが来たとしたら、あたしの良心と良識は勝てるのかしら?』

「頑張ってください、ノクト! ノクトなら欲望に負けたりしません!」


 金貨って、僕がマリアとディックから渡されたあれかな?

 なんだか細かい絵とか文字が彫られた、キラキラ光る小さい円盤。

 僕だとなくしちゃいそうだったから、ノクトに預かってもらったんだけど。


 シアンたちが何に困っているのかわからないけど、今すぐにどうにかなってしまう感じじゃないからだいじょうぶかな?


「えっと、その金貨で買うの?」

『……いえ、いいえ。違うわ。金貨が必要になる程の装備なんて、下層で稼ぐ冒険者ぐらいなものよ。そんな高価な物を装備していたら、それはそれで悪目立ちするわ。そうね、銅貨十枚、いえ、銀貨。銀貨を一枚使うわ』


 何度も頭を振ってからノクトが教えてくれた。

 それを聞いていたシアンが、汗もかいていないのにおでこをぬぐいながら、ノクトを見下ろす。


「銀貨。ノクト、本気ですね? わたしの装備なんて銅貨五枚だというのに、その二十倍を使うなんて」

『建前とはいえ、シアンも中層冒険者よ。なら、その護衛には相応の装備が必要じゃない』


 ええっと、お金の事も教えてもらった。

 一番弱いのが賤貨。

 次が銅貨で、その次が銀貨。

 その上に金貨があって、一番強いのが王貨、だっけ?


 それでお金を集めると、強いお金と交換できる。

 賤貨は500枚で銅貨1枚。

 銅貨は100枚で銀貨1枚。

 銀貨は50枚で金貨1枚。

 金貨は100枚で王貨1枚。

 だったと思う。

 数がいっぱいになると、指が足りなくなるから大変だ。


「レオン? レオン、ここですよ!」


 僕が思い出している間に目的のお店についていたらしい。

 通り過ぎそうになったからシアンが腕を捕まえて止めてくれたみたいだ。


 お店を見ていると、『迷宮の狭間亭』とはずいぶん違う。

 というか、ここってお店なの?

 ダンジョンで使ったテントが大きくなったみたいな感じだけど。

 道の端っこにあって、建物じゃないし。


「お店?」

「そうだよ、お兄ちゃん」


 声は足元からした。

 けど、ノクトの声じゃない。

 シアンとも違う女の子の声。


 見下ろすと小さい、というか幼い女の子がいた。

 僕の腰にも届かないぐらいの背だ。

 ニコニコと笑顔で僕を見上げている。

 とても楽しそうで、嬉しそうな感じだから、僕まで笑ってしまう。

 二人で笑いあっていると、シアンにシャツの袖を引っ張られた。


「あの、これは別に嫉妬というわけじゃなくてですね? それにレオンを幼女性愛者と疑うわけでもなくてですね? このままだと面倒な人が面倒になってしまうから引き離すわけでしてね?」

「?」


 シアンがよくわからない。

 ただ何かを警戒しているのはわかった。

 その何かはすぐそこまで来ている。


「おい、てめえ。うちの天使を見てやがったな?」


 テントの奥から出てきたのは大きな人だった。

 縦にも横にも大きい。

 近くから顔を見ようとしたら首が痛くなりそうなぐらいだし、腕も足も丸太みたいに太くて固そうだ。

 そんな人が腕を組んで、僕をにらみつけてくる。


「?」

「うちの天使を見てただろ、違うのか?」


 天使っていうのはこの子の事かな?

 そういう名前なんだ。

 それで、見てたかどうかなら、答えは決まっている。


「うん。見てたよ」

「そうか。見とれてたか」


 あれ?

 ちょっと違う気がする。


 首を傾げている間に、大きな男の人はずいと僕に顔を寄せてきた。

 ごつごつした顔はとてもまじめな感じがする。


「見ちまうのはしたかねえ。天使だからな。どいつもこいつも魅了されちまう。だから、見るだけなら許してやる。もちろん、天使が怖がらない範囲でだ。だが、触るのは許さん。しゃべるのは……世間話までだ。商談は俺にしろ。口説くなよ? 俺から天使を奪うというなら、高ランク冒険者が相手でも俺は戦う。いいな?」


 よくわからないけど、うなずいておいた。

 そうしないと、なんというか、そう、面倒な感じになりそうだから。


「わかればいい。わかればな」


 僕の勘は当たっていたみたいで、大きな男の人は何度もうなずいている。

 もしも、嫌だって言ってたらどうなっていたんだろうか?


「んで、お前はなんだ?」

「お兄ちゃん、お客さんだよ?」

「そうかそうかそうか~! うちの天使はいい子な上にお利口だなあ~! お兄ちゃん、わからなかったよ~!」


 甘い。

 声が甘い。


 なんだろう、これ。

 僕もシアンもどうしたらいいかわからないで困っていると、ノクトが重い足取りで男の人に近づいていった。


『相変わらずね、シスコン武具屋のトールマン』

「あん? ノクトって事は、そっちは……シアンか? 貧乏冒険者が珍しいな。しかも、男連れとは思わなかった」

『女将にも言われたわ』

「だろうな。あんたらはあんたらだけで成り立っているつうか、他を懐には入れねえ感じだからな。で、そんな奴らが連れを増やして、うちに何の用だ? シアンの装備は……まあ、そっちの基準じゃあまだ使えるみたいだが……」


 さすが、ノクトだ。

 僕にはどうしようもなかった相手に平気な顔で話している。


 けど、そんな時間も長く続かなかった。


「猫さんだー」


 小さい女の子がひょいと抱き上げてしまった。

 胸にぎゅうっと抱きしめられて、もう後は声も出せなくなっている。

 最初は毛を逆立てたしっぽが激しく揺れていたけど、だんだんと弱くなっていって、最後はだらーんと垂れた。


「……ノクトの生命力が、消えた?」


 あ、違う。

 まだちょっと残ってる。


「? 猫さん?」

「ノクト!? ミリーちゃん、力を抜いてください! ノクトが死んじゃいますから!」




 しばらくして解放されたノクトは、僕の頭の上に逃げてしまって、そこから決して下りようとしなかった。

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