150 ドラゴンさん、がんばる
150
いっぱいの氷像。
本当にいっぱいだ。
数えきれない。
うん。僕が数が苦手だからじゃないよ?
ほんとうのほんとうにいっぱいだからなんだ。
しかたない。
ゆっくりと近づいてくるのを見ながら、どうしようかなって考えているとノクトがさけんだ。
『レオン、あいつらを近づけさせないで! 武器には触れないようになさい! 何か仕掛けているかもしれないわ!』
後ろをチラッと見るともうシアンが魔導の準備をしている。
話している時から魔力を集めていたから、あんまり時間はかからない、かな?
とにかく、わかりやすいのはいい。
あれを近づけない。
それならできる。
「うん」
僕はドラゴンシャフトをクルリって回して、一番近くの氷像につっこむ。
近くの氷像たちが持っているのは剣。
僕の魔力剣よりずっと小さい。
だから、こっちが届いても、向こうは届かない。
「えいっ!」
前の方にいたのを斬る。
まとめて、ええっと、五つぐらい?
さっきの氷の壁みたいに壊せないかもなんて思ったけど、だいじょうぶだった。
氷像は斬れて、倒れて、地面にころがる。
斬れる。
なら、もっと斬ろう。
「ててててててい!」
魔力剣を振る。
右に左に上に下に。
ガルズのおじさんに教えてもらったように速く、強く、でも、振り回すだけにならないように気を付けて。
そうして、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って――。
いきなり氷の槍が突かれてきた。
顔に向かってきている。
「わっ?」
体を引いてかわす。
当たっても痛くないと思うけど、なんとなーくだけど、やな感じがするから。
槍は一本じゃない。
ええっと、十本ぐらい? ある。
上にも右にも左にも来ている。
だから、前に出ていた分をそのまま後ろに跳んでかわす。
「槍の人だ」
下がったらわかった。
一番前の剣の氷像の後ろにながい槍を持った氷像がいて、そいつらが槍を突いてきたんだなあ。
槍は僕の魔力剣よりも長い。
だから、こっちの剣は届かないけど、向こうは届く。
ずるい。
「なら、僕は……」
トントロの作ってくれたドラゴンシャフトはすごい。
魔力を流す場所をかえたら、いろんな武器になるんだ。
剣だったり、槍だったり、斧だったり、弓だったり。
この中だと、槍よりも弓の方が遠くに届くけど……。
僕はチラってまわりを見る。
ここは街の中。
がんじょうなダンジョンとちがう。
僕が矢を撃ったら……うん。
ちょっとたいへんかも?
じゃあ、これにしよう。
「槍だ」
ドラゴンシャフトの持ち方を変えると、魔力の剣が魔力の槍になった。
さきっちょのところから、細くて長い魔力の刃が出てくる。
それは剣よりもながくのびる。
たぶん、あっちの槍よりもながい。
ながい、んだけど……あれ? 思っていたのよりながくなるぞ?
「あれ?」
出てきた槍のさきっちょは、ながかった。
ドラゴンシャフトが五つぐらいつながったらこうなるのかな?
前に槍にした時はもっとみじかかったんだけど……ま、いっか。
これなら氷像の槍よりながい。
「てい!」
槍をふる。
一番前にいたのと、その後ろにいた氷像をまとめてこわす。
今度はさっきよりもたくさんだ。
ええっと、十よりもけっこう多い。
「あ」
けど、しっぱい。
槍の刃は剣よりも斬れないみたい。
氷像をこわす時、ちょっと重くなる。
そのせいで槍がゆれて、そのさきっちょが地面にぶつかってしまった。
こおった地面が爆発したみたいにはじけちゃった。
ながくて、使うのがむずかしい。
剣よりも気をつけないと、街をこわしちゃいそう。
「でも、おぼえた」
剣とはちがうけど、ぜんぜんちがうわけじゃない。
にてるところもいっぱいある。
なら、ガルズのおじさんに教えてもらったのが使える。
だから、そうした。
斬るのがダメなら、突けばいい。
氷像もそうしているし、きっとそれがせいかい。
「てててててててててててててててていっ!」
ながい槍。
そのさきっちょの部分で突く。
突いて、もどして、突いて、もどして、突いて、もどして、突いて、もどして……やっているうちにわかってきたぞ。
突き方。
体の動かし方。
突くといい所。
だんだん、早くなる。
いい感じになる。
うん。とてもいい。
今度、ガルズのおじさんに見てもらおう。
きっとほめてくれるはずだ!
『レオン、上!』
「え――わわっ!」
ノクトの声できづいた。
上から何かが飛んできている。
これは……氷の矢?
あ、槍の人の後ろに弓の人がいる!
氷像はそんなにこわくないけど、持っている武器はちょっとやな感じがする。
あの、矢に当たったらいけない。
「んー!」
上なら槍をふっても街をこわさないでいいから、魔力の槍で矢を落とすけど……多いよ!
それに、これだと後ろのシアンにも当たっちゃう!
「がああああああああああああああああああああっ!」
声に生命力と魔力をのせる。
氷の矢は止まって、どんどん落ちていくけど、すぐに新しい矢が飛んで来ちゃう。
それも声で落とすんだけど、その間に剣と槍の氷像が近づいてきた。
「があああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
もう一回、大きな声で矢を止めて、近くの氷像も止める。
……あ。
ちかくの家が僕の声でミシミシってなっちゃった。
おわったらあやまりにいこう。
けど、声はすぐに遠くにいっちゃうから、あんまり止められない。
すぐに氷像は近づいてくるだろうし、矢だって飛んでくる。
だから、それより先に弓の人を倒すんだ。
「うん。うまくやればだいじょうぶ」
ドラゴンシャフトを槍から弓に変えて、魔力の矢をつくる。
いつもより時間はないけど、いつもよりもっともっと気をつけて……そう。赤い湖の部屋でやった時みたいにすればいい。
そのためには……。
「んっ!」
翼を広げる。
ドラゴンの翼を。
それだけじゃない。
いっしょにセフィラの剣を六本、広げる。
よし。
さっきよりもずっと生命力と魔力が増えたし、うまく使える感じだ。
前にやった時よりももっと。
魔力の矢が白くなって、白くなって、色がなくなっていって、氷よりも色のない、ガラスの矢ができあがる。
魔闘法――竜人撃:結凍竜『時忘れの針』
だから、撃つ。
魔力の矢はさいしょ一本だけだけど、飛んでいる間にどんどんと分かれて、増えて、広がっていった。
氷像の中をスイスイと泳ぐ魚みたいに飛んでいく。
うん。前の方の剣とか槍の氷像はいい。
近づいてこわせるから。
ねらったのは弓の人だけ。
そんな僕の考えたのを矢はちゃんとやってくれた。
しずかに矢が当たっていく。
弓を持った氷像に。
ひとつも逃がさないよ。
ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、矢が当たって、止まっていった。
「できた」
『レオン、今度は横よ!』
僕がうんとうなずいていると、ノクトの声がまた飛んできたのだった。