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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第四章 ドラゴンをやめるドラゴン
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138 ドラゴンさん、合流する

 138


 新しい部屋に入って、シアンがつぶやいた。


「これはまた……」


 いつもの暗い道を通って入った部屋。

 そこはまっしろだった。


「白いっす!」

「見た事のある景色です……」


 トントロとピートロがキョロキョロとしながら、ふしぎそうにしている。


 二匹がそう思うのはへんじゃないと思う。

 新しい部屋の地面はぜんぶ、まっしろな粉でいっぱいだったから。

 雪がつもっているように見えた。


「わたくしたち、もしかして雪の部屋に戻ってしまいましたか?」


 うん。雪の部屋にちょっとにてるよね。

 でも、もどってない。

 ここは初めての部屋だ。


 まっしろなのはふたつ前の雪の部屋も同じだけど、こっちは冷たくない。

 それに雪みたいに上からふらないし、さわってもサラサラしているだけでとけたりもしなかった。


『ガルズの話では逆行する道もあるそうだけど、これは違うわね』


 シアンの腕の中から下りたノクトが言う。

 前足についた粉をチロッとなめて、うなずいた。


『塩ね』

「塩、ですか。塩の平原なんてあるんですねえ」


 ノクトみたいに粉――塩をなめるシアン。


「これ、割と珍しいお塩じゃありませんか? 海の塩とも陸の塩とも違う……中間ぐらいの塩辛さですし、コクとかも同じですね」

「アネゴ様。ちょっと持って帰ってしまってもいいですか?」

『はいはい。影にしまってあげるからまずは警戒なさいな』


 料理をするシアンとピートロは塩が気になるみたいだ。

 ため息をつきながら、ノクトが影にまわりの塩をしまっていく。


「それで、ノクト。辺りにモンスターは?」

『いないわね。ちょっと不自然なぐらいに』


 ノクトが猫耳を動かしながら目を細くする。

 うん。近くにいないね。

 僕がしっかり見ないといけないぐらい遠くにしかいない。


『そういう事もあるのでしょうけど……』

「あ、ハンスだ」


 ハンスがいた。

 近くじゃないけど……向こうの方にいるのがわかる。

 どうしてこんな所にいるんだろう?

 戻ってこないのかな?


 僕が見つめる先をノクトが見て、しばらく猫耳をぴこぴこさせていたけど、首を横に振った。


『あたしには感じられないわね』

「うん。なんだかかくれている感じ?」

「ダンジョンですからね。普通なら気配を悟られないようにするでしょうけど。モンスターがいないのと関係ありますか?」


 あるかも。

 ハンスの近くにモンスターがいっぱいいる。

 けど、あれは戦ってない。

 ううん。終わった、のかな?


「ハンス。モンスターをねかせたみたい」

「寝かせた、ですか? 倒したではなく?」

「うん」


 ハンスの近くにいるモンスターは死んでない。

 生命力も魔力もそのままだ。

 動かないけど……これはねちゃってるんだね。


「もしかして、寝ているというのは気絶させている、という事でしょうか?」

「中層のモンスターを倒さずに気絶させるなんて。しかも、ソロでですよね? そんな事ができるんですか?」

「ハンスのオジキ、すごいっす!」


 そうだね。

 倒して死なせないなんて僕はできないかも。


『問題は、どうしてそんな事をしているか、よ』


 ノクトがハンスのいる方をにらみながらつぶやく。


「この辺りにモンスターがいなくて、ハンスさんのいる場所に集まっているんですよね? それが目的かもしれません」

「モンスターを集める事が、ですか?」

『それ、擦り付けって事かしら?』


 なすりつけ……。

 なんだっけ?


「なすりつけってなんっすか?」


 トントロが聞いてくれた。


「わざとかどうかの違いはありますが、引きつけたモンスターを近くにいる他の人に押しつける行為です」

「へえーっす」


 そういえば、クモのモンスターと戦った時がそんな感じだった気がする。


『レオン。あなたも一度経験しているでしょう? 二回目のダンジョンで。その様子だと忘れていたわね?』

「うん。そうだった」


 ノクトにばれてた。

 トントロが聞いてくれてよかったって思ってたのも。


「冒険者の方にはそういう事をなさる方がいるんですね。酷いです」

「ハンスのオジキはそんな事、しないっす!」


 僕もそう思う。

 ここから見るハンスは遠くて見えづらいけど、悪い感じがしないから。


「その辺りは合流してから聞いてみましょう。ともあれ、近くにモンスターがいないのは好都合ですね。このまま野営の準備を始めましょうか」


 そうだった。

 お腹がへってきたから、早くご飯食べないと。


『……考えていても仕方ないわね。じゃあ、昨日と同じようにするわよ』


 ノクトもうなずいて、その影からいろんな道具を出してくれた。

 昨日も使ったテントとかだ。

 もう、昨日やったから作り方はわかっている。

 さっきの湖の部屋とちがって、ここは地面がお塩なだけ。

 雪の部屋よりもかんたんにテントの準備ができるし、シアンたちも料理を作りやすいみたいだ。


 そうやって野営の準備が終わりそうになったら……あ。


「ハンスだ」


 一日ぶりに帰ってきたみたいだ。

 塩の平原をフラフラと歩いてやってきた。


「よー。思ったより早かったなー」

「おかえりー」


 手を振ってくれたから僕も振る。

 そうしていたら、ノクトが静かに近づいてきてハンスをにらんだ。


『散歩にしては随分と遠くまで行っていたみたいね』

「まーな。そっちのペースが早かったからなー。戻ってる余裕がなくてさー」

「……さっきも言っていましたね。思ったより早かった、と。それ、どういう意味なんですか?」


 料理をピートロにまかせて、シアンもやってきた。

 ちょっと警戒している感じだ。

 ハンスはそれに気づいているみたいだけど、気づいてないみたいにうなずいた。


「おー。お前ら、モンスター倒して強くなるんだろ? だから、先に行って集めておいたんだよ」


 そういって、ハンスははっはっはって笑ったのだった。

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