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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第四章 ドラゴンをやめるドラゴン
125/179

122 ドラゴンさん、ほしい物をもらう

少し遅れました。

すみません。

 122


「あの、レオン? いいんですか、さっきの」


 ギルドから出てしばらくしたらシアンに聞かれた。

 さっきのってギルマスのお話だよね。


「ダメだった?」

『断るのはいいんじゃないかしら。ギルドには貸しがあるのだし、これぐらいで仲違いする程ではないわ。そもそも、ギルマスからは何も話を聞かされていなかったのだしね』


 頭の上からノクトが言う。

 むずかしい話はわからないけど、いいならいいよね。

 けど、シアンはまだ不安そうに僕の手をにぎっている。


「ですが、レオンとしてはAランクのパーティーに入れたかもしれませんよ? 悔しいですがわたしたちよりあの人たちの方が上です。ダンジョンの奥を目指すなら間違った選択ではありません」


 Aランクの人たち。

 赤鎧さん、青鎧さん、魔女さん、大鷲さん。

 あと、ずっと寝ていた……お寝坊さん。

 ちゃんとお話もできなかったし、一人は起きてもいなかったけど、あの人たちといっしょに冒険する?


 うん。

 たしかにあの人たちは強かった。

 シアンたちよりもきっと強い。

 ダンジョンの下層で冒険しているんだから、かんたんに奥まで行けるようになるとも思う。

 それこそギルマスの言う通り、ダンジョンを攻略だってできちゃうかもしれない。

 でも。


「僕はシアンたちといっしょがいいよ」

「レオン……」


 僕が冒険したいとしたらシアンたちとだ。

 ううん。

 冒険じゃなくても、他の事でも、ぜんぶ。


 それとくらべたら、強いとか弱いとかはどうでもいい。

 それに強いのだって今だけだ。

 きっとシアンたちはAランクさんよりもすぐに強くなるから。


 だから、シアンたちといっしょなのを僕は決める。


「ダメ?」

「ダメなわけないじゃないですか! ええ、レオンは間違ってなんかいません! いえ、その選択を間違いなんかにさせません! まったく、わたしは何を弱気になっていたのか。レオンにとって一番なのはわたしに決まっています!」

『たちよ、たち』

「ええ。わたしたちです! でも、一番はわたしなのです!」


 シアンから不安そうなのがなくなった。

 僕の大好きな笑顔を見せてくると、僕もうれしくなる。


 そうやって歩いていると知っている場所に来た。

 道のはしっこにある大きなテント。

 トールマンのお店だ。


「トールマン?」

「正確にはトールマンに紹介してもらいたい場所がありまして。ちょっと特殊な魔導具を取り扱うお店を……」


 シアンが言っている途中でテントから女の子が出てきた。

 トールマンの妹の天使だ。

 僕たちを見てふしぎそうに首をかたむけている。


「お客さん?」

「うん。僕だよ」

「? ボクさん?」

「ボクさん? レオンだよ」

「レオンさん? ボクさん? レオン・ボクさん?」

「?」

「?」


 あれ?

 天使とはあんまりお話していないけど、会っているよね?

 もうしかして、僕の事を忘れちゃったのかな?

 だとしたら、さびしい……。


「レオン。フード。フードです」

『ミリィ。トールマンはいるかしら?』

「あ、猫さんー」


 フードの下から頭だけ出したノクトが話しかけると、天使が手を伸ばしてくる。

 けど、ノクトはすぐにフードの中にかくれてしまった。

 そういえば、前に抱きしめられてぐったりしちゃったっけ。


「ノクトは照れてしまったみたいですね。ミリィちゃん、わたしとお話しましょう」

「猫さん……あ、じゃあ、お姉ちゃんはシアンちゃん? あれ? メガネ?」

「ええ、シアンですよ。ですが、ちょっと小さい声でお話しましょうね。それで、トールマンさんはいますか?」


 座ったシアンが天使と目を合わせてお話する。

 そっか。

 フードをしているからわからなかったんだ。

 ホッとしているとテントの中からトールマンが出てきた。


「おい、どこのどいつだ。うちの天使と楽しくおしゃべりしやがって。うらやましいじゃねえか、この野郎……」


 あれ?

 なんだか、元気がない。

 言っているのはいつもと同じなのに、声がふんわりしている。

 顔もなんだか力が入っていなかった。

 大きな体はつかれているのか、どこかゆっくりしか動かない。


「トールマン、どうしたの? おなかすいてる?」

「あん? 腹は減ってねえよ。ミリィの作ってくれたベチョベチョサンドイッチを食ったからな……」


 カッコいい感じに笑うトールマン。

 でも、また元気がなくなっちゃった。

 ベチョベチョのサンドイッチはおいしくなかったのかな?


