103 ドラゴンさん、追い込めなかった
103
「レオン、今です!」
シアンがさけぶ。
なんのことだろう?
それより、シアンがつらそうで心配なんだけど……。
もう声も出すのも大変みたいで、青い顔のシアンはこまった顔をするだけだ。
『おバカ! そのクレイジーサイコパス女を倒すチャンスだって言ってるのよ! この子が無理して作った機会を無駄にしないの!』
ノクトにしゃーっと怒られて気づいた。
そういえば、赤い女の人はシアンの力で右腕が使えなくなっている。
すごい強い人だけど、腕が一本使えないなら、さっきより戦いやすいかも。
ただ、赤い女の人がいやだからケンカしていたんだと思っていたけど、そこまで考えてシアンは戦っていてくれたんだ。
さすが、頭がいい。
だったら、がんばったシアンをがっかりさせたくない。
「トントロ、ピートロ! シアンをお願い!」
僕は赤い女の人までひととび。
地面の近くを通り過ぎるように、低く跳ぶ。
そのままドラゴンシャフトを叩きつけた。
「てい!」
「ドラゴン相手に片腕は厳しいか」
赤い女の人が消えた。
パッといきなり。
ドラゴンシャフトが地面を叩いて、雪と土がブワッと巻き上がる。
その中をよく見る。
赤い女の人がいた場所。
そこからはなれた場所に向かって、魔力の流れた跡が残っている。
僕の前の方に歩いて五十歩ぐらいのところ。
「そっち!」
「早いな、ドラゴン!」
いつの間にかいた赤い女の人。
いる場所さえわかれば、僕ならすぐだ。
もう一回突撃。
赤い女の人がまた消えようとしている。
でも、今度はよくわからないけど、わかった。
赤い女の人は歩いたり飛んだりしなくても、すぐにちがう場所にいけるらしい。
そういえば、最初に出てきた時もそんな感じだった。
たぶん、これは魔法。
でも、魔法なら魔力の流れをちゃんと見ればわかる。
次にどこに行こうとしているのか。
「んんっ、と……えい!」
突撃の途中。
地面に足を突きさして体を止めて、赤い女の人が次に行こうとしている場所に向かって、もう一回飛びなおす。
その先にはまだ誰もいないけど、魔力の流れを見ればすぐに赤い女の人が来るのはわかる。
「てい!」
「瞬間移動まで見切るかよ!」
今度はドラゴンシャフトが何かにぶつかる。
地面じゃなくて、魔力の鎧だ。
でも、これじゃ赤い女の人は痛くない。
だから、痛くするまで叩く。
「ててててててててててててててててててててててててててててててててていっ!」
たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。たたく。
魔力の鎧にはじかれても、じょうずに流して反対側でたたけば止まらなくていい。
何度も、何度も、何度も。
くりかえしていくと、魔力の鎧がちょっとずつ弱くなっていくのがわかる。
これなら、あと少しで!
「ガンガンと……集中させない気か」
赤い女の人は苦い顔をしている。
あ、そういえば、パッとどこかに行かない。
なんか、ガンガンと叩いていたらできないみたいだ。
じゃあ、ちょうどいいからもっと叩こう。
「てててて――」
「貴様からの痛みは魅力的だが……これ以上の熱意を受け止めるに、今のままでは不足か」
赤い女の人がつぶやいたのいっしょだった。
魔力の鎧が爆発した。
今までの爆発よりもずっと強い。
魔法の、攻撃の爆発。
ドラゴンシャフトがはじき返されて、僕も吹き飛ばされてしまう。
あんまり痛くはなかったけど、びっくりした。
火のこながくっついてくるのをふりおとして、僕は首を傾けた。
「鎧、こわせてないよね?」
だから、赤い女の人も痛くなってない。
どこにいるんだろう?
また、パッとどこかにいっちゃったのかな?
魔力をよく見てみるけど……あれ、爆発の向こうにまだいるよ。
なら、もう一回突撃だ。
しっかり痛いのをおぼえてもらって、他の人にひどい事をしないようにさせないと。
「ふふふ。五百年後の世界は戦士も魔法使いも府抜けているかと思っていたが、なかなかどうして。悪くない」
その前に声が聞こえてきた。
なんとなく、足が止まる。
よくわからないけど、いやな感じがした。
なんだか、このまま突撃したら、いけないような気がする。
爆発でできた湯気と煙の向こうから赤い女の人がやってくる。
「最強の最後のドラゴンは人の身になりながらも、人の技術を身に着けた」
僕をちらりと見てくる赤い女の人。
ぬめっとした熱を感じた。
でも、すぐに別の方を見る。
「だが、それよりも魔導使いだ。魔導は魔法の劣化したものと思えば、使い手次第で見るべき点がある。しかも、最後は精霊の分御霊との合一による未来の前借か? ふふふ。実に良い。ああ、すばらしい」
右手は白く凍ったままで動かない。
魔力もあいかわらずすごい量。
見た感じも変わってない。
でも、なんかさっきまでとちがう、気がする。
その目は座り込んで、トントロに支えてもらっているシアンに向いている。
さっきまでの冷たい目じゃなくて、心からよろこんでいるような、熱のある目だ。
僕を見る目ともちょっとちがう。
この人の気持ちはなんというんだろう?
「ならば、さらなる試練をくれてやらねばな」
赤い女の人が動かせる方の手を上げる。
それといっしょにたくさんのマナが集まってきた。
でも、このマナはなんだろう?
どんどん魔力に転換されていくんだけど、なんだか普通じゃない。
魔力が魔法にならないで、そのまま形を持っていくような感じをしている。
「魔法じゃない……」
「ああ、そうだ。これは魔法じゃない。道標だ。とはいえ、オレのこれは紛い物だがな」
ほんの少し悲しげに、くやしげに、つらそうにつぶやく赤い女の人。
けど、すぐに笑顔の形に戻っていた。
「こいよ。【拒絶】・【残酷】・【貪欲】」
声にこたえるように魔力が完全に形になった。
赤い女の人。
その左肩からみっつ。
最初に浮かんだのは骨。
まるで、木の枝みたいな。
でも、どこか宝石みたいな。
ふしぎな三色の翼が広がっていく。
「オレこそが元『峻厳』の英雄」
枯れ枝の翼を広げて、たくさんの、今までよりももっとたくさんの魔力を辺りに広げながら、赤い女の人――『峻厳』は言う。
「英雄の座も、道標も死と共に失ったが、役割まで捨てはしない。存分に貴様らを導こう。立ちはだかる壁としてな」
とても、楽しそうに。
とても、うれしそうに。
「さあ、試練を続けよう」
その声といっしょに魔法が起きる。
いきなり。
よく見ていたのに、気づけないぐらいに。
魔力がそのまま魔法になったんだ。
僕は爆発に吹き飛ばされた。




