表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第四章 ドラゴンをやめるドラゴン
155/179

152 ドラゴンさん、氷がつめたい

 152


 へんな氷だ。

 なんだかうまく力が入らないよ。

 ドラゴンシャフトに魔力を入れるけど、剣にならないし。

 ううん。というか、うまくマナを生命力や魔力にできない。


「『レオン!?』」

「ふむ。お互いがお互いを知っておるのなら、知らぬところを突けばよいとは思わんか?」


 聞こえてきたのはアメジスの声。

 首から上は動くから、そっちを向く。

 広場のはじっこの方。

 そこにアメジスが立っていた。


 シアンの後ろで止まっていたアメジスの体が消えていく。

 やっぱりあれはアメジスっぽく見えたけど、氷像だったんだ。

 すごいそっくりだったけど、なんとなくちがうと思ったんだ。


 それでも、シアンがあぶないって思ったらダメだった。

 気をつけないといけなかったのに、そっちしか見えれなくなっていた。


 その時をアメジスはしっかり見ていて、足元に倒れていた――『倒しておいた』氷像を動かしたんだ。

 いきなり動いてもいつもなら当たらなかったと思うけど、さっきはダメだった。

 うん。ずるい。


「真に不意を突くならば声など出さんよ」


 アメジスがニコニコとしながら近づいてくる。

 それといっしょに氷が大きくなり始めた。

 ひじとひざくらいまでだったのが、肩やふとももの方まで上がってきて、ますます体に力が入らなくなる。


「『止まりなさい!』」


 シアンとノクトの強い声がして、氷がちょっとだけ止まる。

 でも、ほんとうにちょっとだけだった。

 二回ぐらい息をしている間にまた大きくなり始める。


「『止まりなさいって言っているのに!』」


 またシアンとノクトが力を使ってくれるけど、すぐに大きくなるのは変わらない。

 あっという間に腕も足も氷で固められてしまった。

 つめたい……。


「『どうして!』」

「知れているだろう。こちらは精霊そのもので、そちらは分御霊。質は同じとしても格が違うというだけの事」


 シアンを見るアメジスの目はつめたい。

 まわりの氷よりもずっと、ずっと。


「使い魔も術者もこちらが上では勝負にもならん。多少、ダンジョンで力を得たところで所詮は『泥水』か」

『「違うわ。シアンの資質は『停止』。ただ形を留めるだけのあなたの『固定』より上よ。足りていないのは、あたしだけ……」』

「『違います、ノクト。わたしたちが足りていないんです』」


 むっ。

 今のはやな感じだ。

 シアンにいじわるを言っている。

 ノクトもすごい悔しそうな感じだし、ますますアメジスはダメな子だ。


 僕が見ているのに気づいたアメジスは鼻をならして、僕に手を向けてきた。


「ともあれ、既に勝負は決した。そこの男が持つセフィラ、もらい受けるとしようか」


 氷が背中まで広がってきた。

 ドラゴンの翼までこおらせようとしてくる。

 アメジスは僕のセフィラがほしいみたいだ。


 別にセフィラはなくてもいいけど、アメジスがやな感じだからやらせたくない。


「があああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 ほえる。

 けど、声が出ただけ。

 そこに生命力も魔力ものってない。

 ダメか。


「無駄な抵抗は見苦しいのう」

「『やらせませんよ!』」


 シアンがアメジスに手を向ける。

 いろんな物を止める力がアメジスを包むけど、止まるのはほんの少しだけ。

 たいくつそうにシアンを見る。


「無能は無様を繰り返す。黙って断罪の時を待っておればよいものを」

「『……レオンのセフィラまで手に入れて、何をするつもりですか。支配するとかどうとか言っていましたが』」


 手を突き出して、アメジスを止めようとしながらシアンが聞く。

 アメジスは僕を見て、シアンを見て、鼻をならした。


「まあよい。時間稼ぎに付き合ってやろう。目的など知れた事。精霊セルシウスに、セフィラ、あとはデミセフィラと言ったか。それらを全て手中にし、我らブリューナクが帝国を、いや世界を支配するのだ」


