↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第三章 衣食住を整えるドラゴン
113/179

110 ドラゴンさん、現実を打ち壊す

 110


 トントロを見る。


 体は治っている。

 霊薬と僕の生命力。

 体中のケガを消してくれた。

 何も知らなかったら、本当に寝ているだけでだと思うぐらい。


 でも、起きない。

 息をしていないし、心臓も止まっている。


 どうして?


「魂魄」


 そう。

 魂魄がこわれているから。

 だから、マナから生命力を作れない。

 どんなに生命力と魔力を送っても、すっとどこかに消えてしまう。


 トントロの魂魄はどうなっているの?


 じっと見つめていると、ノクトが僕の手に前足をのせてくる。


『ダメよ。トントロの魂魄はほとんど消えかけているわ。こうなってしまったら、もう手の施しようがないの』


 ノクトが教えてくれる。

 いま、とっても大切な事を教えてくれた。


「ほとんど? じゃあ、ちょっと残っているんだよね?」

『それは、そうでしょうけど……魂魄を癒すなんて不可能よ。それに一度ここまで肉体から乖離したら再定着しないわ。動く死体リビングデッドになるだけ』


 むずかしい言葉だ。

 でも、考える。

 がんばって考える。


「ノクト。それは魂魄を治して、トントロに戻せるなら生き返る、という事ですか?」

『理屈はそうよ。でも、どうやってそれをするの? 肉体と魂魄の繋がりは一度だけ。他に代わる物なんて……この世にはないわ』


 シアンがわかりやすく話してくれた。

 ノクトもそうだって言っている。


 うん。

 やる事はわかった。


 魂魄を治して、トントロの体にしっかりくっつける。


 わかりやすい。


「トントロの魂魄……」


 ノクトはほとんど消えかけているって言っていた。

 でも、それならまだトントロの中にあるんだ。

 それを探す。

 しっかりとよく見て、見つめて、見つけ出す。


 ああ、見えた。


 きれいな赤色の球。

 ヒビだらけで、深い割れ目があって、今にも消えてしまいそうなぐらいにうすくなっているけど、たしかにまだここにある。

 それだけわかれば十分だ。


 マナを集める。

 その全てを魔力に転換する。

 そして、ドラゴンシャフトに注ぎ込んで、トントロの胸に当てる。


 魔力の――ううん。魔法の使い方はもう知っている。

 魔導はむずかしくて僕にはうまく使えなかったけど、『峻厳』さんの使っていた魔法なら僕にだってできそうだった。

 魔力を集めて、いっぱいお願いするんだ。

 しっかりと、どうなってほしいかを思い浮かべて、お願いする。


 魔闘法――竜人撃:始光竜『光宿る魂の揺り籠』


 魂魄を治す。

 想像するのはむずかしくない。

 しっかり見えているから、トントロの魂魄の傷ついた部分が治るように考えればいい。

 きれいな、まんまるの球。

 そうなるように魔力を送り込んだ。


「?」


 なんだろう。

 僕とトントロの魂魄。

 その間にピンと糸みたいなのがつながった感じがする。


『アニキのお役に立つっす』

『ドラゴンシャフト、よろこんでもらえたっす』

『つぎは服を作るっすよ』

『アネゴたちにもおれいするっす』

『ピートロはオイラがいないとダメっすね』

『オイラはアニキの一番のしゃてーっす』

『もっと、もっと、いっぱいアニキと冒険するっす』

『きっとたのしいっす』

『守るっす』

『アニキの大切を、オイラが守るっす』

『アニキがぽかぽかした気持ちになれるように、オイラが』

『オイラが、がんばるっす』


 そんな、声が聞こえた。


 これはトントロの声だ。

 トントロの魂魄に、今もまだ残っている。

 きっと、最後の最後に思った心の声だ。


 ああ。

 うん。

 そうだね。

 やっぱり、僕はまちがえてなんかない。

 トントロが死ぬなんてダメだ。


 ドラゴンシャフト。

 トントロが僕のために作ってくれた魔導装備。

 そこに魔力を流して、魂魄を治していく。

 ヒビが消えて、深い割れ目がくっついて、色もまっかに輝き出した。

 治す力を止めてしまうとすぐにダメになってしまいそうだけど、さっきよりもたしかにトントロを感じられる。


『嘘、でしょう。物質世界の存在が魂魄に干渉するなんて……。でも、魂魄が修復できるなら、後はどうにかして体に繋ぎ止めれば!』


 ノクトが興奮してしっぽを立てている。

 僕はうまくできているみたいだ。

 魂魄の事ならノクトの方がしっかりわかるから安心する。


「レオン、頑張ってください!」

「アニキ様。お兄ちゃんを、お兄ちゃんをどうかお願いします!」


 シアンとピートロにうなずく。

 元気がなかったノクトも前のめりになって考えている。


『問題は繋ぎ止める媒体よ。ただ肉体に入れるだけでは動く死体リビングデッドになってしまうわ』


 媒体?

 つなぎとめる?

 よくわからない。

 でも、体に魂魄をくっつけるのはわかる。

 ただ、くっつけるだけじゃダメみたいだから……どうしよう?


