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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第四章 ドラゴンをやめるドラゴン
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145 ドラゴンさん、ゆくえをたずねる

 145


「迷惑かけてごめんねー?」


 倒れたマリアだけど、僕とトントロではこんだらすぐに起きた。

 まだ青い顔をしているけど、生命力はちゃんとしているからへいきなのかな?

 ちょっとしんぱいだ。


 マリアはピートロが持ってきてくれた水をこくこくと飲むと、深く息をはきだした。


「いきなりー、精神攻撃を受けるとは思わなかったわー」

「精神攻撃?」


 けっこう強いマリアがあんなに苦しんだんだから、すごい攻撃なのかも。

 教えてもらいたいなあって思っていたけど、先にため息をついたノクトが話しかけた。

 テーブルの上にちょこんと座って、マリアを見上げている。


『あなたが勝手に聞いて、勝手に倒れただけでしょうに』

「年下の女の子に先を越されるのってー、結構クルんですよー?」


 よくわからない話だ。

 やっぱり、ちゃんと教えてもらおうかな?


「どうして私にはいい人ができないのかなー」

『案外、その猫かぶりをやめたらできるんじゃないかしら?』


 マリア、猫なの?

 猫なノクトが、マリアを猫だと言う。

 とてもむずかしい話みたいだ。

 僕にはまだ早そう。


 だから、おとなしく話を聞いておくことにした。

 そうしたら、僕のとなりに座ったシアンが話しかけた。


「それで、マリアさん。昨日の今日でどうしましたか?」


 昨日、会った時はしばらくかくれるって言っていたっけ。

 恋人を探しに行くって。

 それがすぐに会いに来たのは……。


「もしかして、恋人見つかったの?」

「ぐふぅ……」


 聞いたらマリアがのけぞった。

 そのままソファーの後ろに倒れてしまいそうだったけど、グッと前に体をもどしてくる。

 そんなマリアはにっこりと笑っているけど、なんでか泣いているように見えた。

 どうしたんだろう?


「レオン君ー、無邪気な質問は時に人を殺しかねないのよー」


 やっぱりよくわからない。

 大人なマリアはむずかしいなあ。

 首をかたむけていると、ノクトとマリアがいっしょにため息をついた。


『レオンの事は流しなさいな。話が進まないわ』

「そうですねー。えっとね、今日来たのはブリューナク家の事を話しに来たのー」


 そう言ってシアンの方を見るマリア。

 シアンはなんでもないみたいな顔をしているけど、きっと心の中はぐるぐるしていると思う。

 僕はそんなシアンの手をにぎりしめた。


「シアン、へいき?」

「レオン、ありがとうございます。ええ、わたしは大丈夫ですよ」


 この前はだいじょうぶって言っていたけど、だいじょうぶじゃなかった。

 でも、今のシアンは本当にだいじょうぶそう。

 いやな気持ちはあっても、それに負けていない感じ。


「愛って偉大ねー」

『話の腰を折らないの。それで、何があったのかしら?』


 あっちの方を見ていたマリアだけど、ノクトに言われて僕たちを見つめなおした。

 まじめな顔だ。


「ブリューナク家の私兵がダンジョンに入ったわー。Aランクパーティーの『大鷲』が案内についてねー」


 ええっと、Aランクの『大鷲』……って、ああ。

 この前、ギルドで会った人たちの一人だ。

 たしか、おじさんの冒険者。


『他と比べて癖の強くない、バランスのいい『大鷲』は適任でしょうね。でも、それは予想できた話よ』


 そう言ってノクトはマリアを見る。

 まるで話の続きを待つみたいだ。

 マリアは一回うなずいて続けた。


「はいー。そうなんですけどー、その私兵たちに当主様たちはついていってないんですよー」


 当主様。

 それってアメジスとシルバーだよね。


「それも……別におかしくはありませんよね?」

『大貴族の当主が危険なダンジョンに踏み込むはずないわ』

「あれ? アルトは?」


 アルト、ダンジョンに入っていたよ?


『アルトの方が例外よ』

「普通の貴族は部下に命じるだけですからね。もちろん、ブリューナク家もです」


 シアンとノクトがふしぎそうな顔をしている。

 マリアが何を言いたいかわからないみたいで考えている。


「あの人たち、つよいっすか?」

「お兄ちゃん、落ちちゃうよ!」


 ソファーの後ろから体を乗り出してトントロが聞く。

 そのまま前に落ちそうになるのをピートロがズボンを引っ張っていた。

 それに答えたのはシアンだ。


「魔導使いとしては優秀ですよ。シルバーの方はともかく、アメジスは今のわたしよりも上ですね。認めるのは悔しいですけど」

『氷の魔導なら帝国一よ。あたしの契約者というのは伊達ではないわ』

「アネゴよりっすか!?」

「信じられません……」


 シアンよりすごい魔導使い。

 なら、ダンジョンに入ってもだいじょうぶかも。

 そう考えたけど、やっぱりシアンとノクトは首を振る。


「それでもダンジョンでは何が起こるかわかりません。特に今のダンジョンは危険人物が潜伏していますし。その情報も提供していますよね?」

「もちろんよー。内緒にしていてー、本当に遭遇しちゃったら色々と大変だからー」


 あ、そうだった。

 ダンジョンのどこかには『峻厳』さんがいる。

 あの人に会ったら、僕以外の人は勝てないと思う。


『それに真実看破の力は情報収集に適しているわ。役割分担を考えれば当主たちがダンジョンより街中を選ぶのは当然でしょう』


 そう言って、ノクトがまたマリアを見る。


「だけどー、当主様たちー、街にもいないのよー」


 アメジスとシルバーがダンジョンにも、街にもいない。

 じゃあ、どこにいるの?


「あ、帰ったんじゃないかな」

「いえ、さすがにそれは……」

『わざわざ当主自ら遥々やって来て、あれだけ大仰にアピールまでしておきながら、何も成果もないまま一日で帰っていたら驚きだわ』


 ちがうみたいだ。

 ざんねん。


「エルグラド家に宿を借りているから後を追えてなかっただけでは?」

「ううんー、エルグラド家にいたならわかるのよー」

『領主の内情がわかるって断言するなんて、何をしているんだか……』

「うふふー、教えませんよー?」

『聞きたくないわ。聞いたら余計な面倒に巻き込まれそうだもの』


 じっとりした目でマリアを見るノクト。

 マリアは変わらない様子で笑っているだけだ。


 そんな間、シアンはぶつぶつとつぶやいている。


「冒険者ギルドの目の届かない場所。このエルグラドでそんな場所はあるでしょうか? ダンジョンなら必ず冒険者の目がありますし……。街中も同じですね。そうすると……」


 シアンがむずかしい顔でマリアを見る。


「あの、もしかして、ギルマスが関わっているんじゃありませんか?」

「やっぱりー、シアンさんもそう思うよねー」


 言われるってわかっていたみたいにマリアがうなずいた。


 ギルマス。

 ギルドで一番えらい人。

 きれいだけど、よくわからなくて、何度会っても気持ち悪いって思ってしまう。


 僕が思い出している間にマリアは一回息を吸って、吐いて、それからこまった顔で話を続けた。


「あのねー。そのギルマスなんだけどー、昨日の夜からどこにもいないのー」


 ギルマスもいない?


 なんだか、とてもいやな感じがした。

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