105 ドラゴンさん、もっと戻る
105
爆発が続く。
大きな声で止めたい。
けど、声を出そうとしても出せない。
空気が抜けてしまう。
穴だ。
胸の穴のせいで息がうまくできないんだ。
マナを吸うのもできない。
痛いし、苦しいし、ひどい。
そんな事を思っていると、暗いのがなくなった。
扉から扉に出たんだ。
明かりといっしょに、うるさいのが耳に入ってくる。
しめった感じ。
滝の部屋。
「っと、湿気た場所に出たな」
声が近い。
爆発の向こう。
そこに『峻厳』さんがいた。
とろとろな笑顔で僕を見て、手を伸ばしてくる。
その手が僕の首にまわされて、抱きしめられた。
『峻厳』さんは僕の背中の穴を指でなでながら、耳元でささやいてくる。
「ほら、場所を変えよう」
爆発。
自分をまきこみながら、僕を吹き飛ばしたんだ。
向かう先は滝。
たくさんの水が上から下に流れる中。
そこにぶつかって、のみこまれて、流される。
わけがわからない。
この人は、何がしたいんだろう?
言う事も、やる事も、さっぱりだ。
その間にも僕たちは流されて――いや、落ちていく。
滝が落ちる場所。
霧の出る池みたいなところに。
そして、また暗くなった。
「!?」
「知らなかったか? ここにも扉があったんだよ」
滝の中に扉があった?
ちゃんと見ていたらわかったかもしれないけど、気づかなかった。
シアンの魔導でも水の中まではわからなかったんだ。
そうして、爆発されながらの少しの後。
僕たちは新しい部屋に飛び出す。
明るくなった時。
『峻厳』さんがちょっとだけ周りを見た。
そこをねらって、思い切り翼をふるう。
風がうねって、熱い空気がかきまわされて、僕たちは振り回される。
「おっと、邪険に扱うなよ。淋しいじゃないか」
そんな事を言っているけど、『峻厳』さんはうれしそうだ。
本当はさびしがってなんかない。
僕は知らないふりして離れる。
新しい部屋。
たぶん、山なんだと思う。
岩ばかりで、坂しかなくった。
けど、それより気になるのは熱さ。
なんだか、赤いのがいっぱいあって、火じゃないけど、火っぽいのが地面とかを流れているんだ。
「火山、か。おもしろい」
ここは火山というらしい。
そういえば、山の中にはときどき怒るのがあった。
そんな時、山からこんな燃える土が出てきていたっけ。
なんとなく、『峻厳』さんっぽい。
「さて、ここなら邪魔も入る事はない。存分に愛を確かめ合おう」
ジャマ。
そうだ。
シアンたちがあぶないんだ。
なのに、僕はこんな場所にいて。
戻りたいのに、行かせてくれなくて。
体は痛くて、苦しくて、つらい。
なんで?
なんで、こうなっているの?
なんで、いい感じじゃないの?
いい感じにするには――。
「――――――――――――――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
体を治さないと。
穴をなくさないと。
マナは吸えない。
けど、だいじょうぶ。
息で吸えないなら、他の場所で吸えばいいんだから。
広げた翼。
そこから周りのマナを吸って、そのまま生命力に転換。
いっぱい、たくさん、強くて、がんじょうな感じに、生命力を生み出して、体を変えていく。
「ははっ、もう修復するか。だが、簡単に治させてはつまらないな」
爆発が来るけど、へいき。
もう、途中から穴がなくなったから、声ではね返すんだ。
「まだ、たりない」
そう、足りない。
さっきはドラゴンっぽくなっても負けた。
止められて、穴をあけられた。
だから、もっと、もっと強くしないと。
そのためには翼がいる。
一対じゃマナを吸うのがおそい。
だから、前みたいにしよう。
二対足して、三対六翼を背中に。
ついでに、しっぽもだ。
腰のうしろからにゅるって伸ばす。
それと、腕。
これもドラゴンっぽくしよう。
ほら、こうなったら負けたりなんかしない。
「くくっ、いいな。段々と昔に戻ってきたじゃないか」
また、爆発。
数が増えて、強くなっている。
声だけじゃ止められない。
「があっ!」
それを左腕で吹き飛ばす。
熱いのも、パンってなるのも、吹き飛ばそうとしてくるのも、全部まとめて。
爪で切り裂いた。
その後ろから炎の線。
シアンを貫こうとしたあれだ。
これは翼ではじく。
そしたら、魔力の流れが見えた。
とっても近く。
翼の内側。
「ほら、捕まえたぞ」
声といっしょに『峻厳』さんがパッと来た。
伸ばした手はもう僕の胸に。
それと、枯れ枝の翼が。
あの、炎の槍が、出る。
僕の胸に穴を空けたあれだ。
「がぶっ!」
「……は?」
穴が空くのはやだから、かんだ。
枯れ枝の翼を。
かんで、振り回す。
口の中でみしみしという音がした。
炎の槍が出るけど、当たらないから気にしない。
振り回して、地面にぶつけて、ぶつけて、ぶつけて、転がして、ぶつけて、もう一回ぶつけようとしたところですっぽ抜けた。
枯れ枝の翼が折れちゃったみたいだ。
放り出された『峻厳』さんは地面にぶつかって、でも、すぐに飛び起きる。
「デミセフィラを嚙み千切るか! ああ、素晴らしい! そして、実にイイ! これはイイ痛みだ!」
『峻厳』さんは痛そうなのに、うれしそう。
折れた翼もすぐに元に戻っていく。
それといっしょに『峻厳』さんのまわりが熱くなる。
炎の球や、剣や、槍や、いろいろな形ができて、僕の方に飛んでくる。
「そうだそうだそうだそうだ! 人間の形なんて捨てろ! 人間の技なんていらない! それは人間の権利だ! 人間の生み出した叡智だ! その道は人間が極めるためにある! お前は違うだろう、ドラゴン! お前はもう持っている! そのままで最強だ! 最強はただ望み! 望みのまま振舞えばいい!」
よくわからない。
でも、炎が当たってもへいきなのはドラゴンだからだ。
ドラゴンっぽくなれば痛いのも、苦しいのも、つらいのも遠くなる。
そうだ。
この人に勝つには、ドラゴンじゃないとダメなんだ。
「があぁ」
だから、僕は僕の知っている一番強いのを思い出す。
戦い続けた昔。
知らない誰かに呼ばれた名前。
鮮血の暗黒竜
ずきんと胸が痛くなる。
どうしてだろう。
ドラゴンになれば、痛いなんてなくなるはずなのに。
自分の胸を見ても、何もない。
「どこを見ている! オレを見ろよ!」
また、パッと来たみたいだ。
後ろに出てきた『峻厳』さん。
三本の枯れ枝の翼が振るわれる。
受け止める。
ちょっと痛い。
腕と足としっぽ。
鱗が割れちゃった。
「さあ。戦うんだ、ドラゴン」