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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第二章 街住まいのドラゴン
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45 ドラゴンさん、パーティに入る

 45


 パーティって、冒険者の人たちがいっしょに冒険するんだっけ?

 僕がシアンとノクトとそれになる?


 シアンとノクトは大好きだけど、それにうなずくには問題があるんじゃないかな。


「僕、冒険者じゃないよ?」

『そうね。あたしも強制するつもりはないわ。けど、あなたはまず自分の身分という物をはっきりしないといけないのよ』


 身分?

 なんだろう、それ。


『わからないでしょうけど、人間には色々とあるのよ。そうね。身分と言わなくても、出身とか、職業とか、肩書とか。要するに、その人間がどういう人間か一言で表すための合言葉といったところかしら? たとえば、シアンなら『魔導使いの冒険者』で、マリアなら『冒険者ギルドの受付リーダー』で、女将なら『宿屋の主人』ね』


 難しい話だ。

 シアンに教えてもらいたいけど、疲れて眠っているシアンを起こしてしまうのはかわいそうだから、自分で考えてみよう。


 つまり、僕を知らない人に僕の事を知ってもらえばいいんだ。

 えっと、出身と、職業と、肩書だっけ。


「出身……どこかの荒野、かな? 覚えてないや。職業ってお仕事だよね。働いた事、なし。肩書……鮮血の暗黒竜クリフォトドラゴン……?」


 違うのに、そう名乗るは悲しい。


『涙目になるぐらいなら言わないの。ちなみに、それをそのまま人に伝えたらこう思われるでしょうね。『妄想癖を拗らせた無職の浮浪者』って。あと、元ドラゴンとかも禁止よ。枠に拘る必要はなくても、あまりに異常だと忌避されるから』


 言葉の意味はわからないけど、それが普通じゃないのはなんとなくわかった。

 これでは友達になってもらえないのは僕でもわかる。


『今のところ、あなたはギルドにダンジョンで『裸捨て』された元奴隷という事になっているわ。そういった人間でも、誰かが後見人になれば冒険者にはなれるのよ。後見人にはシアンがなればいいし、そうなれば今後は冒険者を名乗れる』


 さっきのと比べてみる。

 うん。

 冒険者だって言った方がいい気がしてきた。


「わかった。僕、冒険者になるよ」

『……あたしが提案しておいてなんだけど、もう少し人を疑う事を覚えなさい』

「なんで? ノクトは嘘を言わないよ?」

『そうだけど、そうじゃないのよ。ああ、もう。あなたの信頼はちょっとした凶器ね』


 やっぱり、ノクトの言う事は難しい。

 疲れたようにため息をついているノクトだけど、一度体をぐっと伸ばしてから話を続けてくる。


『ともあれ、冒険者になるのは悪い選択ではないはずよ。今のあなたでも確実にできる仕事なのだから』


 冒険者はダンジョンに入ってモンスターを倒すお仕事。

 これなら僕も自信がある。

 けど、それはそれとして不思議な事がひとつ。


「働かないとダメなの?」

『それだけ聞くとダメ人間のセリフね』


 そうだろうか?

 働かなくていいなら働かなくてもいいんじゃないのかな?


『そっちの話もしておきましょうか。レオン、人間はお金を使って生活をするのはもうわかっているわね?』


 うん。

 ほしい物をお金と交換して手に入れる。

 そうやっていろいろな人と物を交換して、食べ物を手に入れたり、寝る場所を借りたりするんだよね。


『そのお金は使えばなくなってしまうし、なくなったら働いて手に入れないといけないの』

「それもわかる」


 だから、お金がほしいシアンは冒険者をして働いているんだ。


「でも、僕はほしい物なんてないよ?」


 ほしいのは友達だけ。

 あ、そうだ!


「もしかして、友達もお金でもらえるの!?」


 なら、僕はまだ使えるお金を持っているはず。

 えっと、金貨が……いくつか!


 けど、ノクトは僕を冷たい目で見つめながらしっぽを揺らす。


『金で買えたとしてもそれは本当の友達じゃないでしょうね』


 なんだか、ダメらしい。

 でも、そうか。

 お金があっても交換できないものなんだね、友達って。

 うん。

 確かに友達って交換するものじゃない。

 誰かにお金をもらって、そのお金で友達のシアンをちょうだいと言われても、僕は嫌だって言うはずだ。

 つまり、そういう事だ。


「でも、だったらやっぱりほしい物なんてないんだけど」

『いい? 普通の人間には必要な物が三つあると言われているわ。ちなみに、これは全部お金で手に入る物よ』


 普通の人間がほしがる物。

 なんだろう?


『それは衣食住というわ』

「なに、それ?」


 魔導の名前だろうか?

 それとも秘密の合図?


『衣は服の事ね。人間は暑いのにも寒いのにも弱いから、服を着るわ』


 最初に服を着ていなかった僕を見て、シアンは泣きそうになったり、叫んだりしていた。

 思い出してみると、服を着るまでは友達になってとも言えなかった。

 なるほど。

 服は大切らしい。

 僕、暑いのも寒いのも平気だけど。


『食は食事ね。人間は食事をしないと動けなくなってしまうの。まあ、これはほとんどの生物が同じだけどね』


 ドラゴンの時はマナさえ吸っていれば良かったけど、今の僕はお腹がすくし、なによりご飯っておいしい。

 うん。

 ご飯を食べるためにお金がいるなら、お金はあった方がいいかもしれない。


『最後に住は住み家ね。人間は安心して休むための場所が必要なの』


 それは昨日、ダンジョンで寝た時に言っていた。

 動物も寝たり、子供を産んだり、ケガを直す時は巣を使っていた。

 人間が似た事をするのもわかる。

 今まではいらなかったけど、僕も巣を造る時が来たのかもしれない。


 けど、そっか。

 衣食住。

 どれも僕は持ってないし、どうやって手に入れればいいかわからない。


『だから、レオン。あなたはまず衣食住を満たすところから始めるのはどうかしら? それが全てではないけれど、人間の常識を学ぶ上でもいいとっかかりになると思うわ』


 冒険者になって、お金を手に入れて、それで衣食住をそろえる。

 そうしたら、人間の事がもっとわかって、友達を作れるかもしれない。

 それに、シアンは友達だ。

 そのお手伝いができるのも嬉しいし、断る理由なんてどこにもない。


 そこまで考えて、ノクトは僕にシアンのパーティに誘ってくれたんだ。

 ノクトは本当に頭のいい猫だ。


「うん。わかった。僕、シアンのパーティに入るよ」

『ありがとう』


 ノクトはそっけなく言っているけど、しっぽはピンと立っているからきっと喜んでいるんだと思う。

 僕も嬉しくてニコニコしていたら、壁の方を向いてしまった。


『先に条件はしっかり決めておくわ。まず、あなたとシアンでは実力差がありすぎるわね。だから、基本的に戦いはシアンがメインよ。あなたはモンスターを近づけないだけでいい。報酬もあなたが多めにしないと……なんだか傭兵を雇っている気分ね。まあ、いいわ。ただ、あなたに常識を教えたり、フォローもするから、その分は報酬から引かせてもらおうかしら。どう?』

「うん。いいよ」


 難しいからわからないけど、僕が必要なぶんのお金がもらえればそれでいい。

 ノクトならちゃんとその分をくれると思う。


『……本当に信頼が重いわ。そのうち、あなたも相場を覚えなさいな』


 何かをあきらめたみたいに遠くを見ながらノクトはため息をついた。

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