『随分と陰気な事ね』

「あ? こちとらミリィのためとはいえ客の情報を売っちまったんだ。商売人としての誇りがボロボロなんだよ」

『ふうん。それは難儀ね。商人としてはより理のある方につくものでしょうに』

「普通ならな。だが、俺は駆け出し冒険者の見定め人だぞ。それが……あぁ?」


 しょんぼりしたままノクトとお話していたけど、急にトールマンが顔を上げた。

 じっと僕たちを見て、アッておどろいた顔になる。

 今にも大きな声を出しそうになるけど、あわてて口を押さえて、それから周りをキョロキョロと見回す。

 それから大きな体をかがめて、小さな声で話しかけてきた。


「お前ら、無事だったのかよ。あのエルグラド家に目をつけられて、よく逃げ切れたな」

「ええ。どこかの商会から支援もあった事だし、ね」

「そうか。それなら会長に直談判した甲斐があったぜ」


 ノクトとトールマンが小さく笑い合う。

 ちょっとカッコいいなあ。

 それになんだか元気になったみたいだし。


「とにかく、入りな。そのカッコを見るに全て解決したわけじゃねえんだろ?」

「ええ。では、お邪魔します」


 トールマンのテントに入るのは初めてだ。

 テントの中は……箱がいっぱいだ。


 最初に来た時に見せてもらった箱。

 あれと同じようなのがいっぱい置かれている。

 箱には文字が書かれていて、きっと何が入っているかわかるようになっているんだと思う。

 僕の知らない文字もたくさんあって読めないけど。


 その奥のちょっとだけ何も置いてない場所。

 そこだけきれいな布が敷かれていて、トールマンは妹の天使をひざの上にのせて座ると、僕たちにも座るよう言ってきた。


「で、今日は何しに来た? 人目を忍んでまで挨拶に来る程の間柄じゃあねえよな」

『あら、つれないわね』

「ちゃかすな。俺の立場からすると、今のお前らと楽しくおしゃべりとはいかねえんだ」


 まじめな顔だ。

 商人のお仕事をしている時のトールマンの顔だ。


「言っとくが。今ここでエルグラド家の連中が入ってきたなら、俺はお前らを差し出すからな。その辺り、勘違いするなよ。商人は利益と矜持なら利益を取るんだからな」

「先程の様子をみると、その台詞もポーズにしか見えませんが」


 トールマンはムスッとした顔でだまる。

 うんともううんとも言わない。

 そんなトールマンにシアンとノクトは小さく笑った。


『あまり困らせるものじゃないわね』

「ですね。トールマンさん、今日はある物を手に入れるためお店を紹介してほしいんです」


 シアンが話を切り出して、ノクトがフードから頭を出した。

 その影からは銀色のお金が出てくる。


「紹介料に銀貨一枚、か? 貧乏性のお前らが随分剛毅だな。何がほしい?」

「人の姿かたちを惑わす魔導具を二着」


 トールマンがまゆげをぴくっとさせる。

 それにシアンが話を続けた。


「禁制品なのはわかっています。犯罪に利用されやすい魔導具ですから。ですが、ボルケン商会なら伝手があるはずです。トールマンさんに迷惑はかけないように気を付けますから、どうか紹介してもらえませんか?」


 真剣に見つめるシアンに、トールマンはため息をついた。


「認識疎外の魔導具、か。許可もなく所持しているだけで捕まっても文句は言えない代物だ。それを扱っている店を紹介するだけで迷惑だってわかっているよな?」

「それは……すみません。ですが」

「足りねえよ。銀貨一枚じゃな。せめて、倍はもってこい」


 むう。

 トールマンがいじわるを言う。

 でも、トールマンはむずかしい顔をしたままだ。

 それだけで伝わったのか、シアンとノクトがうなずいた。


「ノクト。お願いします」

『わかったわ。リスクを考えれば当然の要求よ。今回は値切りもなしよ。銀貨二枚。これでいいのでしょう?』


 影からもう一枚銀貨が出てくる。

 それをトールマンは拾うと、近くに置いてあった箱に手を伸ばした。


 あんまり大きくない箱だ。

 けど、この箱だけすごいかたそうな箱で、なんだかヒモとか鎖が巻きつけられていて、他の箱とちがう感じがする。

 トールマンがあちこちをさわっていると、ヒモとか鎖が取れて、ようやく開けられる。


「ほらよ。持っていきな」


 トールマンはシアンに中身を押し付けてくる。


 中から出てきたのは……布?

 まっしろな布で、端っこだけが赤い色がついている。

 大きさは僕が手を広げたぐらい。

 すべすべしてさわると気持ちよさそう。


 でも、これってただの布じゃないよね?

 シアンも同じことを思ったみたいで、びっくりした顔をしている。


「あの……これは?」

「お望みの認識疎外の魔導具だよ。それで顔を隠せば見た目も声も相手に印象を残さない代物だ。たまたま、俺が持っているとは運のいい奴らだ。ま、うまく使うんだな」


 あれ?

 これ、シアンがほしいって言ってたやつだよね?

 持っている人を教えてってお願いしたんだよね?

 トールマンがどうして持っているの?


 ポカンとしている僕たちに見られて、トールマンはあっちの方を見ている。


「迷惑料だ。それで今回の件はチャラ。それでどうだ?」

「あの、これを銀貨二枚では……」

『金貨でも足りないでしょうに』

「いいから、黙って受け取っておけつうの! その代わり! 入り用になったらうちを使えよ!? いいな!?」

「お兄ちゃん、お顔まっかっかー」


 首まで赤くしたトールマンは何も言わない。

 シアンとノクトは顔を見合わせて、それからいっしょにプッとふきだした。


「素直じゃない人が多いですねえ」

『だから、それをあなたが言わないの。でも、そうね。あたしたちの周りにはありがたい子が多くて、本当に困るわ』


 よくわからないけど、こまっていないのは僕にもわかる。

 あと、トールマンはもっともっと赤くなってしまっているけど、へいきなのかな?

 ちょっと心配だ。


「商売は終わりだ。ほら、さっさと帰りやがれ」


 トールマンがこっちを見ないまま手を振ってくる。


「ありがとうございます。大切に使わせてもらいますね」

『必ずまた寄らせてもらうわ。その時は損はさせないわよ』

「えっと、また来るね」


 なんだか知らないけど、シアンのお買い物は終わったみたいだ


「おう」

「ばいばーい」


 テントから出ていくと、そんな声が中から聞こえてきた。

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