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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第三章 衣食住を整えるドラゴン
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102 ドラゴンさん、女の戦いを見守る

 102


 なんだか、僕の知らないバチバチが出てる。

 シアンと赤い人のまんなかぐらい。

 近づいたらひどい事になりそうな気がする。


 けど、シアンがあぶない。

 この赤い人は本当に強い。

 いくらシアンが魔導の天才でも勝てない。

 魔導と魔法がちがうからじゃなくて、ただ魔力の量がちがいすぎるから。


「シアン、ダメだよ! その人と戦っちゃ――」

「レオン、見ていてください! この女との勝負に逃げてはいけない! 天才のわたしの感性がそう告げています!」

「そうだ。黙って見ていろ、ドラゴン。人のドラゴンに勝手に名前を付けた愚か者め。オレの試練で身の程を知ってもらおう」


 うぅ。

 なんだか止められない感じだ。

 二人とも僕の方を見てもくれない。


 シアンは赤い人――女の人だったんだ――をにらんでいて、赤い女の人はシアンを冷たい目で見つめている。

 おたがいがおたがいしか見えてない。


 なんとか止められないか考えている間に、先に動いたのは赤い女の人。


「魔法使い、じゃないのだったか。さっきの奴らは魔導とか言ったか。ふん。時代が変われば技能も変わる、か」


 つぶやきながら手を上げる。

 その先に魔力が集まっていく。

 僕に向けられていた魔力と同じぐらい。

 あれが爆発したら、よわよわのシアンは大変な事になる!


「シアン!」

「――っ! 大丈夫です、レオン! あなたはわたしを信じて見ていてください! トントロとピートロは離れて!」

『あなたたち、行きなさい。ここにいてはシアンも本気で魔導を使えないわ』


 シアンも杖をかかげて、魔力を集めている。

 でも、やっぱり魔力の量がちがいすぎだ。

 シアンのそれが池だとしたら、赤い女の人のそれは川とか滝とか。


 トントロとピートロは迷っていたけど、ノクトに言われてはなれていく。

 残ったのはシアンとノクトだけ。

 赤い女の人はそれにひとつうなずいた。

 まるで、それが正解だというみたいに。


「おそらく、選ばれた者の技能である魔法を、素質さえあれば誰にでも使えるようにしたのが魔導だろう。さあ、それがただの劣化なのか、それとも進化だったのか。証明してみせろよ、魔導の天才とやら」


 赤い女の人の魔力がシアンに向かう。

 それはすぐに爆発という形となった。


領域エリア分散展開ブレイク-100・水属性ブルー――水精聖殿ウンディーネ!」


 シアンの魔導ができあがった。


 探知魔導にそっくりだけどちがう。

 広がったのは雨でも霧でもない。

 すっごいたくさんの水。

 シアンのまわりが上も下も前も横も後ろも、みんな水で埋められてしまった。


「薄いな」


 けど、足りない。

 赤い女の人が小さくつぶやいたのと、爆発が水を吹き飛ばしたのは同じタイミングだった。


 わかりきった結果だった。

 魔力量がちがうんだ。

 僕にもわかる事だから、シアンにだってわかっている。

 だから、次の魔導がもう準備できていた。


プラン多数展開マルチ/5・水属性ブルー――水面障壁アクアウォール!!」


 生まれたのは水の壁が五枚。

 この水の壁も爆発を受けるとつぎつぎと吹き飛ばされていく。

 けど、次の魔導の時間ができた。


再展開リピート再展開リピート再展開リピート再展開リピート再展開リピート再展開リピート再展開リピート再展開リピート再展開リピート再展開リピート!」


 くりかえされる言葉。

 それといっしょにできる魔導。

 今まで見た事がないぐらいシアンがいっぱい魔導を使っている。

 こんなにやってしまって魔力は足りるのか心配になるけど、魔導はちゃんと形になって現れた。


「――水面城塞アクアカーテン!」


 またできあがる水の壁。

 今度は数がずっと多くて、ぶあつくて、しっかりと爆発を受け止めてくれた。

 たくさんの水が吹き飛ばされて霧みたいなのが広がるけど、もう赤い女の人の爆発は止まっている。


「水域による強化に、同一魔導の連続起動。なるほど、体系作りによるメリットだな。ふん。試す価値はあり、か」

「シアン、まだだ!」


 でも、終わったわけじゃない。

 ううん。

 始まってもいなかった。


 赤い女の人の爆発。

 僕にも言っていたけど、小手調べ? でもないって。

 ただ、あの赤い女の人の魔力が、攻撃しようって気持ちに反応して形になっただけ。


 だから、次に来るのが本当の攻撃だ。


 赤い女の人が指先をシアンに向ける。

 その指先にいっぱいの魔力が集まって、かたまって、魔法となった。

 熱が広がる。

 水も雪も関係ない。

 まるで近くに炎があるみたい。


「次は熱いぞ?」


 赤い光がきらめく。


 それは周りの水域も、水の壁も、その奥にいたシアンも。


 まばたきの間に突き抜けて、ずっと遠くへと飛んでいく。

 ふせぐなんて、できていない。

 シアンはあれに直撃している。


 通り過ぎた光がどこかにぶつかったのか。

 遠くで大きな爆発が起きた。


「あ……」


 こんなの、シアンがたえられるわけがない!


 なんだかよくわからない気持ちが胸とおなかの間であばれる。

 信じて、でも、ダメで、大切がなくなったら、これは――これは……知っている。

『あの人』がいなくなった時と同じ!

 ぽっかりと空いた何かにたえられなくて、叫ぶ。


「シアン!」

「ええ、レオン。あなたのわたしは、ここにいますよ」


 叫んだ声に静かな声が返ってきた。


 水域と水の壁の向こう。

 しっかりと見てみる。

 そこには赤い光に貫かれたはずのシアンが笑っていた。


 たくさんの汗をかいて、息も上がっているけど、どこもケガをしていない?


 もう一度ちゃんと見てみたら、さっきの赤い光がシアンには届いていないのに気付いた。

 赤い光が通り抜けてできた穴を見ればわかる。

 まっすぐに飛んでいたように見えたけど、水域と水の壁を通るたびに、少しずつ、ほんの少しずつ曲がって、シアンの横を通り過ぎたんだ。


「ノクト!」

『一撃よ。もう、それしか残ってないわ』


 僕が考えている間にシアンは動いていた。

 足元にいたノクトに呼びかけて、水域と水の壁にできた穴の方に一歩ステップ。

 同時、ノクトの影が広がって、シアンを包み込んでいって、着地した時には黒猫になったシアンとノクトがいた。


 そして、穴の向こう。

 シアンたちが伸ばした手の先には赤い女の人。


「『止まりなさい!』」


 見えない風が吹いた。

 その風はさわった物を凍らせていく。


 風の流れが。

 水の壁が。

 水域が。

 雪が。


 止まる。

 静止する。

 動作を忘れ。

 生命を忘れる。


 静かに、白く、終わった場所で、ただ一人だけが赤くかがやいている。


「ふん。見事と言っておこう」


 赤い女の人は満足そうに笑う。


 シアンの魔導が限界だったのか。

 凍っていなかった水域や水の壁がくずれて、ただの水となって流れ落ちていく。

 黒猫のシアンもすぐに戻ってしまって、もう立っていられなかったのか座りこんでしまっていた。

 けど、シアンはいつもみたいに笑って、赤い女の人を指さす。


「腕一本、もらいましたよ」


 赤い女の人が伸ばしていた腕は、白く凍りついていた。

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