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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第四章 ドラゴンをやめるドラゴン
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125 ドラゴンさん、最強と会う

 125


「全員準備はいいですね?」


 シアンが僕たちを見回してくるのに、うなずいた。


 三日間。

 僕たちは新しいお家でダンジョンに入る用意をした。


 僕は弓の練習。

 シアンとノクトはお買い物。

 トントロは魔導装備。

 ピートロは霊薬。

 みんながみんな、できる事をやった。


 そうして、僕たちはダンジョン上層の隠れ家にやってきた。


「忘れ物はありませんか?」

『ええ。物資は余裕を持って用意してあるわ』

「霊薬もお任せください! いつでもお出しできます!」


 ノクトがいつもどおりに、ピートロが何度もうなずきながら答える。

 シアンは次にトントロを見た。


「装備は万全ですか?」

「うっす! 自信作ばかりっす!」


 トントロが胸をはる。

 この三日間でトントロはたくさんの魔導装備を作ってくれた。


 僕たち全員の服。

 これが全部そうだ。

 ふつうの服に見えるかもしれないけど、かんたんにやぶけなくなっている。


「買い物で見たおかげっす!」

「そうだね、お兄ちゃん。わたくしも色々な素材が見られて、勉強になりました」


 トールマンからもらった魔導具。

 あれを使ってトントロとピートロはいろんなお店に行った。

 トントロは魔導装備のお店。

 ピートロは霊薬のお店。

 おじさんたちといっしょに回って、たくさん教えてもらったらしい。


 帰ってきてからすごいやる気になっていた。

 僕のだけじゃなくて、みんなの分まで作っちゃうなんてすごいなあ。


「わたしも魔導装備デビューですか。感慨深いですね。トントロ、ありがとうございます」

『貧弱なシアンにこそ必要だものね』


 シアンは新しい服を着て、ごきげんだ。

 黒いワンピースは前のとそっくりだけど、なんだかヒラヒラ、フリフリしたのがついているのがちがう。

 その上に着た黒いローブもだ。


「それはシアンのアネゴのために作ったっす! 軽くて強いっす! でも、オイラのは重くてもっとかたいっす!」


 トントロが動くたびにガシャンガシャンと音が鳴る。


「トントロはもう魔導装備の職人として生きていけますね」

『ええ。冒険者よりも高給取りになりそうね』


 トントロは鎧を着ている。

 体のほとんどをかくしてしまう感じのだ。

 生命力の強いトントロの体は強いけど、それでもこの前みたいになったら大変だ。

 だから、みんなで考えて鎧を着るって決めた。


「お兄ちゃんはすごいね」

「ピートロもすごいっす! 新しいお薬、いっぱいっす!」


 ピートロも魔導装備のローブを着ている。

 こっちはピンク色だけど、シアンと同じ感じらしい。


 そんなピートロはバッグを下げていて、その中には霊薬がいっぱいだ。

 どんなのがあるのか教えてくれた。

 えっと、体力を回復させるのとか、魔力が回復するのを助けてくれるのとか、毒で苦しいのをなおしてくれるのとか。

 そんなのだ。


 シアンは僕たちをもう一回見回して、うんうんと何度もうなずく。


「装備。霊薬。そして、技能。全てが前回の比ではないですね」

『ええ。最早、装備だけならAランク冒険者を超えているんじゃないかしら?』

「ですね。ですが、前回の反省を無駄にしないためにはこれぐらい備えておくべきです」


 この前のダンジョン。

 雪の部屋で『峻厳』さんに会ったせいでたいへんだった。

 僕はドラゴンに戻りすぎちゃったし、トントロは死んじゃったし、シアンもピートロもヘロヘロになっちゃったし。

 だから、今日は失敗しないようにしたんだ。


 シアンもトントロもピートロも。

 それからノクトだってやる気でいっぱいだ。


 なんだか僕もワクワクしてきたよ!

 僕はドラゴンシャフトを弓の形にする。


「僕も弓でがんばるよ!」

『レオン。あなたは程々になさい。あなたが張り切ったら一撃で終わっちゃうから』


 がんばっちゃダメらしい。

 えー。

 しょんぼりだ。


「あー、ほら。レオンは切り札ですからね! わたしたちがピンチになったらフォローしてください! 頼りにしてますよ!」


 頼りにしている。

 シアンが僕を頼りにしている。

 うん。なんだか元気が戻ってきたぞ。


「わかった! ピンチになったら助けるね!」

「え、ええ。お願いします。ただ、その時はノクトの言う通りにお願いしますね?」


 シアンはノクトを持ち上げて、僕の頭の上にのせてくる、

 頭の上にのっかったノクトがため息をついた。


『責任を押し付けられた気分よ』

「すみませんが、レオンの一撃は強力すぎます。使いどころを間違えられません」


 ノクトはもう一度ため息。

 だけど、ゆっくりとしっぽを揺らしながらうなずいた。


『わかっているわ。どの道、この位置は好都合よ。監視するのにね。レオン、わかっているでしょうね?』


 最後は僕にだけ聞こえるようにノクトが言う。


 わかっている?

 えっと、なんだっけ?

 僕がわかっていないとダメな事……あ!


「……うん。わかってるよ。前みたいにはできないんだよね?」

『不安になる間があったわね』


 あ、忘れそうだったのバレてる。

 ノクトが肉球で僕のおでこをたたいてきて、くすぐったい。


『まったく。まあ、いいわ。さあ、行きましょうか?』

「ええ。今日は雪の部屋を攻略するつもりで行きます。いいですね?」

「うっす! がんばるっす!」

「皆様の足を引っ張らないようにいたします!」

「うん! 行こう!」


 そうして、僕たちは隠れ家を出た。

 通り慣れた洞窟を抜けて、上層のボス部屋で水晶岩兵クリスタルゴーレムを倒して、そのまま中層に向かう。


 長い階段の下。

 転移の魔導具の部屋に入ったところで気づいた。


「ん?」


 だれかいる。


 転移の魔導具の向こう。

 あれは山の部屋に続く道。

 ひとり。

 モンスターじゃない。

 人間だ。


『止まりなさい』


 ノクトも気づいたみたいだ。

 そっちの方に猫耳を向けている。


『そこのあなた。隠れているのでないなら、出てきなさい』

「おー。自分に気づいたか。やるなー」


 のんびりした男の人の声。

 ちょっと眠そうな感じ。


 トントロが一番前に立って、シアンとピートロが魔導の用意をする。

 僕は弓を持ったまま、相手をよく見た。


 この人、知ってる。

 あ、ううん。

 よくは知らないけど、見た事がある人だ。


「待ってたぞー、お前ら」


 そう言いながらのんびりと歩いてやってきたのは、背の高い男の人だった。

 短い金色の髪をガシガシとかいて、大きくあくびをしている。


 ごつごつした大きな体。

 ボロボロの服でよくわかる。

 ケガをした跡がいっぱいだ。


 やっぱりそうだ。

 この前、ギルドで寝ていたAランクさん。


「あなたは……最強の冒険者、『覚醒者』のハンス?」

「ん。ま、よろしくなー」


 そう言って、男の人――ハンスはまたあくびをした。

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