104 ドラゴンさん、穴があく
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爆発。
止まらない。
ううん。
止まっても、次から次にくる。
何度も何度も吹き飛ばされて、地面に足がつかなかった。
どんどん離されていく。
このままじゃいけない。
「があああああああああああああああああああああああああっ!!」
爆発には音。
声に魔力をのせてほえる。
それで爆発はちょっと遠くなって、その間にドラゴンシャフトを地面にさした。
「あれれ?」
何度か失敗。
地面がかんたんに吹き飛んでしまって、また飛ばされてしまう。
それも五回目で成功だ。
やっと止まった。
けど、かなり遠くまで来てしまった。
滝の部屋からここに来た時の扉がすぐそこじゃないか。
「みんな!」
急がないと!
赤い女の人――『峻厳』さんはまずい。
シアンが元気だったとしても、トントロとピートロがいっしょに戦ったとしても、アルトが手伝ってくれたとしても。
絶対に勝てない。
だって、あの感じは――!
「ワンパターンが過ぎるな、ドラゴン?」
声が、近い。
びっくりした時には顔がつかまれていた。
しっかりと見たら魔力の流れがあっちからこっち――パッと来たんだ!
「オレの愛を受け取れよ」
爆発。
近い。
顔に。
熱が。
音が。
ゆれ。
「――いったい!」
ドラゴンシャフト。
地面にさしてたのを思いっきり振り上げる。
なにか、かたいのにぶつかった感じがした。
「くうっ――いいな。だが、届かない」
また、爆発。
僕の顔をつかんだ手。
そこから起きているんだ。
目が、鼻が、口が熱い。
熱くて、苦しくて、つらい。
でも、ガマンできる!
マナを吸う。
熱い空気も吸い込んで、胸が痛いけどこれもガマン。
生命力で体を強化。
ぐぐぐっといっぱいの生命力を集めれば、体はがんじょうになって、痛いのもすぐに治るんだ!
ドラゴンシャフトに魔力を流す。
魔力剣。
これならどう?
「おっと、それは魅力的すぎる」
魔力剣をふるうと、顔をつかんでいた手がなくなった。
『峻厳』さんがどこかにパッと行ったらしい。
まわりの煙を音で吹き飛ばす。
それから魔力の流れを見たら……いた!
みんなの近くだ。
タノシソウナ笑顔。
『峻厳』さんが見ているのはシアンたち。
「止める!」
「止まらないよ。さあ、貴様らにはこれが次の試練だ」
魔力の流れ。
遠くの方。
一番最初の爆発があったところ。
アルトが飛んできた場所。
そこからたくさんの何かがやってくる。
僕が地面を蹴って、近寄る前にそれたちは着いていた。
『峻厳』さんの後ろに並んだ、たくさんの人『だった』モノ。
よごれたり、やぶれたりしているけど、いっしょの服と武器を持った人間の形。
中には腕とか足がなくなっているけど、それは人間だ。
人間の戦士だ。
「我が部下……?」
アルトがつぶやいた声が聞こえる。
あれはアルトの友達だったのかもしれない。
でも、もうちがう。
だって、もう生きていない。
けど、動く。
動いて武器を構える。
「生憎とオレはドラゴンの相手で手が足りないのでな。彼らに協力を願おう」
『死霊術……いえ、これは疑似的な魂魄の創生!? そんなのあたしの本体でも不可能なのに!』
ノクトがおどろいている。
よくわからないけど、大変な事なのは僕にもわかる。
「死者の軍勢を乗り越えて見せるがいい」
『峻厳』さんが腕を振るう。
それだけで動きが変わった。
いっきにシアンたちに襲いかかり始める。
動きは早くない。
でも、遅くもない。
すぐに囲まれてしまう。
ふらふらのシアンと、それを守りながらじゃトントロとピートロもあぶない!
「シアン! ノクト! トントロ! ピートロ!」
「ドラゴン。貴様の相手はオレだ」
目の前に『峻厳』さん。
そして、また爆発。
しかも、手がまた伸びてきて、つかまれる。
腕が潰されそうなぐらいに、強く。
「連れない真似、するなよ?」
「あ――があああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
腕が爆発した。
何度も、何度も、何度も。
どんどん強くなっている。
痛くて、泣きそうだ。
「ああ――苦しそうな顔もいい顔だ。もっとたくさんの表情をオレに見せてくれ」
にんまりと笑われて、頭の中が熱くなる。
いじわるしないでよ!
さっきの感じ。
なくしてしまう大切。
ぽっかりと空いた胸の奥のどこか。
今にも黒い穴に落ちてしまいそうで、もう戻れなくなってしまいそうで、僕はぶちんという音が鳴るのを聞いた。
そして、体が形を変える。
背中から翼。
コートを破って、広がる。
両足の爪が伸びて、鱗が。
くつがはじけて、なくなる。
頭に角。
牙が、伸びて。
目が、よく、見える。
マナが生命力と魔力に転換されて、握りつぶされそうだった腕から痛いのがなくなる。
「はっ、半人半竜か! そうでなくてはな!」
「じゃま、しないで!」
ドラゴンシャフトに魔力。
今までよりずっとずっと、いっぱいに、強く。
魔闘法――竜人撃:始光竜『辿り着く星の光』
ヘビ女を倒した一撃。
魂魄を砕く光の剣。
それを叩きつける。
「【拒絶】の盾」
けど、止められた。
枯れ枝の翼。
その一番上のやつに。
どんなに力を入れても剣が前に進まない。
「ああ。お前のそれは凄いんだろうなあ。目が覚めるような痛みをくれるだろうなあ。だが、それじゃあ楽しめない」
また、笑う。
この笑顔、いやだ。
気持ちは強いのに、あったかくない。
熱くて、ねちょってする。
「場所を変えようか。貴様がオレだけに集中できるように、な」
枯れ枝の翼。
まんなかのが僕の胸に先っちょを当てる。
そして。
「さあ、愛し合おう」
炎の槍が僕の胸をつらぬいた。
前から後ろに。
胸のまんなかあたり。
ぽっかりと大きな穴ができた。
「あ――」
爆発。
続けて、何度も。
体が、浮いて、飛んで、気がついた時はもう――。
僕は扉に叩きこまれて、まっくらな中に吹き飛ばされた。