 アメジスはいろいろと知っている。

 ギルマス――『均衡』の英雄から聞いたのかな。


 すごいまじめな顔で言うアメジスに、シアンとノクトがあきれてため息をつく。


「『世界征服なんて愚かな……。元とはいえ血縁なのが恥ずかしいですよ』」

「不可能だと言うか? 精霊にセフィラにデミセフィラ。これだけあれば軍も冒険者もモンスターでさえも相手にならんぞ」


 精霊の力はすごい。

 セルシウスはよく知らないけど、ノクトがいろいろとできるって知っている。

 セフィラもすごい。

 生命力と魔力をいっぱい使えるようになる。

 デミセフィラもすごい。

 もう英雄じゃない『峻厳』さんが戦えるようになっていた。


 それが集まったらすごいんだろうなあ、って僕も思う。

 でも、シアンとノクトがあきれたのはそういう事じゃないんじゃないかなあ?

 それに気づかないままアメジスは話し続ける。

 とても楽しそうに。


「愚かしい帝室に仕えるのも、無能な貴族どもと同格と思われるのもこれまでだ。精霊に選ばれし、我らブリューナクが世界を支配し、正しく導く。そうすれば、この世界はより高みへと上がれるのだ」


 なにが楽しいのかぜんぜんわからない。

 むずかしい言葉はよくわからなかったけど、支配とか導くとか、それがアメジスはいいんだろうか?

 僕はいろんな人と仲良くできる方がずっといいと思うけど。


「だから、それが愚かだと言っているんです。可不可の問題ではなく、世界を手に入れて幸福になれるなんて本気で信じているんですか? 支配欲に溺れて先が見えていないとしか思えません」

