46 ドラゴンさん、いろいろと学んだ
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シアンのパーティに入ると決めた日から三日。
僕は『迷宮の狭間亭』でお勉強をしていた。
文字とか、数字とか、人間の生活とか、道具とか、いろんな常識をシアンやノクトから教えてもらう時間は大変だったけど、同じぐらいおもしろい。
なんだか、『あの人』といっしょにいた時に似ていたからかもしれない。
他にも冒険者ギルドからマリアとディックがやってきて、僕の依頼がどうなっているか教えてくれたり、倒したモンスターの分のお金の残りを持ってきてくれたりした。
そのお金で僕も『迷宮の狭間亭』の部屋を使わせてもらえるようにしたり、服の替わりとか、いろんな道具を用意してもらった。
その間もずっと建物から出ていない。
外に出なかったのは、出れなかったから。
シアンが。
筋肉痛で。
僕が思っていた以上にシアンは無理をしていたみたいで、寝て起きた後はもうベッドから起き上がれないぐらいだった。
腕を持ち上げるだけで悲鳴を上げて、寝返りをしようとしては助けを求められて、僕はもう心配で心配で、胸が押さえつけられているみたいだ。
ノクトと女将さんがお世話をして、僕もたまに手伝って、看病(?)ばかりの三日。
そんなつらい日も昨日まで。
「ふふふ。完全、復活、です!」
寝たっきりだったシアンが一階に下りてきて、僕の前でばんざいしていた。
本当にもうだいじょうぶみたいで、ちっとも痛そうな感じはしないし、いつもの自信満々な笑顔だ。
その足元でノクトは冷たい目で彼女を見上げている。
『まったく、貧弱もそこまでいけば感心するわ』
「ふふ。それは昨日までのわたしですよ? 昨日までのあれは筋肉痛に見えたかもしれませんが、魂魄がレベルアップしていたんです! レオンのおこぼれではありましたが、多くのモンスターを倒しましたからね! 生命力が大幅に強化されたに違いありません!」
「ねえよ。本当に強化されてんなら魂魄鑑定で出てる。あんたのは単なる筋肉痛」
カウンターに頬杖をついた女将さんがばっさりと断定する。
実はシアンもわかっていたのかもしれない。
悔しそうだけど、否定しなかった。
「くっ、それは、そうかもしれません。ですが! 筋肉痛を乗り越えれば体は強くなるのは間違いありません! きっと! きっと、もうダンジョンの迷路にだって、階層の階段にだって負けません!」
『志が低すぎるわ』
「冒険者ならモンスターを倒せよ」
ノクトと女将さんはきびしい。
せめて、僕だけはシアンの味方をしよう。
「シアンならだいじょうぶだよ! ダンジョンなんかに負けないよ!」
「さすが、レオンはわかっていますね! ええ、わたしは負けません!」
「うん。シアンの魔法でダンジョンなんて倒しちゃえ! 階層主もユニークモンスターも一撃だよ!」
「や、それはさすがにちょっと荷が勝ちすぎると言いますか……」
あれ?
シアンならできると思ったんだけど、難しいのかな?
いや、シアンは天才魔導使いだ。
きっとできる。
そうだ。今のはきっと『謙遜』ってやつだ。
この三日で覚えたから知っているよ。
「あの、レオンの目がいつも以上にキラキラしているんですけど……」
『レオンの場合は本気で言っているから困るわね。シアン、しっかりと期待に応えてあげなさい?』
「ダンジョンを一撃で倒すような魔導って、もう特級とか超級を通り越して、級外のナニカじゃないですか……」
『天才なんだからなんとかなさいな』
「いえ、あの、わたしの魂魄が天才でも、そんな魔導を使うにはどれだけモンスターを倒せばいいのか……」
シアンは指を折って何かを計算している。
僕はまだ足し算でも指を使ってしまうけど、シアンは頭の中で計算できる。
そんなシアンが指を使うという事は、とても難しい計算をしているんだな。
じゃましちゃいけない。
『さて、シアンが動けるなら今日からダンジョン探索を再開するわよ』
「じゃねえと、宿代も厳しいからな」
女将さんに言われてもノクトはだまったままだ。
その通りらしい。
お金は使ったら減る。
減ったら働いて増やさないといけない。
これも知ってる。
だから、シアンも寝ている時に着ていたのと違う、冒険用の服を着ていた。
『とはいえ、シアンは病み上がりだし、レオンはまっとうなダンジョン探索は初めてよ。だから、今日は上層の浅い場所――日帰りできる場所でモンスターを倒して稼ぐわ』
「上層? 中層に行けるのに?」
たしか、中層の入り口の『塔』なら、ギルドの屋上から行けるはず。
『シアンが得た資格はほとんどあなたに頼って手に入れただけよ。まだ、中層に挑む力はないわ』
だから、上層を順番に進んでいって、今度は僕が手伝わなくても中層に行けるようになりたいんだ。
シアンもノクトも立派だな。
「わかった。僕も頑張るよ」
『頑張りすぎない程度になさい。シアンが強くなるには、シアンがモンスターを倒さないといけないんだから。教えたわよね?』
ノクトに聞かれてうなずく。
「モンスターを倒すと、その魂魄がマナに還る前に、ちょっとだけ倒した人の魂魄に移るんだよね?」
『正確には縁の繋がった人に、だけど。概ね正解よ。自分を殺した相手ほど、縁の強い相手もいないでしょうしね』
だから、冒険者はお金を稼ぐためだけじゃなくて、強くなるためにもモンスターを倒しているんだ。
「つっても、モンスター倒して強くなれる程度は個人差があっからな」
それは知らない。
女将さんを見ると、僕の目に気づいた女将さんが続けてくれる。
「同じモンスターを倒しても同じだけ強くなるわけじゃねえんだ。生命力が強くなる奴。魔力が強くなる奴。どっちも伸びる奴。伸びる具合もバラバラ」
『そうね。その辺りは魂魄の相性としか言えないわ』
そう言いながらノクトは僕をじっと見つめてくる。
それが魂魄の様子を見ているのだと僕はわかるようになっていた。
「どうしたの?」
『レオンの底が知れないと改めて思っただけよ。まったく、どれだけモンスターを倒したらそんな魂魄になるのかしら』
モンスターを倒した数かぁ。
数えた事なんてないからまるでわからないけど、『あの人』と約束してからの百年間はずーっと戦っていたし、ダンジョンで自爆した時にもモンスターを倒しているから、たくさんだとは思う。
「いっぱい?」
『せめて、概算ぐらいしてほしいのだけど』
「いーーっぱい?」
『……いいわ、忘れて』
任せて。
忘れるのは得意だ。
『シアンもそろそろ行くわよ』
「――はっ!? あ、そうですね」
「えっと、ダンジョンに入る前に、ギルドに行くんだっけ?」
これも教えてもらった。
冒険者はダンジョンに入る前に、ギルドに報告しておくんだとか。
あと、僕もシアンたちのお手伝いをするなら冒険者の登録をしておいた方がいいって言われていて、もうマリアにお願いしてある。
だから、まずはギルドだと思ったんだけど、ノクトは首を横に振った。
『正解、と言いたいところだけど今日は違うわ。その前にレオンの装備を整えるわよ』