『……ダメね。魂の領域は精霊の領域。それと同格のモノなんて……いえ、考えなさい。レオンが作ってくれた奇跡を無駄になんか――』


 いっぱい考えていたノクトがふと僕を見上げてきた。

 いっぱいに目を開いて、しっぽの毛がぼわってなっている。

 見ているのは僕というか、背中の方?

 後ろには……何もないし、誰もいないよ?


『あなた、それ……セフィラ!? それも六個も!? しかも、え? 物質化!?』

「うん。『峻厳』さんのマネをしてみたらできた」


 なんだか、ぐったりとうなだれてしまったけど、すぐに頭を振るノクト。


『本当に出鱈目ね。でも、その出鱈目の正体が少しわかったわね。セフィラを六個も所持しているなら、生命力や魔力にも説明がつくわ。それにあのイカレ女が元『峻厳』の英雄? 確かにそんな妄言を言っていたけど……なら、あの翼はクリフォトの……いえ、そんなの今はどうでもいいわ。それよりも!』


 ノクトはいろいろと知っているみたいだ。

 あの『峻厳』さんの事とか、この六本の剣の事とか、枯れ枝の翼とか。

 けど、いきおいよく別の事を聞いてくる。


『セフィラなら最上の媒体になりえるわ! あなたの持っているセフィラはなに!? そこに【王国】マルクトはあるの!?』


 ええっと、僕の中にある力の――剣の名前だよね?


「【知恵】・【慈悲】・【勝利】・【理解】・【峻厳】・【栄光】だったかな?」

『さすがに【王国】マルクトまでは持っていないのね。三英雄が分け合ったはずだけど……肉体の消失と一緒に失われたのかしら。あれが一番物質界と繋ぎやすかったのだけど、仕方ないわ。それなら【勝利】ネツァク【栄光】ホドで代用を……』


 うーん。

 【王国】かあ。

 僕の力の部分を剣にしたんだけど……他にもあったかな?


「あ、あった」

『は?』


 体の奥の方にかくれていた。

 使ってない力だから気づかなかったな。

 それに他のとちがって、ちょっとしか形にならないみたいだし。


 とりあえず、それを形にしてみる。


「【王国】」


 呼びかけると、手の中にでてきたのはぽっかりと欠けた部分のある球だった。


『……本物ね。本当に、あなたはもう。いえ、いいわ。レオン、それを半分にできるかしら?』

「うん。たぶん」


 六本の剣からてきとうに一本を取って、そのまま【王国】の球を半分に切る。

 【王国】は最初から分かれていたみたいにかんたんにふたつになった。


『いいわ。それをトントロの胸に当てて、魂魄と一体化させるのよ。シアンとピートロはレオンから魔法を引き継ぎなさい。原理は魔導と一緒よ。力はレオンが流し込むから、制御だけに集中なさい』

「は、はい!」

「やります! やってみせます!」


 シアンとピートロが僕の手に手を重ねた。

 トントロの魂魄を治す力が僕から遠くなる。

 だから、僕は半分になった【王国】の事だけを考えられる。


 魂魄と一体化。


 よくわからないけど、さっきから体と魂魄をくっつけようとしていたんだから、そうすればいいんだと思う。

 トントロの胸に【王国】を当てて、僕の中から取り出したのとは逆を考える。

 形をなくして、ぼんやりとさせて、体の内側に入れていくイメージ。


 それはすうっとトントロを満たしていって、ふわふわしていた魂魄も包み込んで、ゆっくりとひとつになっていく。

 だんだんと体と魂魄が混ざって、もうふたつの区別がつかなくなった。


 いつも見ているとはぜんぜん別の世界。

 これが魂魄のある場所なのかな?

 そこはとてもきれいで、汚くて、でも、とっても大きな流れがあって、見ているだけで心が引きつけられていって……。


『……オン、レオン! 聞きなさい! どこまで深く潜っているの!? 帰ってこれなくなるわよ!』


 ふと、ノクトの声が聞こえてきた。

 顔を上げるとシアンがとても近くから僕を見ていた。

 心配そうな顔をしているけど、どうしたんだろう?


「あ。トントロ……トントロは!?」


 あれだけ見えていたモノが見えなくなっている。

 気がつけば、背中の翼と剣も消えていた。


 僕はあわてて抱き上げていたトントロを見る。


 トントロは眠っていた。


 ゆっくりと、おだやかに……息をして。

 ふれた手から、たしかに心臓の音が聞こえてくる。


『安心なさい。成功よ。反魂の術なんて何が起きるかわかったものじゃないけど……よくやったわね。偉かったわよ、レオン』

「レオンの反応がなくなったのは焦りましたが……無茶しすぎですよ?」

「アニキ様、ありがとうございます! お兄ちゃんをありがとうございます! ありがとうございます!」


 みんなが話しているけど、ちゃんと聞こえているけど、頭の中には入ってこない。

 ただ、僕はトントロの温かさを感じていた。


 トントロが生きている。


 ああ。

 よかった。

 本当に、よかった。


 僕は何度もかみしめて、それからプツリと意識を失うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。