『あなたたちは道を踏み外してはいても、度は弁えていると思っていたけど、どこで箍を壊したのかしらね』


 シアンとノクトの声がバラバラに聞こえる。

 見ると、いつの間にか猫っぽいのをやめちゃっていた。

 ざんねん。

 あれ、かわいいのになあ……。


 ひとりと一匹のアメジスを見る目はとても悲しそうだ。

 見られたアメジスはふゆかいそうに鼻をならした。


「弱者の遠吠えか。すぐにそちらも終わらせてやる。こいつらを相手にして待っておれ」


 アメジスが手を持ち上げると氷の像たちが立ち上がる。

 僕がいっぱいこわしたから数は少ないけど、シアンとノクトが戦うのは大変そうな数だ。


 こまった。

 シアンとノクトを助けたいけど動けない。

 氷はどんどん大きくなっちゃうから、このままだと氷で閉じ込められちゃいそうだし。

 それはとてもつめたくて、さむそうだ。


「あとは、ドラゴンになれば……」


 やだけど。

 ドラゴンにもどるとダメっぽいけど。

 街もメチャクチャにしちゃいそうだけど。

 とても、とても、ダメで、本当にダメで、ダメすぎるけど。


 でも、あれなら氷もこわせそうな気がする。


 うーん。

 って考えている間に背中も氷でいっぱいだ。

 翼もこおっちゃって、うまく動かない。


「むう」

「観念したかのう。それがいい。そのまま氷の中で永劫に眠れ」


 やだよ。

 カンネンっていうのはよくわからないけど、せっかく人間になって目を覚ましたんだし、眠っちゃうなんてやだ。

 なにより、シアンたちがやられるなんてぜったいにやだ。


 だから、僕は息を吸う。

 マナを集めて、マナを集めて、マナを集めて、やっぱり生命力や魔力にはできないけど、それでも集めて……。

 シアンとノクトを助けないとっていう気持ちを爆発させようとした。

 その時だった。


「レオン、いきますよ!」


 シアンの声がした。

 氷の像たちがジャマで見えないけど、いつもの笑顔が見えるみたいだ。

 声といっしょにブワっ、ザバアアアアアって音がする。


 音の方を見るといっぱいの水が飛び散ったところだった。


「あ、シアンの魔導の……」


 さっき使っていた水の柱。

 そういえば、そのままグルグル回っていたんだっけ。

 どうやらシアンはその水を散らしたらしい。

 回っていた水は勢いのまま飛んで、まるで右から左に落ちる滝みたいに広場中を水だらけにした。


「ぬぷっ!? 小癪な真似を!」


 アメジスもこれは考えていなかったみたいで、横から水をあびて転びそうになっている。

 そのせいで氷の像も止まったり、ころんだりしていた。


 広場は水が広がって、まるで滝の下のようになっている。

 うっすらと白いのが広がって、ふつうの人だと周りが見えないんじゃないかな?


「泥水が、小癪な真似を!」


 アメジスがどなっている。

 それからあちこちに氷の矢を撃つけど、ぜんぜんちがうところに飛んでいった。

 僕たちがどこにいるかわからないみたいだ。


「レオン、一時撤退です」

『屋敷に戻ってトントロとピートロと合流するわよ』


 その間にシアンとノクトがやってきた。

 けど、僕は氷のせいで動けない。

 シアンが魔導を使ってはがそうとしてくれるけど、氷はビクともしなかった。


「ただの氷じゃないですね」

『アメジスの『固定』を凝縮しているのね。それも魂魄に限定して。これじゃあ、マナを転換できないわ』


 じっと僕を見るノクトが教えてくれた。

 そっか。

 だから、生命力と魔力を作れないんだね。


「なら、その『固定』をわたしの『停止』で止めてしまえば」

『出力不足よ。それはさっき見せつけられたでしょう?』

「やるしかありません。これ以上、レオンの足手纏いになるなんて絶対に嫌です」


 シアンの目はちょっとゆれている。

 くやしそうな、悲しそうな感じ。


 それ、やだなあ。

 足手まといなんてない。

 ただ、僕がシアンたちといっしょにいたいだけなんだから。


「あ、白いのがなくなってきた」


 アメジスが撃つ氷の矢も増えている。

 さっきからこっちの方にも飛んできて、ちょっとあぶない。

 あんなのがシアンたちに当たったらたいへんじゃないか。


『時間がないわよ』

「ええ。一度で決めてみせます――」


 ノクトがシアンの腕の中に飛び込んで、また猫っぽくなろうとした時。


「おい。楽しそうな宴じゃないか。それ、オレも入れてくれよ」


 知っている声が上から落ちてきた。


 そして、赤が来る。


 赤い、赤い、赤い、まっかな炎が降って。

 白い、白い、白い、まっしろな氷を溶かして。


「シアン、しゃがんで」

「レオン?」

『いいから、しゃがみなさい!』


 僕が言うのといっしょに、爆発が広場で起きる。

 あついのと冷たいのがまざってできたやつだ。

 すごい風が僕の顔をたたいて、ふせるシアンとノクトを吹き飛ばそうとする。

 アメジスは……氷の壁でふせいだみたいだ。


「い、今のは?」

『どうして、こんな時にこいつが……』


 爆発がなくなった後、シアンとノクトがうめいている。

 ノクトは何が起きたのか、ううん、何が来たのかわかったんだね。


 僕もわかっている。

 さっきの声も、今の炎の魔力も、魂魄の感じも知っているから。


「こいよ。【拒絶】・【残酷】・【貪欲】」


 知っている声が、知っている言葉をとなえる。


 ブワッと広がった白いもやもやを切り裂くみたいに、赤い火の粉が広場をうめていった。

 そんな赤のまんなかにいるのは、炎よりも赤い女の人。


 赤い服。

 赤い唇。

 赤い爪。

 赤い瞳。

 赤い魔力。


「『峻厳』さん?」

「ああ、会いに来たぜ。愛しいドラゴン」


 ニイッて笑って、赤い元英雄――『峻厳』さんが僕を見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